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ぜんうさ。  作者: 月白
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27/36

27 止心


 教室。


 いつもより少しだけざわついた空気。


 キーンコーンカーンコーン


「はいはい、席つけー」


 生徒たちが落ち着いたのを見計らい、担任が口を開く。


「もうすぐ文化祭なわけだが…」


 その一言で、

教室の空気が一気に弾けた。


「きたきたきたー!」

「何やる!?」

「せっかくだし食べ物系やりたいよね〜!」


 好き勝手な声が飛び交う。


「しーずーかーにー!」


 担任が手を叩く。


「とりあえず、何をやるか話し合うぞ。ちなみに2年からは飲食関係の出店もOKなので、それも踏まえて考えるように。」


「お化け屋敷!」

「それうちら去年やった〜」

「じゃあメイド喫茶!」

「え……そう言うのキモいんだけど……」


 収拾がつかない。


 バン!


「じゃあさ」


 陽向が机を叩いて立ち上がり、注目が集まる。


「俺がメイドやるってことでよくね?」


 視線が一斉に陽向から外れた。


「やっぱりたこ焼き屋とかいいと思うんだよね〜」

「クレープとかは?」

「作るの面倒くさそう」


「いや!誰か何か言ってくれよ!!」


 クラス中に笑いが起こる。


 そんな中こはるは、表情を一切変えず、窓の外をずっと眺めていた。


(お主の存在は…消える)

 その言葉が頭の中から離れず、

紅葉はどこか上の空でぼーっとしているこはるを見つめていた。


「…………」

 はぁ……


 一息つくと。


「はいはい一旦おちつく。」

 軽く手を叩いてみんなをまとめ始めた。


「現実的に、まずはできそうなのに絞ろうよ」


「何か料理を作るとなると、できる人に負担が行っちゃうしね」

「一から料理を作るのってそもそもハードル高くない?」

「飲み物系なら比較的楽なのでは?」

「確かに」


 話し合って数分後……

飲食をやりたい派と、作るのが面倒派が納得をする、【喫茶店】を出店することが決まった。


「はい!委員長!ただの喫茶店じゃつまらないと思います!何かコンセプトが欲しいです!」

「誰が委員長だ」

 渚の発言に速攻突っ込む紅葉。

ずっと外を眺めているこはるが目に入る。


「こはる」

「……………」

「こはる!」

「あ、はい!」


 大声で呼ばれてビクッとするこはる。


「こはるは、何かいい案ある?」


 話をほとんど聞いていなかったこはる。

黒板に書かれた喫茶店の文字から、出店が喫茶店になった事だけは辛うじてわかった。


「えっと……みんなで楽しめるのがいいと思います」


 少し微笑みながら当たり障りのないことを言い、再び窓の方へ視線が流れていった。


「…………」

 そんなこはるを見つめる雪斗。


十五夜の夜


 みんなが団子を食べているところに、こはるが戻ってきた。


「こはる遅い〜!」

 渚が手を振る


「すみません、いつものキッチンとは少し使い勝手が違かったもので……」


 あきらかな鼻声。

そして目が真っ赤になっていることに気付いた雪斗が声をかける。


「どうかした?」

「………え?」

「目……真っ赤」

「あ……いえ、洗剤が目に入ってしまって………」


 そう言いながら目元に手を当てるこはる。


 少しだけ間があった。


 明らかな嘘だった。

だが、それ以上は深く聞かなかった。


 周りを見渡す雪斗。

団子を無邪気に食べる天ちゃんと陽向。

無言のまま何かを考えている紅葉。

こはるの方を見てキョトンとしている渚。


「そっか」


 雪斗はそう言って団子を一本こはるに渡した。


「ありがとうございます……」



(あの時から……)


(何があったんだ……)



