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空の玉座と美しの狂王  作者: 香
第一部 人魚
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神の山2

よろしくお願いします。

 集落は、内側に大きく反り返った崖に囲まれた、壺状の土地だった。

 巨大な洞窟である。

 一体どうやったのか、崖のてっぺんにまで杭が点々と打ち込まれている。けれど、身体が資本の男らも、あれを梯子や階段として使うのは無理だと思った。太さこそ均一に見えたが、距離はまちまち、平らな面はなく丸みを帯びて、おまけに男の足でははみ出してしまうくらいの直径しかない。そこを、年若い、あるいは年老いた者がすいすい伝って下りてくる。

 何度目かの、化け物め、が口をついた。

「全員ができるわけじゃないさ」

「分担だよー」

「上れる奴が、上るだけだ」

 おかしそうに彼らは言う。確かに見回せば不具の体を持つ者が目立った。片方だけの手や足、白濁した目、青白く痩せ衰えた、それでも冴え渡るような美人たち。どことなく高貴な横顔をしている。男らは、屈まなくては通れない横穴から集落へ入った。


 その夜だった。


 寝静まった集落を、不意に大音声が襲った。

 落石だ。燃え盛る石が崖を転がり落ちてくる。

 明らかに作為的な攻撃だった。

 男らは「客人だから」、迎撃には参加させてもらえなかった。その代わり一番安全なところへ逃がされた。六十過ぎの老女に背中を預けて、だ。

 何とも情けない話だった。それでも、男らには確かに、こんなところで死ぬわけにいかない事情がある。


 一番安全なところ、は、崖からすこし離れた巨木の影にあった。言われなければ気づかない根と根の隙間に、子どもが一人やっと通れるくらいの穴が開いていたのだ。かなり深く続いていた。

「抜け道だ」

「ここは秘密なの」

「でも、もう秘密じゃなくなるね」

「あなたたちが使うから」

「途中でかごを拾って行きなよ」

「運がよかったね」

 案内をした少年少女は口々に言い、大人たちの手伝いへ戻っていった。


 やはりカルブを先頭にして、男らは這いずって進んだ。

 しばらく行くと急に開けた場所へ出た。もう立って歩ける。手を伸ばしても、天井には届かない。

 松明で照らしてみた地面はきれいに慣らされていて、通路の脇には見事な彫刻があった。古い貴族の館のようだ。あるいは古代の神殿のよう。神話を題材にした壁画は道を行くほど様子が変わっていった。

 創造、生命、厳かな契約と冠、傲慢、そして破滅……。

 通路は一本道だった。途中に部屋がいくつかあり、そこは墓だった。集落の彼らと同じ類の、より見事な衣装をまとった人骨がいくつも横たわっている。光沢のある布地に小さな輝石が縫いこまれていて、頼りない光でもちろちろと反射した。腐敗臭はない。どころか、野原で摘んだ花びらのはにかむような優しい香りさえした。


 一層おそるおそる進んでいくと、やがて一際目立つ扉に突き当たった。それはぶ厚くて黒い石板を削ってつくられていた。もちろん彫刻がされている。激しく波の打ちつける岩に腰かけた女。裸をなびく髪で隠し、下半身は魚。海にはあまり縁のない男らにも覚えのある魔性だ。

 人魚、と無口なドッブが珍しく口を開く。

「こんな山の中に?」

「それならさっきの壁だってそうだ。意味を考えるより、先に進もう。あまり時間がない」

 もうここまで来ると、詩人にうたわれる冒険譚のようにさえ思われた。

 あの集落のことも、巨木の抜け道も、まるで現実ではないような気がしていた。

 若く力の余っているビルニークとドッブが二人がかりでやっと扉を開けた。

 そこには大きな「かご」があり、中では少女が歌っていた。

 男らは呆然と立ち尽くした。



ありがとうございました。

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