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ぜんうさ。  作者: 月白
9/10

9 贈想


 放課後。


 紅葉がスマホを見ながら、小さく声を上げた。


「見てこれ」


 渚が身を乗り出す。


「なになに?」


 画面には……猫がじゃれている動画。


「かわいい〜!」


「でしょ?」


「猫は何でこんなにも可愛いのか……ほんと癒される」


「あの子ら絶対に自分が可愛いって自覚してるよね(笑)」


 少し遅れて、陽向も覗き込む。


「お?猫か。確かにかわいいけど…俺は断然犬派だな!」


「いやいや、猫一択でしょ」


「犬は芸ができるし、賢いじゃん!」


「猫だって鍋に入るよ」


「犬は……」


「いやいや猫は……」


 軽く言い合いになりながら、二人は笑っている。


「こはるは?」


 そんな様子を見ている渚が、こはるに話を振る。


「え……?」


 少しだけ考えて、


「私は……犬、猫より、うさぎですかね?」


 その言葉に、


「お、意外」


 犬猫戦争をしていた陽向が笑う。


 雪斗も少しびっくりしたのか、視線を持っていた本からこはるへ移した。


「意外と知られてないけど、うさぎって結構感情表現豊かだしな!」


「え、そうなの?」


 紅葉が興味を持つ。


「って……昔、雪斗からめっちゃ聞かされた」


「……そんな言ってないだろ」


 雪斗が少しだけ顔をしかめる。


「でも、実際飼ってみて初めて分かることも多いよ」


 記憶を遡っているのか、視線を上に向ける雪斗。


「嬉しいと変なジャンプしたり……怒ると足鳴らしたりするよ」


 そう言い、笑いながら足で床をタンッと鳴らしてみせた。


 こはるは、その音に少しだけびっくりしたが、雪斗がうさぎの話を楽しそうにしているのが嬉しく、少しだけ目を細めた。


「へぇ〜」


「って言うか、雪斗うさぎ飼ってたんだね。」


「ん〜…昔ね……」


 こはるの胸が締め付けられた。


「じゃあ雪斗もうさぎ派?」


 紅葉が軽く聞く。


「……いや」


 ほんの一瞬だけ、間が空く。


「……今は特に……」


 視線を逸らしながら、続ける。


「……好きとか嫌いとか、そういうのはないかな」


(……)


 帰り支度をしていたこはるの手は、止まっていた。



 廊下。


「こはるはさ」


 紅葉が何気なく言う。


「なんでうさぎ好きなの?」


「え……?」


 少しだけ考える。


「そうですね〜……」


 言葉を探すように、ゆっくりと続ける。


「ちゃんと、見てるんですよ」


 少しだけ悲しそうに笑うこはる。


「ん?」


「一緒にいてくれる人のことを……ちゃんと見てるんです」


「……」


「嬉しいときとか、悲しいときも」


「……ちゃんと分かってて」


 少しだけ視線を落とす。


「声は出せないですけど……」


「その分……」


「行動で伝えようとしてる、というか……」


「へぇ……」


 紅葉は少しだけ目を細める。


「こはるも詳しいね。昔うさぎ飼ってたの?」


「飼ったことないですよ」


 笑って答えるこはる。


「その割には、めっちゃうさぎの気持ちをわかってるみたいだったからさ」


「あ、あははは〜。ただ好きなだけですよ〜」


 その反応に笑う紅葉。


 少しだけ歩いて、


「でも」


 ぽつりと続ける。


「雪斗も、うさぎに詳しかったよね」


「あれだけ詳しくて、好きじゃ無いわけないでしょ(笑)」


 紅葉の言葉に、心が少し軽くなる。


「そうですね…!」


 こはるは小さく頷き、笑顔で答えた。


「紅葉〜こはる〜早く帰ろ〜!」


 下駄箱で叫ぶ渚。


「今行くー」


 紅葉とこはるは足早に渚の元へ向かう。



「あ、すみません……少し寄るところがあるので、ここで失礼します!」


 軽く会釈をし、いつもとは違う場所でみんなと別れるこはる。


 さっきの紅葉の言葉を思い出しながら、目的の場所に寄り、帰宅をするこはるであった。



 夜。


 甘い匂いが広がる部屋の中で、こはるは溶かしたチョコレートをじっと見つめる。


「……」


 ゆっくりと、型に流し込む。


(……うさぎ)


