第3話:決戦2
(正直空中戦は得意じゃないな)
私は内心後ろ向きなことを考えてしまった。戦い方が前世で身に着けた古武術を基盤にしている私は、地に足着けて戦うのが一番だ。日本の古武術は当然、空を飛べるものが使うことを想定されていない。
(かといって、魔法戦はミラの望むところ。相手の土俵に乗るのは正しい判断とは言えない)
今の威圧感を醸し出すすミラに、魔法戦は悪手。そう思った私は間合いを詰めて、刀を振るう。
「こんのっ、鬱陶しい」
ミラはうまく防いでいるが、こちらの攻撃に翻弄されている。キキョウの羽がある分、ミラの魔法より飛行性能はこちらが高いようだ。
「残像分身」
猛スピードの移動にところどころ停止を混ぜることで残像を残し、分身しているように錯覚させる移動法。これならもっと錯乱させられるはず。
「なら、風魔法・エアプレスエリア」
ミラがその魔法を発動した瞬間、私は急に動きづらくなった。
(これは、空気抵抗が上がってる?)
「風魔法で周辺の空気をここに集中させたの。空気抵抗を上げれば、満足に飛べないでしょ?」
動きの鈍った私をとらえたミラは、満足そうに笑うと、拳の狙いを私の顔面に定め、振り下ろす。何度も何度も何度も何度も……
「しつこい!」
その拳を掴み、顔面の痛みを力に変え握力で強引に握りつぶそうとする。しかし、なぜか壊れたのは私の手だった。
思わず手を放して距離をとる。負傷箇所である手を確認すると、ひび割れのような傷が浮かび上がっていた。
(普通の傷じゃない。おそらく何かのスキル)
「破壊の掌」
こちらに向かってくるミラの両手を掴み、私たちは取っ組み合いの状態になった。その際刀を手放してしまったが、まあどうとでもなる。
「いった……」
手を起点に、ひび割れのような傷がどんどん広がっていく。出血もひどくなってきた。
「こんのぉ!」
「ぐっ」
私は負けじと、ひび割れた手の握力を強める。幸い、傷は回復魔法で治療できるようだ。つまりこれは、ミラの手の耐久力と、私の回復力の勝負。
「ははは、おかしいよ!そのひび割れのような傷は私のスキル破壊者の力。この手で触れた対象を破壊する私にぴったりの力。破壊規模は接触時間に比例する。つまり、あなたは握力を強めても私の手しか壊せないけど、私は全身を壊せる。この勝負は、私が有利なのよ!」
「なら、雷魔法・スパーク」
私は全身からか電気を発生させ、接触しているミラにダメージを負わせた。
「雷魔法・プロテクトサンダー」
しかし、多少のダメージが入ったもののミラにはすぐ対応されてしまった。
「魔法で私に勝てるわけがない。あなたの知識は確かに魔法の効率化には役立つものもあるけど、物理法則の半端な知識や常識は魔法に対する想像力や視野を狭めさせる。加えて、あなたは種族特性に反して接近戦が得意で魔法はそこまで得意じゃない」
「……そうだよ。だから、強引に接近戦の土俵に引きずり込む。反魔法領域展開!」
雷魔法も、風魔法も、全ての属性魔法が消えた。それに動揺したミラは手を放し、落ちていく。羽をもたないミラは、風魔法で飛ぶのではなく、魔力で空中に足場を作る方法で空に立った。
「これは……」
「周辺の精霊に働きかけることで属性付きの魔法の発動を阻害する領域を作ったの。この技は精霊眼を持つ私にしか使えない。この領域内で使えるのは無属性魔法のみ。さあ、決着をつけよう」
私は掌を広げ、手放した妖刀に心の中で呼びかける。すると、落下途中の妖刀が私の呼び声に答え、空を飛び手元に戻ってきた。
(属性魔法が使えない以上接近戦に応じるしかない。けど相手は刀で私は素手。ならまずは隙を見て武器を破壊……いや、未来視がある以上意表を突いた攻撃は通じないなら……)
魔法が封じられても、ミラの脳裏に敗北の二文字はない。
(こっちが刀を持ってるとはいえミラは接近戦が不得意なわけじゃないし技術はともかく身体能力や耐久力は向こうの方が高い。なら……)
リーナの考えのも油断はなかった。
(未来視の予知も追いつかない速度でゴリ押すしかない!)
(刃物の殺傷能力を活かして急所を狙って早めに決着をつける!)
二人が出した結論は単純で、だからこそその戦闘は、激しいものとなった。
「全魔力開放・アクセルブーストマキシマム!」
「制限解除・身体強化第三段階!」
速度に重きを置いたミラの攻撃は、ただ早いだけではなく、加速による力がそのまま攻撃力に変換されたとても強いものだった。
(当たったらひとたまりもないな)
それを悟った私は回避に集中する。機動力自体はこちらに分がある。未来視など関係ない領域の速度でも、勘を駆使すれば避けられないわけではない。かすり傷は増えたが、致命傷以外はどうでもいい。問題は時間だ。
(早く、決着をつけないと。それは向こうも同じはず)
リーナもミラも、己の限界以上の強化を自分に施している。このまま戦闘を続ければ、そう遠くないうちに二人は自滅する。二人にとって、自分の命はどうでもいい。この戦いに臨んだ時点で死ぬ覚悟はできている。執着するのは相手の命。必ず殺さなければ。その思いで戦っている。
「「はああああああ!!!!!」」
私の刀とミラの蹴りが衝突する。刀はその足に深々と突き刺さった。
「ふん!」
「!?」
なんとミラは、自分の足ごと刀をへし折った。
「があああああ!」
武器を失った私に、思いっきり間合いを詰めて、抱きしめてくる。背骨を折るつもりなのか、スキルで全身を破壊するつもりなのか。……両方だった。
「私の勝ちだ!」
ミラはこの時、勝利を確信したようだ。
ミラから勝利の確信という名の油断を感じたとき、私は自分の死を確信した。
「サクリファイスボンバー」
なぜなら、自爆するのだから。
「まさか、体内の魔力を暴走させて爆発を……この規模の魔力を暴走させたら……」
「死ぬだろうね。私もあなたも……」
できれば使いたくなかった。けど、そうでもしないと倒せないほどミラは強い。なら、使うしかない。けれど、ちょうどいいとも感じていた。友達を殺して自分だけ生き残るなんて、寝覚めが悪い。私には、これくらいの結末がちょうどいい。
「やめ……」
ドオオオオオオオオオン!!!!!
爆音とともに、焼け焦げた二人の肉体が地に落ちる。これで、決着はついた。




