小川 莉奈④
莉奈視点です。
悠樹との婚約を破棄した翌日、私はさっそく颯斗君にラインを送った。
『颯斗君、報告があるの。 私ね? 婚約破棄したんだ』
送信してから、胸が高鳴った。
もう私達の関係を邪魔するものはいないんだから……これからは正々正々堂々とお付き合いすることができる。
颯斗君……早く私を褒めて?
そう思っていると……。
『えっ!? マジですか!? すげぇ驚きました。
まあプライベートなことなんで深くは聞きませんが、元気出してください。
颯斗君……私の事、心配してくれるんだ。
なんて優しい人なんだろう……。
やっぱり、颯斗君を選んだ私の決断は……間違っていなかったんだ。
『えっと……実は俺も、莉奈さんに伝えようと思っていたことがあるんです。
婚約破棄された後でするのもなんなんですけど……俺、近々結婚することにしたんです。 それで、結婚を機にレンタル彼氏をやめようと思ってます』
『えっ? 結婚!?』
『はい。 なんかすみません、こんなこと時に……』
胸のときめきで、体中が爆発しそうになった。
だってそうでしょう?
颯斗君が……私の颯斗君が、私に”プロポーズ”してくれたんだから!
『ううん、そんなの良いの! 気にしないで!!』
やっぱり颯斗君も同じ気持ちだったんだ。
婚約破棄した私を1人にしないようにと、結婚を申し込んでくれた。
私を一途に愛そうとして、レンタル彼氏をやめる決意まで固めていたなんて……。
嬉しさのあまり涙まで出ちゃった……。
『あとちょっとで結婚資金が溜まりそうなので、それまでもう少しレンタル彼氏は続けるつもりです』
『そうなんだ……じゃあ、私もたくさん”応援”しないとね!」
颯斗君が私達の将来のために、一生懸命お金を稼いでいる……。
だったら……それに協力するのが彼の妻となる私の務めよ。
『ハハハ! ありがとうございます。 莉奈さんみたいな”良い人”に会えて、マジで嬉しいっす! じゃあ、また!』
そこで私達のラインはストップした。
この日は興奮のあまりなかなか寝付けず、颯斗君との結婚式場や新婚旅行の計画を1人で立て始めていた。
颯斗君のことは誰よりも知っているんだから……彼が望む式も旅行内容も全てわかるわ。
それにしても、プロポーズは嬉しかったけど……できれば、直接口で言ってほしかったなぁ。
まあ、照れ屋な颯斗君らしくて可愛らしいけどね。
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その日を境に……私は颯斗君のために奔走するようになった。
結婚資金の足しにしてもらおうと、デート中にブランドものの時計や財布、コートを颯斗君に貢いだ
直接お金を渡した方が手っ取り早いんだけど……金銭の受け取りはサービスにおけるルール上、禁止されている。
でも、貢ぎ物ならいくらでも渡すことができる。
「いや、莉奈さん。 色々買ってもらえるのは嬉しいんスけど、この時計とかアクセサリーとかめちゃくちゃしますよ? マジで大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ」
颯斗君には笑顔でそう返したが……実際、私の経済状況はかなりやばい。
颯斗君に貢ぎすぎたせいで貯金や給料が生活費にまで回らなくなってきている。
だけど、颯斗君への貢ぎ物をやめる訳にはいかないため……私は今の状態を維持するため、金融会社から借金をすることにした。
私達の将来のために頑張らないと……。
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数週間後……私はいつものカフェで颯斗君を待っていた。
今日もいつものデート……。
だけど、私はほかの客とは違う。
私は颯斗君の将来の花嫁……それ以外の客は言っちゃなんだけど、私達の結婚資金を貢いでもらうだけの働きアリだ。
まあ別に良いでしょう?
