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君に捧げた六年間 ~婚約者は「レンタル彼氏だから浮気じゃない」と俺を捨てた。だが、俺はレンタル彼女と幸せになる~  作者: panpan


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小川 莉奈③

莉奈視点です。

 

 ふと気が付くと……もう五回目のデートを楽しんでいた。

気晴らしのつもりで始めた颯斗君とのデート……それが今や息をするように自然と彼の隣にいる。

離れていても……私の心は颯斗君で満ちている。

颯斗君のことばかり考えてしまう……。

それがダメなことはわかっている、

私には六年間一緒にいた悠樹が……婚約までした悠樹がいる。

でもね? 

颯斗君と一緒にいる時間だけ……私は私でいられる。

もう彼がいない人生なんて考えたくもない。

私には……颯斗君が必要なんだ。

そして颯斗君も……”私と同じ”想いを抱いている。

告白された訳じゃないけど……私にはわかる。

私を見つめるあのきれいな目……私に向ける温かな笑顔……明らかに私を女として意識している。

私がほしいと心の中で訴えているんだ。

でもお互いにパートナーがいることと、レンタル彼氏という立場上……颯斗君は私への想いを封じて身を引こうとしている。

それがきっと……人として正しい判断なんだろう。

だけど……本当にそれで良いの?

私達は相思相愛だよ?

いけないことだからって……お互いに惹かれ合っている2人が離れてしまっても良いの?

いや……そんなのいやだ。


-------------------------------


「じゃあ莉奈さん。 今日も楽しかったです」


 その日のデートの帰り道……駅前の改札前で颯斗君は私に別れを告げた。

私に向けて来るその眩しい笑顔に……寂しさが漂っているように見える。


「ねえ……もう少しだけ、一緒にいてくれない?」


 私は気が付くと、颯斗君の腕を掴んで彼を引き留めていた。


「えっ? でも今日はもう遅いですし……」


「じゃあ……私のアパートに来ない?」


 自分でも驚くくらい、すんなりと大胆な言葉が出た。


「いや、それは……さすがに無理ですよ」


「なんで? 延長料金、ちゃんと払うから」


「料金の問題じゃないです。 莉奈さんには婚約者さんがいるでしょう?

いくらレンタル彼氏だからって、家にあげるのは……さすがにダメですよ。 

それに俺にも彼女がいますし……」

 

 ”婚約者”


 その言葉が胸に刺さり……心の痛みとなって警告音を鳴らした。


「そう……だよね。 ごめん、変なこと言って」


 私は謝罪を述べつつ手を離した。


「いっいや……気にしてませんから。 それじゃあ……」


 颯斗君は少し申し訳なさそうな顔で会釈した後、私に背を向けて改札を通って行った。


「……」


 私の手にはまだ颯斗君を掴んだ温もりが残っている。

私が颯斗君の手を離したのは、あのまま一線を越えたら浮気なると思ったからだ。

だけどはっきり言って……そこには悠樹への罪悪感は微塵もなかった。

ただ私と颯斗君の関係に……浮気なんて汚れをつけたくなかっただけだ。


-------------------------------


 それからアパートに帰ったが、私は電気もつけないまま、暗い部屋の中でソファに座って膝を抱える。

 何もせずにいると、無意識に颯斗君の顔が浮かぶ。

あの笑顔……甘い声……隣を歩いてくれる時の安心感……全て鮮明に思い出せる。


「悠樹……」


 心に残ったわずかな罪悪感からか、悠樹の顔も浮かべようとした。

だけどなぜか……悠樹の顔はひどくかすんで見えた。

目を閉じるだけで思い出せた悠樹と過ごした日々も……今はシャボン玉のように記憶の底から浮かんではパチンと消えるだけ。


「私……どうしちゃったんだろう」


 声に出したら、余計に怖くなった。


-------------------------------


『明日、なんとか時間作れそうだ。 久しぶりに2人で飯食べに行こうぜ。 お互い独身生活最後の日なんだから、パァーとやろう!』


 翌朝、悠樹からラインが届いた。

普段なら飛び上がるほど嬉しかったはずなのに……私の指は、既読をつけたまま止まった。


「そうか……結婚式、明後日だったな」


 あれだけ待ち焦がれていた結婚式なのに……怖いほど気持ちが高ぶらない。

いやそもそも結婚式自体、悠樹に言われるまで忘れていた。


「このまま結婚して……私、幸せになれるの?」


 颯斗君と出会った後の時から心の中で生まれた小さな迷い……彼とのデートを重ねていく内に大きくなり、やがて悠樹に対する不信感へと姿を変えてしまった。


-------------------------------


 その夜……私は悠樹に電話をかけた。


「莉奈? どうした、珍しいな」


 出てくれるかどうかは賭けだったけど、悠樹は出てくれた。 

スマホから流れて来る声だけで、悠樹が今どれほど疲弊しきっているか手に取るようにわかる。


「悠樹……話があるの」


「ん? どうした」

 悠樹が私のために頑張っているのはわかっている。

それでも私は……。


「婚約……やめたい」


『……は?』


「悠樹との婚約をやめたいの」

 

『何を……言ってるんだ?』


「ごめん。もう決めたから」


『待ってくれ、莉奈! どういう——』


 悠樹の言葉が終わる前に私は電話を切った。

ごめんね?……悠樹。

もう何を言われたって……この気持ちは変わらないの。

私の中に……もう悠樹はいない。

私は……颯斗君のものなんだ。

次話は悠樹視点です。

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