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ぜんうさ。  作者: 月白
10/12

10 聞春


 起立。礼。着席。


「うわー終わった……」


 返却された答案用紙を見つめながら、陽向が机に突っ伏す。


「今回むずくなかった?」


「いや普通に無理」


「それな〜」


 あちこちから、似たような声が上がる。


「……」


 こはるは、自分の答案をそっと二つ折りにし、机にしまった。


「こはるどうだった?」


 紅葉と、絶望した表情の渚がこはるのところに来た。


「あ、えっと……」


 特段良くもなければ、悪くもない点数。


「……まぁ、なんとか…って感じです」


「それ…絶対できてるやつじゃん……」


 肩を落とす渚。


「まぁ、普段からちゃんとやっておきなってことだね」


 渚の肩を叩く紅葉。


「で、でも、そんなにできたわけではないですよ?悪くはなかったって言うだけで」


 困ったように笑うこはる。


「一応聞くけど……雪斗は?」


 その話を聞いていた陽向が顔を上げて、雪斗に聞く。


「いつも通りかな?」


「いつも通り……」


 渚がボソッと呟く。


「入学してからずっと学年5位以内をキープしてる人のいつも通り……」


 陽向も合わせて呟く。


「今回確かに難しかったのに、いつも通りって……ほんとすごいよね」


 素直に褒める紅葉。


「……」


 こはるは、雪斗の意外な一面に少し驚いていた。


「昔はサッカーばっかで、こっち寄りだったのに……中学の後半で急に部活をやめたかと思ったら、今度は勉強に走るんだもんな……しかもめっちゃ頭良くなってるし………医者にでもなりたいとか?」


 渚が項垂れながら、恨めしそうに雪斗を見る。


「ん〜」


 ほんの一瞬、間。


「まぁ、あながち遠くはないかな?」


「え、まじ?」


 視線を逸らす雪斗。


「獣医」


 小さく答える。


(へぇ……雪斗くん、獣医になりたいんだ)


 こはるは、少しだけ目を細めた。



 後日 終業式


 校長先生の話は、どこか遠くに聞こえる。


(……)


(春休み……)


 こはるは、窓の外をぼんやりと見ていた。



「終わったー!!」


 教室に戻るなり、陽向が声を上げる。


「春休みだー!」


「なにする?なにやる?どこいく?!」


「とりあえず寝る」


「それはいつものことでしょ」


 笑い声が広がる。


「あ……でも……」


 渚がふと口を開く。


「2年になったらクラス替えもあるのか……」


「……」


 少しだけ空気が揺れる。


「バラバラとか普通にありそう」


「えーやだなそれ」


「まぁ……その時はその時でしょ」


 紅葉が静かに言う。


「……だね」


「……でも……そうなったら寂しいですね。」


 こはるは、小さく頷いた。


(…せっかく、仲良くなれたのに)