「喫茶店といえばメイドでしょ!」

「着たくない人もいるし、そもそも同じ衣装揃えるのきつくない?」

「私着たくな〜い」

「コスプレ喫茶は?着たい服着ればいいだけだし」

「まぁそもそも制服がコスプレみたいなもんだしな(笑)」

「それならいけそうじゃね?」

「それなら私もいいかも」

「でもみんな衣装どうすんの?」


 再びざわざわし始める。

その時……


「それなら」


 後ろから声が上がる。

「あの……私が作ったのでよければ……」


 みんなが一斉に振り向く。


「私が着るわけではなくて……その、ちょっと趣味で色々な衣装を作っておりまして……」

「私が作ったものでよければ……お貸しはできるかと……も、も、もちろんサイズがあえばですが……色々な大きさを用意しておりますので……」


「おぉ!!」

「いいじゃん!」

「確かに綿貫さん、コミケに出てる人に衣装作ったりしてるんだよね」

「え!?すごっ!!」

「それじゃ綿貫さん、明日衣装持って来れる?もちろん家が近い人たちみんなで運ぶの手伝うからさ!」

「は、は、はい……大丈夫かと……思います」


 順調に決まっていく。


 一通り出し物。やる事が決まったところで、紅葉が次に進める。


「役割とか、売るものとかはどうするの?」

「あ、忘れてた。」

「物は市販の飲み物とか、ちょっとしたお菓子系?」

「コーヒーとかなら流石に作れるしね」

「役割も、基本は男子はドリンク作って、女子が持って行くとか」

「なにそれー、男子も持っていけし」

「市販の飲み物を用意するくらいなら誰でもできるよね」

「せっかくなら男子にもコスプレさせたくない(笑)?」

「確かに(笑)」


「「…………あっ」」


 ふと全員が何かを思い出し、陽向を見る。


「………ん?」


「成瀬さん、男子もコスプレするそうです」

「と言うか、橘くんはメイド服確定です」

「呼び込みやってもらうのありだよね」

「そもそもメイドは自分でやるって言ってたし」


「…………え?」


 ポンポンと陽向の肩を叩く渚。

「言い出しっぺだし……仕方ないよね(笑)」


「いやぁぁぁぁぁぁぁ」


 クラスが爆笑に包まれた。



 みんなが少し落ち着いたところで、渚が手を挙げる。

「ん?どうしたの?」


 紅葉がそれに気づき、みんなの視線を誘導する。


「委員長!提案があります!」

「誰が委員長だ」

「この間の体育祭、こはるは凄い頑張ったと思います!」

「まぁね」


 みんなが頷く。


 こはるも名前を呼ばれ、意識がクラスの会話に戻ってくる。


「ちっちゃくて、可愛くて、でも頑張り屋さんで」


 みんながこはるの方を見る。


「え?」


「そう言うまっすぐなこはるがいれば、きっと文化祭も楽しくなると思うので、看板娘はこはるがいいと思います!」


「「おぉ〜!」」


「確かに…体育祭の時、凄い頑張ってくれたしね」

「最後転びそうになりながらももう根性でバトン繋いでくれたのとか、私ちょっと感動した(笑)」

「優しい性格にあの可愛さ……それが看板娘……あると思います」


「え、えぇ……?」


「だってさこはる!」

 そう言って笑いながらこはるを見る紅葉。


「いや……流石に……」


「こはる」


 真剣に、でも優しくこはるを見つめる渚。


「うぅ……わかりました……頑張ります……」


 ニコッと笑う渚と紅葉

「決定〜!」


「……」


 こはるは、


 少しだけ遅れて笑った。


「あは……楽しみですね」


 その言葉は、


 いつも通りのはずなのに。


 まるで、

心だけがついてきていないかのように、


 遅れていた。


次の日の放課後


 教室の一角に人だかりができていた。


「……こちらです」


 机の上に広げられる衣装の数々。


「うわ、すご……」

「ガチじゃん」

「全部手作り?」


「あ……はい……趣味なものでして……」


 綿貫が照れくさそうに笑う。


「気になるものがあったら……自由に着てください……。あ、でも着たら写真を1枚撮らせてください……私の作った服を誰が着てくれるの嬉しいので……も、もちろん勝手にアップしたりはしません………」


「それくらいなら全然大丈夫だよね!」


「はい!と言うわけで男子は解散!今日はもう教室入ってくるな!」

「ちょっちょ!!」

 そう言い、渚が男子全員を教室から追い出し、鍵をかけ、カーテンを閉めた。


「渚これどう?」


「お、着物あるじゃん!ちょっと着てみよう♪」


 即決


「紅葉はこれじゃない?」


 黒を基調にしたメイド服。


「なんかテキパキなんでもこなすメイド長的な感じ(笑)」

「……まぁ、一度着てみようか」


「で」


 誰かが言う。


「月城さんはどうする?」

「看板娘らしく、少し目立つやつとか?」


 視線が集まる。

並ぶ衣装の中。

一つ、

白い衣装に目が止まる。


「……これ」


 一瞬だけ、


 胸がざわつく。


――どこかで、

見たことがある気がした。


(天ちゃんの服にちょっと似てる……)


