表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぜんうさ。  作者: 月白
PR
26/36

26 月影


 下校中。


「おばさんの団子楽しみだ」

「ほんと! 月見は久しぶりだよね(笑)」


 陽向と渚が楽しそうに笑う。


「めっちゃ昨日から張り切ってるからな……」

「ウケる(笑)」


 いつものように軽口を叩きながらの帰り道。


「そういえば、天ちゃんは大丈夫?」


 紅葉がこはるを見た。


「大丈夫です。……多分」


 連絡も取れないままの従姉妹を思い出し、少しだけ不安になる。


「……まぁ、あの子なら……」


 どこかで、妙な確信があった。


「そっか(笑)」

「それじゃあ一回帰って、夜また集合ねー!」

「遅れるなよー」

「誰に言ってるのそれ」


 そう言って、それぞれが帰路についた。



 いつも通り、誰もいない家の扉を開ける。


 ガチャっ


「ただいま――」

「おかえりじゃ」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!?」


 そこには――


 いつの間にか、部屋の中に立っている天ちゃんの姿。


「うるさいのう」


 突然の叫びに、両耳を指で抑える帝釈天。


「び、びっくりするじゃないですか!! 今までどこにいたんですか?! そしてどこから入ったんですか!?」

「ちょっとした用事でな」


 けろりとした顔で答える天ちゃん。


「……もう……」


 息を整えながら、胸を抑える。


 かつてないほど心臓がバクバクしていた。


「死ぬかと思いました……」


「それより」


「この時代の食べ物は実に美味じゃの」


 帝釈天の背で隠れていたテーブルの上には……


 お菓子の袋が散乱していた。


「……満喫していたようで何よりです」


 少し困ったように笑うこはる。


 その顔を見た帝釈天は、後ろの袋からポテトチップスを一枚取り出すと、何食わぬ顔で口の中に放り込んだ。


 パリッ


「なんのことじゃ?」


 カバンを置き、着替え始めるこはる。


 その間もずっと上機嫌の天ちゃん。


「月見、楽しみじゃな」

「……ふふ」


 無邪気な姿に思わず笑ってしまった。



 夕方。


 雪斗の家。


「いらっしゃい」


 扉を開けた雪斗と、その後ろから顔を出す母親。


「まぁ、こはるちゃん! いらっしゃい」

「今日はよろしくお願いします!」


 頭を下げるこはる。


「いいのよいいのよ、楽しんでいってね」


 と言い、こはるの横の少女に視線を落とす。


 ぺこりと会釈をする少女。


「その子が従姉妹の……天音ちゃんね! いらっしゃい」


 にこやかに迎え入れる母親。


「今日は突然すみません。よろしくお願いします♪」


「全然! こう言うのはみんなで楽しまないと♪」


 そう言って微笑む。


「あ、そうだ。早速で悪いんだけど、こはるちゃん、ちょっと手伝ってもらっていい?」

「あ、はい!」


 そう言って家に上がり、こはるは母親と台所の方へ消えて行く。


「…………」

「…………」


 取り残された二人。


「とりあえず、中に入ろうか。飲み物でも飲んで待ってよう」

「ありがとうございます!」


 そう言い、家の中へ入って行った。



 リビングでお茶を飲む天ちゃんと雪斗。


(こやつが……こはるの………)