「そう言えば、今更だけど」


 渚がふっと笑う。


「こはるもやっと少し慣れてきたね(笑)」


「確かに、最初めっちゃオドオドしてたもんね」


「分かる(笑)」


 陽向も頷く。


「なんかビクビクしてる小動物みたいな(笑)?」


「え?」


 こはるは少しだけ目を丸くする。


「あぁ〜ん!せっかくこはるちゃんと仲良くなれたのにさ〜」


 渚がわざとらしく肩を落とす。


「こはるちゃんと離れたくなぁい♡」


 そう言いながら、こはるに抱きつく渚。


「私たちとは離れてもいいんだ」


「きも」


「ひどっ!?」


 笑いが広がる。


「……でも確かに」


 こはるが小さく呟く。


「え?」


「私、結構人見知りなので……最初は……ちょっとだけ皆さんのことも怖かったですけど……」


 少しだけ顔を上げる。


「今は全然大丈夫ですよ」


 ほんの少しだけ、照れたように笑った。


「やだ可愛い。こはるちゃん!私と結婚しよう♡」


「や、やめてください!」


 小さく足を鳴らす。


「…あ、足ダン」


 雪斗がぽつりと呟く。


「うさぎかよ!」


 また笑いが広がる。



 ちゅー


「春休みどうしようか?せっかくだし、みんなで何かしたいね」


 ジュースを飲みながら言う紅葉。


「花の女子高生活!確かに何かしたいね。ってか、だんだん暖かくなってきたし、その前に服買わないと」


 渚が言う。


「春服?」


「そうそう」


「そう言えば俺も新しいスニーカー欲しいんだよね」


「私もちょっと薄手の上着欲しいかも」


「俺は参考書欲しい」


「おい、なんか1人おかしい奴いるぞ。」


「じゃあもうモールでよくない?」


「確かに色々見れるし、みんなで行けるね」


「お、ナイスアイデア」


「じゃ〜決まりで!どうする?もう明日行っちゃう?!」


「……」


 こはるは少しだけ遅れて、


「……私も行っていいですか?」


 そう言って、小さく頷いた。


「もっちろん♪最初からそのつもりだよ!」


 みんなが笑ってこはるを見ていた。



 ショッピングモール。


「うわ、人多っ!」


「春休みだし、親子連れも多いね」


「なんでこう……人混みを見るとテンション上がるんだろうな」


「分かる」


 明るい空気とざわめきに包まれる。


「とりあえずどうする?」


「服見たい!」


「私も」


「んじゃ、先に服を見にいくか」


「了解」


「……」


 こはるは周りを見回していた。


(……広い)


(人も多いし……)


 少しだけ緊張した様子で、紅葉の後ろに自然とつく。


「こはる、大丈夫?」


「だ、大丈夫です!」


「迷子にならないようにね」


「なりませんよ!」


 笑いながら、みんなで服屋・靴屋・本屋へと足を運ぶ。


 気が付いたら、お腹の空くいい時間に。


「腹減ってきた」


「確かに、混む前にフードコート行こうか」


 そう言いながら、みんなでフードコートに向かう。


「うっひょ〜!何食べよう」


「お店が多いと迷うよね〜、私もどうしよう!」


 目を輝かせる陽向と渚。


 空いている席に荷物を置いた紅葉が、二人に目を向ける。


「私ここで席とって待ってるから、先に買ってきていいよ」


 そう言って椅子に座った。


「私、ドーナツにしようかなと思うんですけど、何か買ってきましょうか?」


「あ、ほんと?お願いしていい?」


「大丈夫ですよ!」


「俺は久々にハンバーガーでも食べよう」


「俺はラーメンにしよ!中々店のラーメン食べれないしな!!」


「あ、私もラーメンにしよう!」



 各々が食べたいものを買いに行き、再び席に集まった。


「うまっ!」


「やっぱり店のラーメンは美味しいよね!」


「紅葉さんもどうぞ!」


「あ、ありがとう。」


 そう言ってドーナツを渡すこはる。


 こはるも一口食べて、


「……美味しい」


 小さく呟いた。


 そうしていると、ハンバーガーをトレーに乗せた雪斗が席についた。


「めっちゃ混んでた……」


「子連れが多いと混むもんね」


「それを早く言ってくれ……」


「お疲れ様です」


 こはるが雪斗にニコッと微笑んだ瞬間――


「……」


 こはるの動きが止まった。


「……?」


 ゆっくりと立ち上がる。


「どうしたの?」


 突然立ち上がるこはるに、渚が声をかける。


 こはるは、周りを見渡していた。


 ざわめきの中で、何かを探すように。


「……」


 ざわめきの中に、


 かすかな泣き声が混じっていた。


「……」


 目の動きが止まった。


「ごめんなさい……」


 そう言ってドーナツをテーブルに置くと……


「ちょっと行ってきます!」


 人混みを掻き分け、走っていった。


「え、ちょっ——」


「……なに今の」


「急にどうしたの?」


「……」


 雪斗が立ち上がる。


「……見てくる」


「……私も」


 紅葉も続く。


「え、ちょ、ラーメン伸びる!」


「二人は食べてていいよ」


 そう言って走る雪斗の後を追う紅葉。


 二人で目を合わせる陽向と渚。


「とりあえず食べようか……」


「そうだな……」


 ラーメンを啜り始めた。



 人混みを掻い潜り、


(……こっち)


