篠原 颯斗
颯斗視点です。
俺……篠原 颯斗には、三つの鉄則がある。
一つ、客の話はよく聞く。
二つ、踏み込みすぎない。
三つ、絶対に本気にさせない。
金目的でレンタル彼氏を始めて一年半。
俺にこの世界を紹介してくれた先輩から教えてもらったこの鉄則を守り続けてきたおかげで、俺はトラブルなく”仕事”を続けてこられた。
俺にとってレンタル彼氏ほど、簡単に金をもらえる健全な仕事はない。
デートを申し込んできた女に愛想よく振舞っているだけで、簡単に金が手に入る。
この整った顔とルックス……そして俺の最も自慢とするリップサービス。
女が男に求める全てを兼ね備えた俺に……落とせない女はいない。
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とまあ、ナンパなことを言ってしまったが……俺が客に求めているものはあくまで金だけ。
間違っても客とマジになることはない。
マジになればもらえる金こそ増えるだろうが……その分、面倒事も多くなる。
客のほとんどは俺との関係をサービスとして線引きしているが……中にはその一線を越えたがる輩もいるからな。
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「篠原です、よろしくお願いします」
「あ……よろしくお願いします」
新たに俺の金づるに加わった小川莉奈……。
顔は平凡でスタイルや性格はスカスカ。
話もつまらないし……これならサルと話していた方がマシ。
まあ、どんなつまらない女でも俺にとっては金のなる木。
俺はいつも通り、理想の彼氏の仮面をかぶってサービスするだけだ。
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女から金を引き出すには時間が掛かる。
初日のデートで女に好印象を抱かせ、帰宅後に「また会いたいです」的なラインをさらっと送ることで女にまたデートを申し込ませるように誘導する。
そして俺とのデートを重ねていき……警戒心と共に財布のひもを緩くしていき、女が完全に気を許した瞬間、服やアクセサリーと言った金目の物をねだるんだ。
手間がかかって正直メンドくせぇが、その分メリットはそこそこでかい。
特に莉奈みたいな経験の少ない、かまってちゃんな女は落ちるのが早くて楽だ。
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『またデートしてくれませんか?』
そして初日デートの翌日、莉奈からデートの申し込みが届いた。
「へへへ……ちょろいちょろい」
俺は確かな手ごたえを感じながら、デートを承諾した。
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「また来てくれたんですね」
二週間後……俺は莉奈との2回目のデートに赴いた。
待ち合わせ場所に現れた莉奈は、前回より少しだけ表情が明るかった。
しかも着ている服は前回のデートで買った服だ。
「うん。また来ちゃった」
にこやかに平然を装っていたが……その言動から俺とのデートへの期待がにじみ出ているのが目に見えるようだ。
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2回目のデートも買い物をして、カフェでお茶をしながら他愛もない話をした。
この手の女はこれだけで満足してくれるから出費が安くて助かる。
「それでね? 悠樹がひどいんだよ……」
莉奈は前回のデートよりも口数がかなり増えた。
会話が増えた分……婚約者の愚痴なども含まれてダルいが、俺はレンタル彼氏の顔を崩さずにサービスを続けた。
これも全て……金のためだ。
「颯斗君って、彼女いるの?」
苦行に耐えていた最中、莉奈が面倒な質問を切りこんできた。
回答はイエスだが……それを言うと客は少し冷めてしまう。
全部が全部と言う訳じゃないが……レンタル彼氏=アイドルという訳のわからない印象が客達の間で根付いているらしい。
かと言ってノーと言ってしまえば、レンタル彼氏の境界線を越えようとするバカが出かねる。
「いますよ」
俺は素直に返答することにした。
サービスとはいえ何人もの女とデートを繰り返してきた俺だが……心は彼女にだけある。
彼女とは3年の付き合いで、お互いに結婚を意識し始めていた。
だが元々、中卒でフリーターだった俺には結婚式どころか結婚指輪さえ買う余裕もない。
彼女本人は別に良いと言ってくれてはいたが……指輪すらないというのはさすがにきつい。
そのことを先輩に相談した結果……俺は昔、遊び人だったスキルを活かしてレンタル彼氏になることを決意した。
遊び人と言っても、今は彼女一筋なのはマジだ。
もちろん彼女にはレンタル彼氏になったことは伝えている。
彼女のことを想って客とはプラトニックな関係を常に維持しつづけているが、罪悪感は否めない。
客に貢がせておいて罪悪感?……と思うだろうが、今の俺にとって大事なのは彼女との結婚資金を稼ぐこと。
そのためなら……無情にでもクズにでもなる。
「そっか……」
ボソッと莉奈の口から漏れた言葉……まさか冷められたか?
「なんか、安心した」
「安心?」
「だって颯斗君に彼女がいるなら……私がここにいても、罪悪感が少なくて済むから」
「そっそうですね……」
なんだ……そんなことか。
焦らすなよ!
次話は莉奈視点です。




