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ぜんうさ。  作者: 月白
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7 芽生


 こはるが転校してきて数日……


 キーンコーンカーンコーン


 授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。


「やっと終わった〜」

「ねーねー今日放課後どうする?」


 ざわざわと賑やかになる教室。


 こはるは広げていたノートの上に、頭を机に突っ伏していた。


(所作で文字を書く練習はやったけど……


 勉強がこんなに大変だとは思わなかった………)


 授業中、なんとなく分かることもあれば、わからないことも多い。


 その度、根が真面目なこはるは、慣れない板書をしながら、置いていかれないよう必死についていこうとしていた。


 こはるの頭は、完全に燃え尽きていた。


 隣の席から、ふと視線を感じた。


「大丈夫?」


 雪斗だった。


「あっ、はい!たぶん大丈夫です!」


 慌てて身体を起こし、ノートを閉じるこはる。


 その勢いで、机の端に置いてあった自分の消しゴムが……


 コトッ


 机から落ちた。


「あ——」


 その瞬間。


 すっ


 ——気付いたときには


 こはるの手の中には消しゴムがあった。


「……え?」


 雪斗が目を瞬かせる。


「あぶなかったぁ……」


 落ちる前に消しゴムをキャッチしたこはる。


「よく取れたね……」


「え?そうですか??」


 少しだけ不思議そうにしながらも、雪斗は教科書を片付け始めた。


⸻


「ねえねえ、月城さん!」


 後ろから声をかけられる。


 振り向くと、そこには数人の女の子。


 転校してからの数日は、いろいろな人が……


「前の学校どんな感じだったの?」

「今まで、どんなところに住んでたの?」

「かわいいよねぇ!彼氏は?」


 などなど……


 基本臆病で人見知りなこはるは、毎回質問の嵐に困っていたのだが………


 そんな時に、


「はいは〜い、そうやって一気に質問しない。月城さん困ってるよ〜解散解散!」

「っていうか、普通に邪魔だよ」


 と、毎回助けてくれたのがこの2人。


 水瀬渚と成瀬紅葉である。


 2人が気にかけてくれたおかげで、今ではある程度落ち着いて学校生活を送れるようになっていた。


「これから暇?紅葉と商店街の喫茶店に行こうと思うんだけど、よかったらさ!一緒にいかない?」

「新商品のバスクチーズケーキ。これは一度食べておかないと」


 突然のお誘い。


 人見知りのこはるでも、この2人にはもう警戒心はほとんどなく、ある程度普通に接することができるようにはなっていたのだが……


「…え?」


 人間どうし、どうやって仲良くなればいいのかがイマイチ分からず、雪斗とですら学校で少し話をするくらい。


 当然、他の誰かと出かけた経験もなく……


 どうしたらいいのかが、よくわからない。


 こはるはフリーズしてしまった。


 そんな時、今度は雪斗の隣から陽気な男の子の声が。


「なになにどーしたの?」


 その声に気づいた渚は、相手を睨みつけた。


「あ?陽向には関係ないでしょ!」


 男の子の名前は橘陽向。雪斗の幼馴染らしい。


 雪斗と陽向、そして渚は幼馴染。


 紅葉は高校に入ってから渚と仲良くなり、この4人でよく集まっているとのこと。


「ん、商店街の喫茶店に行こうって話してたの」


 紅葉がさらりと陽向に言うと


「え?!まじ!!あそこ新商品出たらしいじゃん?甘党としては是非とも行っておきたいところ。俺も行く!」


 手を挙げながら笑顔で答えた。


「は?あんたは誘ってないんだけど!」


 渚の言葉を、陽向はさらりと受け流した。


「まぁまぁ、雪斗もいこうぜ!あそこのバニーケーキ好きだろ(笑)?」


【バニー】という言葉にぴくりと反応したこはるは、雪斗の方を見た。


 雪斗もその視線に気付いたのか、恥ずかしそうに


「む、昔の話!別に好きってわけじゃ……」


 雪斗の顔は真っ赤だ。


「え?まじ? あの、いちごでうさ耳みたいになってる可愛いケーキでしょ?(笑) ゆきとちゃんかわいぃ〜(笑)」


 急に陽向の話題に乗っかる渚。


「な?だから久々に食べに行こうぜ!行ってくれないと実はお前が………」


 陽向のその言葉を聞いた瞬間、雪斗は言葉を遮り


「わかったわかった!行くよ……」


 項垂れながら雪斗は答えた。


「ほぼ脅迫じゃん」


 紅葉がぼそっと一言。2人は笑っていた。


(雪斗くんも……行くんだ……)


 胸が、少しだけ高鳴るのがわかった。


 一瞬迷ったあと……


 こはるは勢いよく立ち上がった。


「わ、私も行きます!」


 にやっと笑う渚。


「そう来なくっちゃ♪」

「よかったよかった」


「それじゃ行こっか♪」


 渚を先頭に紅葉が続いて教室から出る。


 続いて教室を出ようとしたこはる。


 ——ふと振り返る。


 陽向に文句を言っている雪斗と目が合った。


 言葉とは裏腹に、どことなく嬉しそうな表情の雪斗。


 こはるは、小さく笑って前を向いた。


 その軽い足取りには、


 微かなビンキーが隠れていた。

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