 音を頼りに進む。


 メインの通りから少し外れたところ。


 そこに、小さな子供が一人で泣いていた。


「……」


 こはるはしゃがみ、目線を合わせる。


「……大丈夫ですか?」


「……ママぁ…………」


「……お母さんとはぐれちゃいましたか…おねえちゃん、お名前は?」


「グスッ……さくら………」


「さくらちゃん。大丈夫ですよ」


 子供の頭を撫でながら、こはるは優しく微笑む。


「お姉さんがすぐ、見つけますから!」


 そう言うと、こはるは一度ゆっくりと目を閉じる。


 ざわめきの中で、音を探す。


(いるはず……)


「……」


(……きっと………)


 遠くから、かすかな声。


「……ちゃーん!」


「さくらちゃーん!!」


(………!)


 目を開く。


「……おかあさん、あっちにいますよ♪」


 微笑みながら、子供の手をそっと握った。


「歩けますか?大丈夫ですよ」


 二人でゆっくりと歩き出す。



 こはるを探す雪斗と紅葉。


「急にどうしたんだろうな」


「わからないけど、なんかいつもと違う雰囲気だったね」


 そう言いながら、吹き抜けの二階から下を覗くと……


「……ん?」


 紅葉が呟く。


「……あれ、こはるじゃない?」


 紅葉が指した先を見る雪斗。


「……あんなところに……」


「……?……子供?」


「迷子かな?」


 子供の頭を撫で、そのまま子供と手を繋ぎ歩いていくこはる。


「迷子センターあっちだっけ?」


「いや、反対方向だったと思うけど……」


 二人はそのまま後を追う。



「さくらちゃん!!」


 母親が駆け寄る。


「ママ……!」


「よかった……!」


 子供を抱きしめる。


「すみません……!本当に……!」


「いえ」


 こはるは小さく首を振る。


「見つかってよかったですね!さくらちゃん」


 母親は何度も頭を下げて去っていった。


「……」


 こはるは、手を振りながらその背中を少しだけ見送る。



「……よかったね」


 後ろから紅葉の声。


 ビクッ!!


 びっくりして振り向くこはる。


「え!?紅葉さん……と雪斗くん……いつから……」


「今追いついたんだよ」


「迷子?」


「はい。お母さんが無事に見つかってよかったです」


 こはるは、にっこりと笑う。


「でも、よくお母さんの場所がわかったね」


「お母さんが子供を呼ぶ声が聞こえたので」


「この人混みの中?」


「え…すごっ」


 驚く雪斗と紅葉。


「……じゃ〜………フードコートでは子供の泣き声が聞こえたってこと?」


「……?…そうですけど?」


「………」


「なんかさ」


 雪斗が笑う。


「こはるって、ほんとうさぎみたいだよね」


「分かる」


 ドキッとするこはる。


「流石に耳良すぎでしょ(笑)」


「そ……そうですか?」


 小さく首を傾げる。


「一件落着したみたいだし、戻ろ」


「そうだな。バーガーカピカピになってそう」


「その時は、私のドーナツ1つあげますよ♪」


 三人で笑いながら、フードコートへ戻って行った。



 帰り道。


 夕方の空は、少し赤く染まっていた。


「今日は楽しかったね〜」


「また行こうよ」


「いいね」


「……」


 こはるは、少しだけ前を歩く。


(こはるって、うさぎみたいだよね)


 雪斗の言葉を思い出した。


 胸の奥が、ほんの少しあたたかい。


「……元……ですけどね」


 小さく、笑う。


 夕空に浮かぶ月を眺めながら、こはるはそうつぶやいた。

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