 頭の中に、あの言葉が浮かぶ。


「……」


 手が、ほんの少しだけ止まる。


(……好きとか嫌いとか、そういうのはないかな)


 胸の奥が、少しだけ重くなる。


「……」


 でも、


 もう一度、チョコを流し込む。


(……それでも)


(嬉しいと変なジャンプしたり……怒ると足鳴らしたりする)


 手は止まらなかった。


 型の中で、少しずつ形になっていく。


 丸い体。


 小さな耳。


 その形を見て、ほんの少しだけ目を細める。


(……)


 少しだけ迷う。


 でも、


 手は止まらなかった。


「……よし」


 小さく呟いて、そっと型から外す。


 少しだけいびつな形。


(やっとできた…!)


 犬や猫の形をしたチョコの隣。


 少しだけ数の多くなってしまった別の形のチョコを、大切そうにラッピングしていく。


(雪斗くん、喜んでくれるかな……)



 次の日の朝。


「どうぞ」


 こはるが、小さな袋を差し出す。


「え、なにこれ?」


「バレンタインは……明後日ですけど、学校がお休みなので、先にお渡ししようかなと(笑)」


「すごーい!」


「ありがとう。あ、だから昨日途中で帰ったんだ」


「みんなに内緒にしたくて」


「食べていい?朝ごはん食べてないからお腹すいちゃった(笑)」


「初めて作ったので、見た目とか味とか……ちょっと変かもしれないですけど、それでもよければ!」


 早速中を開ける二人。


「え…これで初めて作ったとかやば……めっちゃ可愛くない?」


「猫かな?可愛い。食べるの勿体無いね」


 大絶賛の二人。


「お、なになに、俺のもあったりするの?」


 陽向がひょっこり現れた。


「あんたのは無いよ。これは私たちの!」


 渚は言うが、こはるはちゃんと用意していた。


「陽向君のもちゃんとありますよ」


 陽向にも渡す。


「やった!ありがと!」


「こんな奴にあげなくてもいいのに!」


「こはるちゃんは優しいんだよ!って。こっちは犬じゃん!すげー!」


 少し照れくさそうに笑うこはる。


(……あと、一つ)


 手の中に残った、小さな袋。


 陽向に続き、雪斗も教室に入ってきた。


 自分の席の周りで騒いでいるみんなを見て、


「おはよ〜って……朝から賑やかだな」


「おはよー」


「うっす」


「見てみてこれやばく無い!?こはるが初めて作ったんだって。しかもチョーうまい(笑)」


 次々とチョコを頬張る渚。


「おぉ…すごいじゃん!」


 ゆっくりと、雪斗の方を見る。


「あの!」


「ん?」


「雪斗くんは……」


 ほんの少しだけ、間を置いて、


 袋を差し出す。


「こっちを!」


「?」


 受け取った雪斗が、中を見る。


「……うさぎ?」


「はい。」


 小さく頷く。


「うさぎのチョコです!」


「バニーケーキも好きだと言っていたので!耳が折れないように作るの大変だったんですからね(笑)」


 雪斗は、少しだけそのチョコを見つめて――


「……ありがと」


 短く答えた。



 放課後。


「うまっ!」


 陽向の声が響く。


「いいな〜私もう食べちゃった。それちょうだい」


「やらねーよ!」


「でも初めて作ったとは思えない出来だよな。甘さもちょうどいいし」


 陽向と紅葉も笑いながら食べている。


「よかったぁ……」


 こはるは、小さく息をついた。


 ふと、視線が動く。


 雪斗の方を見る。


「……」


 袋から取り出したチョコ。


 その中に、小さなうさぎの形。


 雪斗はそれを見つめる。


「なんか……出来が良すぎて食べるのちょっと勿体無いね(笑)」


 と言いながら、一口かじる。


「……どう……ですか?」


 思わず、聞いてしまう。


「うん、おいしい…」


「……そうですか」


 こはるは、優しく笑って小さく頷く。


(……よかった)


 それだけで、十分だった。



 こはる達が先に教室を出ていく。


 静かになった教室。


「……」


 雪斗は、手の中のチョコを見る。


 少しだけ、指でなぞる。


「……」


 ほんのわずかに息を吐いて、


 もう一口かじる。


 何も言わないまま、静かに食べ終えた。



 帰り道。


「……」


 夜空に浮かぶ、細い三日月を眺めるこはるが、


 ふっと、小さく笑う。


(……難しいなぁ)


 そう呟きながら、小さくステップを踏むこはるであった。

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