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37日目 囁きの光 〜進め、忘れろ、声は無邪気に〜

在庫/三十七日目


・水:1.5L(変化なし)

・食:海藻 微量

・塩:微量

・火:なし

・記録具:ペン 使用可


朝。

帳を開いた瞬間、数字が滲んで見えた。

昨日の「1.5L」が勝手に残されている。

2Lと確かに記した。間違いではない。

だが帳は訂正を拒み、紙は固く、数字は墨より深く沈んでいる。


「これは…私の命を削る帳だ」


その確信が喉を震わせた。


昼。

視線を巡らせて気づいた。

昨日まで、隣にいたはずの潮の人が…どこにもいない。

砂浜にも、沖にも。影すら残していなかった。


「消えた……?」


呟いた声は風に吸い込まれ、誰にも届かない。

ただ帳だけが震え、墨が滲み、現実を削り取っていく。


眩暈。

指は勝手に震え紙の上を這う。

記録の数字が勝手に並び替わる。

「〇」「一」「五」「L」――意味を持たぬ列が躍り、私の目に突き刺さる。


そのとき。


遠く。

視界の向こうに光が揺らいだ。

白とも銀ともつかぬ、柔らかな輝き。

そこから…声。


「進め」


幼い子供が遊ぶような調子で。


「忘れろ」


歌うように、冷ややかに。


「楽になるよ」


甘やかで、残酷な響き。


夕刻。

「残せ」「消せ」「進め」「忘れろ」

四方から声が飛び交う。

どれが命令でどれが幻聴か。

帳は震え、墨がにじみ、光がページの上に降りる。


私は叫んだ。


「これは……私の命だ!奪わせはしない!」


しかし返ってきたのは、子供の笑い声だった。


「くすくす。まだ守れると思ってるの?」


夜。

光は消えず、声も止まらない。

潮の人は消え、帳はにじみ、私はただ抱え込むしかなかった。


眠りに落ちる寸前、耳の奥に残ったのは…


「もう、全部忘れていいんだよ」

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