私の颯斗君とデートさせてあげたんだから……お金くらい払ってもらわないと。
「莉奈さん、お待たせしました」
「あっ、颯斗君! 待ってたよ」
待ち合わせ時間ピッタリに颯斗君はカフェに現れた。
相変わらず彼の笑顔は太陽のように温かい……これももうすぐ、私だけのものになるんだ。
「莉奈さん……話があります」
「なに?」
運ばれたコーヒーを一口すすると、颯斗君は深刻な顔を浮かべて私の目を見た。
もしかして、結婚資金が集まったの?
私達……結婚できるの?
そんな期待に胸を膨らませていたその時……。
「俺……彼女にプロポーズしたんです」
「……え?」
「付き合っていた彼女に、正式にプロポーズしました。 来月、入籍する予定です」
「はっ? えっ? ちょっちょっと待って……彼女って何? なんの話?」
「俺の彼女ですよ。 3年付き合っている彼女がいるって話したじゃないですか」
私は颯斗君の言葉が理解できなかった。
だって彼は私を選んだんだから……今付き合っている彼女とは別れるはず。
それなのに……プロポーズ?
「なっ何を言ってるの? 颯斗君、私にプロポーズしてくれたじゃない!」
「はぁ? なんの話ですか? 俺がいつ、莉奈さんにプロポーズしたんスか!?」
「私が婚約破棄を話した時よ! ラインで私に結婚を申し込んだでしょう!?」
「はぁ!? あれはただの近況報告じゃないですか!!
莉奈さん、俺の常連さんだし……レンタル彼氏をやめるから、報告した方が良いかなと思って……」
「きっ近況報告?」
「ほらっ! よく見てください!」
颯斗君は自分のスマホを操作し、私に突き付けてきた。
そこには、私と颯斗君のラインの履歴が表示されていた。
そして、颯斗君に言われるがまま……あの時の会話の内容を読み返した。
でも何度見返しても……私への遠回しのプロポーズにしか見えない。
なのに颯斗君は……。
「分かったでしょう? 俺、莉奈さんにプロポーズなんてしてません!」
こんな明確な証拠があるにも関わらず、私にプロポーズなんてしていないと主張し続けた。
なんでそんなこと言うの?
私達は愛し合っていたのに。
…………。
「もうはっきりと言いますけど、俺はレンタル彼氏です。 莉奈さんとの関係は、あくまでもサービス上での関係です」
そうか……そういうことか……。
「俺、もう帰ります。 今日のサービス料は返金しますから……それじゃあ」
私は全てを理解した。
颯斗君は……二股していたんだ。
私にプロポーズしたものの、今カノが惜しくなって私を捨てようとしてるんだ!
ひどい……私は颯斗君のためにたくさん貢いだのに……。
あなたのために……借金までしたのに……ひどすぎる!!
「……ざけんな」
「えっ?」
「ふざけんな! この……結婚詐欺師ぃぃぃ!!」
私は怒りのまま、私を捨てて立ち去ろうとする颯斗君に掴みかかった。
「私から巻き上げたお金で浮気相手と結婚するつもりだったんでしょう!? 最初からそのつもりで私を騙したんでしょう!?」
「なっ何言って……落ち着いて……」
「黙れっ! 黙れぇぇぇ!!
許せない……。
私を裏切った颯斗君も……私から颯斗君を寝取ったクズ女も……。
こんな奴らを結婚させるもんか……幸せにさせるもんか……。
私がみんな……めちゃくちゃにしてやるぅぅぅ!!
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それから何がどうなったのか、よく覚えていない。
気が付くと私は、警察署で取り調べを受けていた。
警官が言うには、カフェの中で暴れまわる私を周囲の店員達が取り押さえ、客が通報した警察に突き出されたらしい。
私を裏切った颯斗君は数ヵ所切り傷傷や軽い打撲を負っただけで、死んではいないらしい。
カフェも私が暴れたせいで、店内はめちゃくちゃになったとか。
まあ後者はどうでもいい。
今、重要なのは……あの結婚詐欺師がまだのうのうと生きている事実だ。
「颯斗君が私を騙したんです! 結婚をちらつかせて、私からお金を巻き上げたんです。 あの男を結婚詐欺で捕まえてください!」
私は取り調べを担当している警察官、颯斗君のこれまでの詐欺行為を洗いざらい話した。
プロポーズのラインや買い与えたブランド品の明細も見せた。
証拠は十分揃っていたはずだった……なのに。
「残念ですが……このラインの内容ではプロポーズを立証するのは厳しいと思います。
それにブランド品も、あなたがサービス中に買い与えたものですよね?
