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36日目 帳の歪み 〜数字の消失〜
在庫/三十六日目
•水:1.5L(変化なし…のはず)
•食:海藻 微量
•塩:微量
•火:なし
•記録具:ペン 使用可
朝。
帳を開いた瞬間、目が凍りついた。
「――水:1.5L」
そんな数字を書いた覚えはなかった。
私は昨夜、確かに2Lのまま記した。
容器を揺らしても水は減っていない。
だが帳の中では数字が勝手に削れている。
「誰が、書き換えた?」
私は慌てて修正線を引いた。
2L、と記し直す。
だが瞬きの間に――数字は再び1.5Lに戻っていた。
記録が現実を侵しはじめている。
午後。
海藻の量を数えようとした。
だが帳には「食:なし」と記されていた。
手の中には確かに束があるのに。
口へ運ぼうとした瞬間、海藻は砂に変わった。
「これは…」
帳が狂っているのではない。
帳こそが現実を決定している。
在庫表は在庫そのものだ。
数字は、命そのものだ。
夜。
私は帳を睨み続けた。
ペン先は震え、汗が紙に落ち、染みを広げていく。
「消すな。まだ消えるな」
声にならない声が、喉を焦がす。
所感:
数字が消えるたび、命が削られる。
制度と現実はついに逆転した。
この帳を奪われれば…私は存在できない。