 チラッと横目で雪斗を見る天ちゃん。


「あ、そうだ」


 天ちゃんが雪斗に身体を向け、


 少しだけわざとらしく聞いてみる。


「雪斗さんは、こはるお姉ちゃんのこと、どう思っていますか?」

「……え?!」


 いきなりの質問に、飲んでいたお茶を吹きこぼしそうになる雪斗。


 一瞬、言葉に詰まる雪斗。


「急にどうしたの……?」


 ニコニコ顔で見つめてくる天ちゃん。


「どうなのかなぁって思って」

「普通に……友達、だけど」

「ただの……友達ですか?」

「う〜ん……」

「昨日、こはるお姉ちゃんが喫茶店で手を握っていたので……てっきり……」

「あ、あれは紅葉のイタズラだよ」


 ニヤニヤする天ちゃん。


「ふぅーん……」

「でも……」

「??」

「一緒にいるとなんだか落ち着く…というか、変な言い方だけど放っておけないみたいなのはある………かも……」

「……!」


 その返答に驚き、クスリと笑う帝釈天。


「そうですか♪」


 一度深く目を閉じる帝釈天。


 少し間を置き、再び口を開く。


「一つ聞いてもいいですか?」

「なに?」

「もし、例えばの話なんですけど……」

「こはるお姉ちゃんがいなくなったら……どう思いますか?」

「いなくなる?」

「あ、ほら、こはるお姉ちゃんの家族は海外にいるじゃないですか?」

「それにこはるお姉ちゃんもついていく! とかってなって、ここからいなくなったとしたら……雪斗さんはどう思います?」

「ん〜……」


 腕を組んで、しばらく考える雪斗。


 言葉を探すように、ゆっくりと口を開いた。


「それが……こはるが決めたことなら応援するよ」

「でも……少し寂しいかな?」

「それに、会いたくなったら会いにいく。二度と会えなくなるわけでもないから」

「……もし」


 その答えに真剣な顔で、最後の質問を投げかける帝釈天。


 ほんの一瞬だけ、


 その瞳の奥が、静かに沈んだ。


「……もし、二度と会えないとしたら?」

「ん〜」


 少し考えた後、


「それでも……きっと会いにいくかな」


 うまく答えになっていないと分かりながらも、笑って答える。


「そうですか……」


 小さく呟き、帝釈天はふっと笑った。


「こはるお姉ちゃんは幸せ者ですね♡」


 そう言いながら、


 ほんの一瞬だけ――


 寂しそうに笑った。



 しばらくして、渚たちも合流。


「お邪魔します」

「おばさんの団子食べにきました!」

「久しぶりの月見だぁ!」


 そう言いながら、ゾロゾロと家に上がってくる。


「みんないらっしゃい、こはるちゃんにも手伝ってもらってたくさん作ったから、いっぱい食べてね!」

「うわ! 団子!」

「やったー!!」

「うさぎだ!」


 縁側に並べてある白玉団子に目を輝かせる天ちゃん。


「これ……全部食べていいんですか」

「さすがに全部は食べられませんよ?」


 わちゃわちゃとした空気。


 笑い声。


 ふと――


 天ちゃんが、空の月を見る。


 ほんの一瞬だけ。


 何も言わずに。


「……?」


 気づいたこはるは、首を傾げた。



 月が、少しだけ高く昇る。



「あら、ちょっとごめんね」


 雪斗の母親がスマホを見て、立ち上がる。


「電車止まっちゃってるみたい。お父さんこのままじゃ帰ってこれないから、迎えに行ってくるわね」


「え、大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫」


「少し遅くなっちゃうから、みんなはそのまま楽しんで。でもあまり遅くならないうちに解散するのよ?」


 そう言って、家を出ていった。



 少しだけ、静かになる空間。


「……あ、空いたお皿、片付けてきますね」


 立ち上がるこはる。


「別にあとでいいって」

「大丈夫です。さっきお母さんに教えてもらったので」


 そう言って台所へ向かう。



 水の音。


 食器が触れ合う音。


「……忘れておったわ」


 背後から、声。


 ビクッ!!


 驚いて振り返る。


 そこにいたのは――


 帝釈天。


「……びっくりした……どうかしましたか?」

「久々の地上で、浮かれておった」

「肝心なことを伝え忘れるとはの」


 空気が変わる。


「こはるよ……お主はこれから……どうするつもりじゃ?」

「どうって……」


 腕を組んで壁にもたれかかる帝釈天。


「お主の願いは、前世の感謝を。そして、悲しまなくても良い。笑っていてほしいと、あの青年に伝えること」

「………」

「……忘れてはおるまい?」

「……はい」

「期限もあと、二ヶ月と少し……」


 心臓が、跳ねる。


「その時が来れば――」


「お主の存在は――」


【消える】


「…………」



『それはただの自己満足。それを伝えたあとはどうする?』


「私はどうなっても構いません」


 知っていた。


『条件がある。それは……』


「それだけですか?」


『それでも良いなら……お主の願いを叶えよう』


「ありがとうございます!」


 でも………



「輪廻を外れた、転生の代償……」


「こればかりは……変えることはできぬ」


「……わかっています………」



 ずっと……この時間が続くと思っていた。


 そんなことはないと分かっていながら……


 手が大きく震える。



「今一度…………しかと考えよ」

「……はい」


 その時。


 キシッ


「!?」


 帝釈天だけが気付いた、小さな物音。



(……気づくのが遅れたか)


 物音がした方向を睨みつける帝釈天。


 気配がなくなったことを察知し、会話を続ける。


「あの者たちは……いい人間だな」

「……はい」

「残された時間で……主の願いをどう叶えるのか……」

「………」

「後悔だけはせぬようにな……」


 そう言い、帝釈天はその場を後にした。



(こはるの手伝いでもしようかな)


 紅葉が、ゆっくりと台所へ向かう。


 台所からは話し声が。


(ん? こはると天ちゃん?)


 会話の邪魔しちゃ悪いと思い、物音を立てぬよう近づいていく。


「……前世の感謝………」

「……あと、二ヶ月と少し……」

「………お主の存在は……【消える】」


(……!?)


 二人の会話に動揺する紅葉。


 言葉が、頭の中で反響する。


(前世の感謝? 二ヶ月? え……消える? こはるが?? なんで??)


 静かに、その場を離れた。



 玄関。


 動揺を隠しきれず、靴を履くのに手間取る紅葉。


「紅葉さん」

「!?」


 帝釈天の声に振り返る紅葉。


「……天ちゃんどうかした?」

「今の話、聞いてましたよね」


 口元は笑っているが、冷たい表情。


 ゴクリ


 こんなに唾を飲み込む音が響いたことがあるだろうか。


「…………」


 少しだけ間を置いて。


「アニメか何かの話してたから、邪魔しちゃ悪いかなって。ごめんね、驚かせちゃって」


 その回答に、つい笑ってしまった天ちゃん。


「……ふふ」

「そうそう、漫画のお話をしてたんですよ」


 一歩、近づく。


「これはね」


 その瞬間だけ。


 帝釈天の顔になる。


「……結末の決まっている物語」


 また一歩近づく。


「一羽の、うさぎさんのお話」


 さらにもう一歩……


「だから――」


 先ほどとは異なり、


 優しく、


 そして少し悲しそうに微笑む。


「どうか、その最後まで……」


「後悔の無い……幸せの道を歩めるよう、見守ってあげてくださいね?」


 くるりと背を向ける。


「じゃあね、お姉ちゃんたちのところ、先に戻るね♪」


 再び紅葉の方を向き直す天ちゃん。


 小走りで横を通り過ぎていった。


「……」


 紅葉は、動けなかった。



 台所。


 ジャー


 水が流れ続ける。


「……」


 手に、力が入らない。


 震えが止まらない。


 あと、二ヶ月……


「……私はどうしたら……」


(……どうしたらいいの……?)


 今がこんなに幸せなんだって、


 知ってしまったから。


 知らなければよかった。


(私の願い……)


 ……こんな気持ちになるくらいなら……


 転生なんて……


 ……しなければよかったのかな………


(でも、それを伝えるためには……)


(……怖い)


 楽しい、はずだったのに。


 涙が、止まらなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