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ぜんうさ。  作者: 月白
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25/36

25 天音


 体育祭から、数日。


 キーンコーンカーンコーン


「はぁ〜……やっと授業終わったぁ……」


 大きく伸びをする渚。


「体育祭終わった後の授業って、なんでこんなにやる気出ないんだろうね」

「それは元々では?」


 紅葉の鋭いツッコミ。


「ひどくない!?」


 いつも通りのやりとりに、こはるはくすっと笑った。


 窓の外に目を向ける。


 空は少しだけ高くなっていて――


 夏の終わりを、どこか感じさせていた。


「えっと……月城さんいますか?」


 知らない生徒に呼ばれた。


 リボンの色を見る。


 どうやら一年生のようだ。


「あ、はい。私です」


 こはるを呼んだ生徒の元へと歩くこはる。


「その……校門のところで……妹さん……なのかな? が呼んでました」


「……え?」


 思わず、聞き返す。


「こはる妹いたんだ」

「知らなかった。親と一緒に海外にいってたとか?」


 後ろで渚達がざわざわしている。


「これくらいの身長で髪が長い子」

「……」


 そんな人、いたはずがないのに。


「ありがとうございます」


 小さく頭を下げ、教室を出る。


⸻


 廊下を歩く。


 足音だけが、やけに響く。


(……妹……?)