 思わずくすりと笑ってしまう。


「………ふむ」


 こはるが選んだ服を綿貫が覗き込む。


「それは……着物をベースに、可愛らしさも追求した……私オリジナルデザインのものでして……」

「正直、月城さんに……似合いそうだなと……持ってきた衣装なんですよね……おそらくサイズも合うかと……」

「むしろ……私からこの服を推そうと思ってたくらいなので……選んでくれて嬉しいです………」


「……え?」


「だってさ、着てみたら?」


 押されるように、

衣装を受け取る。



「……どう、ですか?」


 着替えたこはるをみんなが見る。

一瞬、空気が止まる。


「……やば」


 白い衣装。


 やわらかく広がるスカート。


 着物風の帯と袖。


「似合いすぎでしょ」


 その場にいる全員がそう思っただろう。


「あ、ちょっと待って!」

 いきなり声を上げ、渚が自分のカバンをガサゴソし始めた。


「あったあったこれこれ!」


 そして――

何かをこはるの頭に取り付ける。


「うさ耳……ですか?」

「私も、こはるにコレは絶対に似合うだろうなって持ってきたんだよね♪やだかわいい♡」


 そう言いながら抱きつく渚。


「何この可愛い生き物」

「これは看板娘以外の何者でもないわっ!」

「ミスコン出たらふつうに優勝狙えるよね」

「私も選んでいい?色々着てみたい!」


 笑いが広がる。


 その中で、


 こはるも小さく笑った。


 みんなと同じように笑っているはずなのに、


 その笑顔だけが、どこか遠かった。



文化祭前日


「これ運ぶの手伝ってー!」

「………」

「月城さん手伝って!」

「……あ、はい!」


 一瞬遅れて動くこはる。


「大丈夫?」

「すみません……ちょっと考え事してて」


 笑う。


「こはる、それ逆だよ(笑)」

「あ……すみません」

「……最近元気ないけど、大丈夫?」

「……大丈夫です、ちょっと寝不足で……」


 渚の問いに困ったように笑うこはる。


「すみません、ちょっと抜けてますね」


 そう言い、教室から出ていってしまった。

テーブルの並び替えをしながら、目でこはるを追う紅葉。


「………こはる…」


廊下。


 窓の外を見つめるこはる。


 あちこちから聞こえる賑やかな声。


 笑い声。


 でも――


 少しだけ遠い。


「……」



「……こはる」

「紅葉さん……」


 紅葉がこはるの隣で同じように、窓から外を眺める。


「大丈夫?」


 一瞬、止まる。


「……はい」

「そっか」


 少しだけ間を置いて、


「月見の日、天ちゃんと台所に行ってから、元気がなくなったように感じたけど…」

「!?」


 肩がぴくりと動いた。


「あはは……よく見ていますね紅葉さん」

「でも、天ちゃんのせいとかではないんですよ?」

「むしろ逆です……天ちゃんは、いつも私のことを考えてくれて……無理なお願いだって聞いてくれて……だからいくら感謝しても感謝しきれません……」

「…………」


 そう言って少し困ったように笑う。


「……こはる、私に何かできることとか……」

「気を使わせてしまってすみません……本当に大丈夫ですから……」


 紅葉の方に身体を向け、

一度軽くお辞儀をすると、

こはるは小走りでその場を離れていった。


(どうか、その最後まで……

後悔の無い……幸せの道を歩めるよう、見守ってあげてくださいね?)


「………」

 そこから動けない紅葉。

こはるの背中をただ見つめることしかできなかった。



放課後。


 準備も一通り終わり、

教室には少し疲れた空気が流れていた。


「疲れたぁー!!」

「でもこんなもんでしょ!」

「お疲れー!」

「明日楽しみだねー」


「こはる」


 雪斗が呼ぶ。


「……はい?」

「お疲れ様。大丈夫?」


 一瞬、間が空く。


「……大丈夫ですよ」


 その笑顔は、


 いつもと同じのはずなのに――


 どこか、


 無理をしているように見えた。


「………そっか」

「それじゃ帰ろうか」


「……ごめんなさい」

 頭を下げるこはる。

「……少し寄るところがあるので……」


 そう言い、1人で教室を出ていった。


「…………」


「こりゃ重症……だね……」

 ため息をつく渚。


「最終兵器の雪斗さんでもダメでしたか」

 陽向が雪斗の肩に手を置きながら、教室の出口を眺めた。


「でも…どうしちゃったんだろうこはる……」

 渚が心配そうな顔をする。

「声かけたところで、こはるが拒むんじゃ俺らにどうすることもできないしな」

「……そうだな」

「…………」


 大切な友達に何もできない無力感を感じ、握る手に力が入る紅葉。


 少しの沈黙の後、4人はゆっくりと教室を出ていった。


一人の帰り道。


 文化祭の準備を遅くまでやっていたため、あたりはすでに暗くなっていた。


「……」


 自分の手を見る。


(時間がない……)


 わずかに震えている。


(こんなことしている場合じゃないのは分かってるのに……)


 視界が滲み、


(でも……)


 涙が頬を伝う。


(私は…………)


 両手で顔を覆う。


 月は雲に隠れている。


 チリーン……


 ストラップの鈴の音があたりに鳴り響く。


 空は真っ黒な闇に覆われていた…

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