神の山2
よろしくお願いします。
集落は、内側に大きく反り返った崖に囲まれた、壺状の土地だった。
巨大な洞窟である。
一体どうやったのか、崖のてっぺんにまで杭が点々と打ち込まれている。けれど、身体が資本の男らも、あれを梯子や階段として使うのは無理だと思った。太さこそ均一に見えたが、距離はまちまち、平らな面はなく丸みを帯びて、おまけに男の足でははみ出してしまうくらいの直径しかない。そこを、年若い、あるいは年老いた者がすいすい伝って下りてくる。
何度目かの、化け物め、が口をついた。
「全員ができるわけじゃないさ」
「分担だよー」
「上れる奴が、上るだけだ」
おかしそうに彼らは言う。確かに見回せば不具の体を持つ者が目立った。片方だけの手や足、白濁した目、青白く痩せ衰えた、それでも冴え渡るような美人たち。どことなく高貴な横顔をしている。男らは、屈まなくては通れない横穴から集落へ入った。
その夜だった。
寝静まった集落を、不意に大音声が襲った。
落石だ。燃え盛る石が崖を転がり落ちてくる。
明らかに作為的な攻撃だった。
男らは「客人だから」、迎撃には参加させてもらえなかった。その代わり一番安全なところへ逃がされた。六十過ぎの老女に背中を預けて、だ。
何とも情けない話だった。それでも、男らには確かに、こんなところで死ぬわけにいかない事情がある。
一番安全なところ、は、崖からすこし離れた巨木の影にあった。言われなければ気づかない根と根の隙間に、子どもが一人やっと通れるくらいの穴が開いていたのだ。かなり深く続いていた。
「抜け道だ」
「ここは秘密なの」
「でも、もう秘密じゃなくなるね」
「あなたたちが使うから」
「途中でかごを拾って行きなよ」
「運がよかったね」
案内をした少年少女は口々に言い、大人たちの手伝いへ戻っていった。
やはりカルブを先頭にして、男らは這いずって進んだ。
しばらく行くと急に開けた場所へ出た。もう立って歩ける。手を伸ばしても、天井には届かない。
松明で照らしてみた地面はきれいに慣らされていて、通路の脇には見事な彫刻があった。古い貴族の館のようだ。あるいは古代の神殿のよう。神話を題材にした壁画は道を行くほど様子が変わっていった。
創造、生命、厳かな契約と冠、傲慢、そして破滅……。
通路は一本道だった。途中に部屋がいくつかあり、そこは墓だった。集落の彼らと同じ類の、より見事な衣装をまとった人骨がいくつも横たわっている。光沢のある布地に小さな輝石が縫いこまれていて、頼りない光でもちろちろと反射した。腐敗臭はない。どころか、野原で摘んだ花びらのはにかむような優しい香りさえした。
一層おそるおそる進んでいくと、やがて一際目立つ扉に突き当たった。それはぶ厚くて黒い石板を削ってつくられていた。もちろん彫刻がされている。激しく波の打ちつける岩に腰かけた女。裸をなびく髪で隠し、下半身は魚。海にはあまり縁のない男らにも覚えのある魔性だ。
人魚、と無口なドッブが珍しく口を開く。
「こんな山の中に?」
「それならさっきの壁だってそうだ。意味を考えるより、先に進もう。あまり時間がない」
もうここまで来ると、詩人にうたわれる冒険譚のようにさえ思われた。
あの集落のことも、巨木の抜け道も、まるで現実ではないような気がしていた。
若く力の余っているビルニークとドッブが二人がかりでやっと扉を開けた。
そこには大きな「かご」があり、中では少女が歌っていた。
男らは呆然と立ち尽くした。
ありがとうございました。




