小川 莉奈①
莉奈視点です。
私の名前は小川莉奈、二十四歳。
一ヶ月前に6年間交際していた田中悠樹と婚約した。
すごく幸せだった……年甲斐もなくはしゃぎたくなった。
だけどその日以来……悠樹は仕事に精を出すようになり、私達は少し疎遠になった。
「きてない……」
またスマホの画面を見てしまった……これで何度目だろう?
悠樹から送られた最後のメッセージは三日前……。
『今日も遅くなる。先に寝てて』
という短い一文。
それ以降は既読こそつくが、返信はない。
”どうして?”
好きな人にプロポーズされて綺麗な指輪までもらった。
職場の同僚に見せたらおめでとうと言ってくれた。
お母さんも息子のように可愛がっていた悠樹と私が結婚することを喜んでいた。
幸せなはずなのに……なんでこんなに胸がざわざわするんだろう?
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春の夜……私はアパートの一室で一人寂しく膝を抱えていた。
テレビをつけても頭に入って来ず、料理をしても一人だと味気なく感じる。
「悠樹……」
寂しさと不安が悠樹の名と共に漏れてしまう。
もちろん、悠樹が頑張っているのはわかってる。
私たちの将来のために、必死に働いてくれているのもわかってる。
今はただ……我慢の時。
結婚までそう遠くない……それまでの辛抱だ。
頭ではそう理解している……。
「ねえ、悠樹。 私、今日も一人だよ?」
理解しているのに……この胸を締め付けるものは何?
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翌日の昼休み。
私は会社近くのカフェで、高校からの親友である橋本 美咲と向かい合っていた。
美咲は恋愛経験が豊富な……いわゆる”話が早い”タイプだ。
軽い感じではあるけれど……悩みがある時いつでも相談に乗ってくれる優しい子だ。
「それで? 悠樹くんとまた会えてないの?」
「うん……。この一ヶ月、ちゃんとご飯食べたの二回だけ」
「二回!? 婚約したばっかりなのに?」
信じられないと言わんばかりに美咲が眉を吊り上げた。
「仕方ないじゃん、お金貯めなきゃいけないんだから」
なんてフォローしたのの……我ながら言い訳じみているように思えた。
悠樹の代わりに弁護しているのか……自分を納得させているのか……なんかもうよくわからない。
「莉奈さ……我慢しすぎじゃない?」
見透かしたような目で私を見る美咲の口から出た言葉に……私の胸は一瞬、高鳴った。
「我慢って……」
「婚約したからって、青春終わりにする必要ないじゃん。莉奈だってまだ二十四でしょ」
”青春”
その言葉が、胸のどこかに引っかかった。
昔は口のするのも恥ずかしい言葉だったけど……いま聞くと、懐かしくも心に響く素敵な言葉に思える。
「でも他に男の子と遊ぶとか、さすがに悠樹に悪いし……」
「誰も浮気しろなんて言ってないじゃん」
美咲は笑いながらポケットからスマホを取り出し、なにやら操作し始めた。
「ねえ、レンタル彼氏って知ってる?」
「……レンタル彼氏?」
「そう。お金払ってデートしてくれるサービス。買い物付き合ってもらったり、ご飯行ったり。ホストとは違うし、体の関係とかも一切ないから安心だよ」
「知ってはいるけど、レンタル彼氏ってなんか怪しくない?」
「全然怪しくないって。私も一回使ったことあるけど、普通に楽しかったよ? 気晴らしにはなるし、普段なかなか出会えないようなイケメン君とデートできるから、良い刺激にもなるよ?」
美咲が操作していたスマホを私に差し出してくる。
画面には、爽やかな笑顔の男性たちのプロフィールが並んでいた。
「レンタル彼氏なら浮気にはならないから、気軽に男の子と遊べるでしょ?
莉奈だって息抜きくらいしないと……体、壊しちゃうよ?」
「……」
私はスマホを見つめたまま、何も言えなかった。
浮気にはならない。
気軽に、イケメンと息抜きができる。
寂しさと不安でいっぱいだった私にとって、美咲の言葉はどれも甘く……するりと胸の中に入ってきた。
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その夜……私はまた一人でアパートにいた。
スマホを手に取り、悠樹にラインを送る。
『今日、会えないかな?』
既読がついたのは、二時間後だった。
『ごめん、今日も終電になりそう。また今度な』
『そうなんだ……わかった。 仕事頑張ってね』
『本当にごめん。 今度の日曜日にはなんとか時間作るから』
『うん……』
仕方ない……。
わかってはいるけど……悠樹からのラインがどこか冷たく感じてしまう。
「はぁ……」
溜息をつきながらあおむけに寝転び、気分治しにまたスマホを操作する。
「……」
ふと、昼休みに美咲から送られてきたレンタル彼氏アプリのリンクが目に留まった。
「レンタル彼氏……」
ダウンロードするつもりなんてなかった……悠樹以外の男に興味がある訳でもなかった。
でも気がついたら……私はリンクをタップしていた。
このどうしようもない心の寒さから逃れたいがために……。
次話も莉奈視点です。 修正だけでも結構骨が折れますね。