 胸の奥に、小さな違和感。


 校門へ向かう。


 少しずつ、周りの声が遠くなっていく。


 校門には小さな人影が………


「……こはるおねぇちゃん♡」


「……っ」


 足が止まる。


 ゆっくりと、振り返る。


 そこにいたのは、


 見慣れた、小さな少女が、にこりと笑っていた。


「……て、天ちゃん……!?」


⸻


「久しぶりじゃの」


「な、な、なんでここに……!?」


 服装はカジュアルな服になっているが……


 月の城で見たままの姿の帝釈天……


 思わず声が大きくなる。


「しー……」


 唇に指を当てる帝釈天。


「……あ、すみません」


 慌てて口を押さえるこはる。


「……えっと……」


 周りを見回す。


 まだ、帰っていない生徒もいる。


「……あとは帰りのHRだけなので、少し待っててください!」


「うむ」


 満足げに頷く帝釈天。


 こはるは一度お辞儀をし、走って校舎へと戻っていった。


⸻


 教室に戻るこはる。


「おかえりーこはる妹いたんだ! 知らなかったよ!」

「あ、いえ、そのー妹ではなくてですね……」

「ん?」


 頭を傾げる渚達。


「い、従姉妹なんです!」

「へぇ〜……」

「でもこはるも、急に学校にこられたらびっくりしちゃうよね。大丈夫だったの?」

「あ、はい! ちょっと今日はHR終わったらお先に失礼しますね!」


 そんな話をしているうちに、HRが始まった。


⸻


 チリン


「待たせました!」


 HR後、急いで校門へ向かうこはる。


「相変わらず忙しないのう」


 くすっと笑う帝釈天。


「とりあえず……場所を変えましょうか」

「そうじゃな」


 近くの喫茶店。


 カラン、とベルの音が鳴る。


「いらっしゃいませー」


「へぇ……今はこういう場所もあるのじゃな」


 興味深そうに辺りを見回す天ちゃん。


「普通の喫茶店ですよ」


 くすりと笑うこはる。


 案内された席に着く二人。


「何にしますか?」

「う〜む……甘いものがよいのう」


「……変わってないですね」


 しばらくして運ばれてくる、うさぎ形をしたバニーケーキ。


「……おぉ」


 目を輝かせる天ちゃん。


「なんじゃこれは! うさぎなのか!?」

「そもそも食べられるのか?!!」

「それはそれは……実にもったいない……♪」


 そう言いながらも、次々と口にケーキを運んでいった。


「……」


 その様子を見たこはるも、


 つられるように笑って、ケーキを食べ始めた。


⸻


「どうじゃ、地上は」


 スプーンを動かしながら、帝釈天が言う。


「……楽しいです」


 少しだけ、迷うように。


「すごく」


 少しだけ間を置いて、答える。


「みんな優しくて……毎日があっという間で」

「そうか」


 小さく頷く。


「ちゃんとやっておるようじゃな」


 フォークでケーキを食べ、慣れた手つきでカップの紅茶を飲むこはる。


「所作も問題なさそうじゃな」


 こはるの動作を見て、帝釈天は優しく微笑んだ。


「……それは」


 少しだけ、照れる。


「ちゃんと修行しておいて良かったじゃろ?」

「……はい」


 顔が真っ赤になっていた。


⸻


「妾もな」


 ふっと、息を吐くように。


「……はるか昔、一度だけ地上に来た事があっての」

「……そうなんですか?」


「本当に……久しぶりの地上じゃな」


 そう言って、少しだけ寂しそうに紅茶を口に含む。


「……それでだ」

「え……?」

「少しばかり、楽しもうと思ってな」


 にやりと笑う帝釈天。


 スプーンをくるくると回しながら、


「こはると、月見でもしようと思ってな」

「月見、ですか?」

「今はちょうどその時期なのじゃろう?」


「十五夜……ですか?」


 小さく頷く。


「明日は満月じゃ」


 そう言って窓の外を見る。


 ……渚がこちらをのぞいていた。


⸻


「あ〜、こはるじゃん! 急いでたからもう帰ったのかと思ったよ!」


 そう言いながら隣のテーブルに座り始める渚。


「あ、その子が学校に来てた従姉妹?」


 そう言って紅葉も手を振りながらテーブルに着く。


 まさかの遭遇に、こはるはびっくりしていた。


「いや〜雪斗君がバニーケーキをどうしても食べたいって言うからね……みんなで仕方な〜く来たってわけよ」

「言ってねぇよ」


 そう言いながらも二人も席についた。


「んで、こんなとこで何してんの?」


「えっと……」


 一瞬だけ迷う。


「えっと……初めまして! わたしはこはるお姉ちゃんの従姉妹の、月城天音です♪」


「天の音と書いて天音と言います♡ 天の漢字から、昔から天ちゃんってこはるお姉ちゃんから呼ばれているので、皆さんもぜひそう呼んでください♡」


 そう言って、座りながらも軽く会釈をする天ちゃん。


「そ、そ、そ、そうなんですよ〜。久しぶりに会いに来てくれたので、ちょっとおしゃべりをしていたところでして……」


 明らかに動揺しているこはる。


 みかねて、こはるの脛を軽く蹴飛ばす天ちゃん。


「………いっ!!」


「久しぶりに会いたくなっちゃって♪ そしたらここを案内してくれたんです! ここのケーキ美味しいですよね♡」


「あぁ! そういうこと!」

「お、天ちゃんもバニーケーキ食べてたんだ! これ美味しいよね。ね! 雪斗!」

「なんで俺に振るんだよ……」


 みんながいつもの感じに戻って一安心のこはる。


 視界の端に映った帝釈天が、


 ほんの一瞬だけ、釘を刺すような視線を向けていた気がした。


 が……


 気づかないふりをすることにした。


「あ、でもごめん。迷惑じゃなかった? 二人で話してたのに。」


 みんなの分のオーダーを終えた紅葉が、こはるに向き直る。


「…ぜ…全然大丈夫ですよ!」

「そろそろ十五夜ですし、こはるお姉ちゃんとお月見でもしたいですよね! って話をしてたんです♪」


「それなら良かった」


 柔らかく微笑む紅葉。


「ん? 月見?」


 陽向が雪斗の方を見る。


 雪斗は視線を不自然に逸らしていた。


「だってよ雪斗」


 ニヤニヤしながら陽向が雪斗の肩をつつく。


 それに気づいた渚も、


「あ〜、確かに久しぶりだしねぇ♪」


 同じようにニヤニヤしながら雪斗の方を見ていた。


 こはる、天ちゃん、紅葉の三人が首を傾げていると……


「雪斗のお母さん、そういうイベントとか祭り事好きなんだよね」

「そうそう、おばさんそう言うの好きだから、やるってなると結構張り切るタイプなんだよ(笑)」

「月見も小学校の頃はよくやってたし、久々にやってもいいんじゃない? ねぇ雪斗くぅん♡」


 そう言いながら絡んでいく陽向と渚。


「え!」

「いいんですか!?」


 目を輝かせるこはると天ちゃん。


「まだやるとも言ってないけどね」


 ボソリと突っ込む紅葉。


「…………」


 頭を掻きむしる雪斗。


 観念したかのようにため息をつく。


「……わかったよ、一応聞いてみるよ……」


「「おおー! やったー!」」


 各々が盛り上がる中、一人肩を落とす雪斗。


 そんな彼を見た紅葉が、こはるに何かを耳打ちをする。


「え?………わかりました。」


 耳打ちが終わると、耳を赤くしたこはるがゆっくりと雪斗の方に身体を近づける。


 そして……


「雪斗くん……」


 テーブルの上の雪斗の手を両手で包み込む。


「!?!?」


 突然の出来事にびっくりし、顔を上げる雪斗。


 そんな雪斗の目を見て……


「……いつもありがとうございます」

「………い、一応大丈夫だとは思うけど、ダメだったとしても文句言うなよ!!」


 顔が真っ赤な二人を見て笑いを堪える紅葉達。


「……ほぅ」


 そんな様子を見て、小さく笑う帝釈天であった。


⸻


 その後、


 母親に連絡をした雪斗。


 返事はもちろんOK。


 明日。


 雪斗の家で、月見をすることになった。


⸻


 店を出る。


 夕暮れの空。


 少しだけ丸くなった月が、


 静かに浮かんでいた。


「お兄ちゃん達! 今日はありがとう! 明日楽しみにしてるね♪!」


 大きく手を振り、雪斗達と別れたこはると天ちゃん。


「……」


 こはるは、何も言わずに空を見上げていた。


「ふぅ……」

「天ちゃん……凄いですね……」

「何がじゃ?」

「いや……キャラというか何というか……」

「まぁ……年の功というやつかの……」

「クスッ」

「逆にお主が馬鹿正直すぎるのじゃ」

「………はい」

「こっちまでヒヤヒヤしたわい」

「……すみません……」


 その反応を見て、優しく笑う帝釈天。


「それでは――妾はこの辺りで失礼するかの」

「え?」

「明日の夜、月見が終わったら妾も月へ帰る。その前に少しやりたいこともあるからの」

「月へ……?」

「それじゃ、また明日」


 そう言った次の瞬間、


 目の前から帝釈天の姿が消えていた。

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