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ぜんうさ。  作者: 月白
8/11

8 初甘


「月城さん何食べる?」


 振り返った渚が、メニューが載っているタブレットを見せてきた。


 人と並んで歩くのって、こんなに賑やかなんだ。


 こはるは少しだけ目を細めながら、差し出されたタブレットを受け取った。


「えっと……」


 色とりどりのケーキに、視線が泳ぐ。


(すごい……)


「迷ってるなら……これは?新商品のやつ!」


「バスクチーズケーキ」


 横から紅葉が指差す。


「あ、それそれ!絶対うまいやつ!」


 陽向が身を乗り出した。


「じゃあ俺、そのチーズケーキで!」


「俺もそれでいいかな」


 雪斗が短く答える。


「はーい、了解〜」


 渚がタブレットを操作する。


「ちょっとトイレ行ってくるから注文お願いね!」


「あ、俺も行く」


 陽向と雪斗が席を立った。



「……さてと」


 二人の姿が見えなくなった瞬間、渚がにやっと笑い、タブレットを忙しなく操作しだした。


「いやでもさ〜」


 表示されているのは別のケーキ。


「絶対こっちでしょ(笑)」


 いちごで、うさぎの耳を形どったケーキ。


「……あぁ、学校で言ってたバニーのやつ」


 紅葉が呟く。


「……あとで文句言われるよ」


「いいのいいの!絶対こっちの方が面白いって!」


 くすくす笑いながら、渚はそのまま注文を書き換えた。



 こはるは、もう一度タブレットに目を落とす。


 そこにあるのは、同じケーキ。


(これ……)


 ふわっと、胸の奥がくすぐったくなる。


(雪斗くんが好きって言ってたやつ……)


 少し迷ってから、顔を上げる。


「あ、あの……」


「私も、これにしていいですか?」


 指差したのは、バニーケーキ。


「おっ、了解!」


「これ、可愛いから結構人気商品なんだよ(笑)」


 渚が嬉しそうに笑った。



 しばらくして、二人が戻ってくる。


「いやー出たでた」


「よくそんな事言えるな……」


 席に着いた雪斗が、テーブルに運ばれてきた皿を見て固まる。


「……ん?」


 雪斗の席に置いてあるのは………バニーケーキ。


「……え?」


「いや、本当はこっちが食べたかっただろうなって(笑)」


 渚がニヤニヤしながら言う。


 陽向も肩が震えていた。


 雪斗は、呆れたようにため息をついた。


「何やってんだよ…….」


「ごめんね……間違えて頼んじゃった……店員さんに言ってこようか?」


「……もういいよ……このケーキで……」


 視線を逸らしながら、小さく答える雪斗。


 渚と陽向はニヤリと目を合わせた。


「ほらやっぱり〜(笑)」


「ゆきとちゃんかわい〜」


「なっ!これは仕方ないから食べるだけで、別に俺が頼んだんじゃないだろ……」


「ってこはるも紅葉も笑うな」


 頬を赤くしながら抗議する雪斗に、周りはくすくすと笑っていた。



「……ていうかさ」


 ふと、渚が口を開く。


「もうすぐバレンタインじゃん?」


「私は今年も友チョコだけかな」


 紅葉がケーキを一口食べながら言う。


「別に、渡したくなるほど好きな人もいないし」


「渚は?」


 そう振られて、渚は少しだけ視線を逸らした。


「わ、私も……友チョコだけかなぁ〜」


「あ、俺は貰う専門なので!今年もよろしくね!」


「気にしたことないけど、くれるならもらうよ」


 にっこり笑う陽向と、興味がなさそうにケーキを食べている雪斗。


「べ、別に、毎年の恒例行事みたいになってるからあげてるだけだし!そこに特別な感情とか無いから!勘違いはしないでよね!」


 急に饒舌になる渚を見て、紅葉はクスリと笑っていた。



「……チョコを渡す日、ですよね?」


 こはるが、少し考えながら言う。


「そうそう」


「まぁもうちょい先の話だけどね〜」


(好きな人に、かぁ……)


 ふと、視線が動いた。



「……ていうかさ」


 渚がこはると雪斗を見比べる。


「なんで二人は名前呼びなの?」


「え?」


 こはるがきょとんとする。


「いや、雪斗さ、月城さんのこと“こはる”って呼んでるじゃん?」


 ピクっ


 一瞬だけ、身体が固まる雪斗。


「あ、その……私がお願いしたんです!」


 少し慌てながら続ける。


「昔から名前で呼ばれることが多くて……名前で呼んでもらった方が……その、落ち着くというか……」


「だから、よかったら、みなさんも……」


 少しだけ俯いてから、顔を上げる。


「——こはる、って呼んでください」



「なにこの、かわいい生き物!」


 渚がすぐに笑う。


「じゃあこはるね!」


「……こはる……了解」


 紅葉も静かに続く。


「お、距離一気に縮まった感じ?」


 陽向が笑う。


「見ての通り、変な奴らだけど、よろしくな!」


「1番変なのはアンタだけどね」


 渚が突っ込む。


「まぁ……とりあえず改めてよろしく」


 少しだけ間をおいて、


「…こはる」


 最後の一口を平らげた雪斗が、こはるを見て笑いながら言った。


 こはるは少しだけ驚いたように目を瞬かせてから、


「……はい!」


 小さく頷く。


 ケーキを一口食べる。


 甘い。


 ふわっと広がる味に、思わず目を細めた。


 ——こはる。


 さっき呼ばれた名前を、ふと思い出す。


 胸の奥が、少しだけあたたかかった。

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