はっきり言って、詐欺罪の適用は難しいです」
「そんな……納得できません。 彼は私を騙したんですよ!?」
「小川さん。 今回の件で、相手方から接近禁止の申請が出ています。今後篠原さんへの接触は控えてください。
それと……これまであなたから頂いたブランド品は全て返品しますので、もう関わらないで下さいと、篠原さんから伝言を預かりました」
「そんな……」
”接近禁止”
それは法を盾にした明確な拒絶……それが氷水のように頭に降り注いだ。
颯斗君は私を裏切って今カノとの将来を選んだ。
そしてそんな彼らを、警察も法も裁いてくれない。
なんで?
どうして?
どいつこいつも……頭のネジが緩んでるんじゃないの!?
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幸いというべきか、私は逮捕されなかった。
だけど後日……颯斗君の治療費とカフェからの私が壊したグラスやガラス等の損害賠償請求が届いた。
それらの支払いは、颯斗君から返品されたブランド品を売ったお金と残りの貯金を全て使い切ることでなんとかなった。
だけどもう……私には何も残っていない。
お金も……愛も……夢も……。
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「……」
颯斗君に捨てられた私は、一人でアパートの床に座って涙を流していた。
悔しい……悔しくてたまらない。
愛していたのに……結婚しようと本気で思っていたのに……颯斗君は私の心を裏切った。
しかも、颯斗君がレンタル彼氏で稼いだ結婚資金は彼がレンタル彼氏をやめた時点で予想を超える金額にまで積み上がっていたと風の噂で聞いた。
つまり、私が貢いだお金を返しても……2人にはなんのダメージもないということだ。
「ちくしょう!!」
やり場のない怒りを少しでも発散したいがために、そばにあったエアコンのリモコンを投げつけてしまった
パリンッ!
私の投げたリモコンは部屋の隅の棚に立てていた写真立てに当たり、写真立ては衝撃で棚から落ちてしまった。
「これって……」
棚から落ちた写真立て拾いあげると……そこには懐かしく感じる悠樹の姿があった。
これは、悠樹にプロポーズされたあの日……記念に2人で取ったツーショット写真だ。
「悠樹……」
あどけない笑顔……優しい目……。
写真を見ていると……ふと、悠樹との日々が頭に蘇る。
悠樹はいつでも私のことを考えていた……。
楽しい時も……つらい時も……いつだってそばにいてくれた。
2人で過ごした時間は本当にキラキラしていた。
悠樹は私にとって……誰よりも大切な人だった。
なのに私は……颯斗君を取った。
”もしかして……私が悠樹を裏切った?”
”悠樹の愛を捨ててしまった?”
”悠樹との将来を自分で潰してしまった?”
そんな罪悪感が一瞬、頭を過ぎったが……私は首を振ってすぐに否定した。
違う……裏切ってなんかいない。
全部、颯斗君のせいだ!!
颯斗君が私を騙したせいで……私は悠樹のことがわからなくなってしまったんだ。
颯斗君さえいなければ……今頃私は悠樹と結婚して、幸せな人生を送れたはずだ。
「悠樹……」
私はようやく目が覚めた。
私が愛すべき人は悠樹だと……。
今まで悪い夢を見ていただけなんだと……。
私はたまらず悠樹にラインを送ったが……すでにラインはブロックされていて、電話も着信拒否されていた。
私を失ったばかりに……悠樹は塞ぎ込んでしまっているんだわ。
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「悠樹、待っててね!」
私は悠樹との人生をやり直すべく、彼のアパートへと走った。
予想より長くなったので区切ります。
10話構成の予定でしたが、11話構成に変更します。
次話も莉奈視点です。




