第1話:対面
目を覚ました時、私の視界に入ったのは天井の木目だった。
「ここは、どこ?」
急いで起き上がると、私は今までベッドに寝ていたのだと自覚した。とりあえず部屋の外に出て、状況を把握しようと務めた。
そしてドアを開こうとして、勝手に開いたドアが私の顔にぶつかった。
「ヘブッ!」
「あ、ごめん。って、目覚めたのリーナちゃん!?」
ドアの先にいたのはミレイだった。
「いったぁ~、ミレイ、ここどこなの?私さっき目が覚めたばかりなんだけど……」
「ここは私たちを転移してくれた騎士の実家だよ。その騎士の母親に事情を話して、しばらく泊めてもららえることになったの」
「そうなんだ。あとでお礼言わないと……痛っ」
今のはドアのこととかは関係なく、普通に全身が痛い。ものすごく痛い。
「無理しないで。魔王との戦いのダメージはまだ残ってるはずだから。とりあえず食事にしようか。動けないなら肩貸すよ」
「ありがとう」
そして私は、ミレイを肩を借りながら、食卓へ向かった。食卓にはすでにレイラとザックもいて、知らない女の人が料理を用意していた。おそらくこの人が騎士の母親なのだろう。
「あら、目が覚めたのね。ごめんなさい、今は胃に優しいものを用意してなくて……すぐにおかゆを用意するわ」
「あ、お構いなく。食べ盛りなので」
ただでさえお世話になっているのに手間をかけさせたくないので遠慮しておいた。遠慮というより、今になってお腹がすいてきたので本当に腹にたまるものを食べたい。
「「「「いただきます」」」」
食事の間は、決して穏やかな時間とは言えなかった。雰囲気は、どこか暗かった。その理由は、食事が終わった後に分かった。
「リーナさん。あなた、勇者なのよね。三人から聞いたわ。魔王との交戦中に、ここへ逃げたって」
「……はい。私は、逃げました。貴方の息子の力を借りて」
敗北は、苦い思い出だ。まして、その敗北の生で誰かが死んだとなれば、その苦みは筆舌に尽くしがたい。
「……どうか、息子の仇をとってください。子供のあなたに頼むことではないのかもしれませんが、それ以外に私はこの悲しみをどうにかする方法を思いつかないのです」
仇をとること。ミラを殺すこと。……目の前のこの人も、グランさんも、転移してくれた騎士も、みんながそれを望んでる。
「わ……わかりました」
殺す覚悟すらないくせに、私はそう答えてしまった。
その日の夜、私は眠れなくて、とりあえず乾いたのどを潤そうと、水をとりに自分にあてがわれた部屋から食卓へ向かった。
そこには、ミレイ、レイラ、ザック、みんな揃っていた。私を待っていたかのように。
「なあ、あの魔王とお前、どういう関係なんだ?全く面識のない初対面……って雰囲気じゃなかったぞ」
「……わかった。ちゃんと話す」
ここまでっ察せられていたのなら、隠していてもしょうがないと、私はミラとの関係を全部話した。最近までその時の記憶は奪われていたことも。
「私は……ミラを殺したくない」
「ふざッけんな!!!」
正直な気持ちを話した。そして、ザックに胸ぐらをつかまれる。
「魔王は、リバーナ王国城下町を滅ぼした。騎士がだいぶ倒したとはいえあの数だ。それに腕の立つ味方は全部魔王が相手しただろうからな。ほぼ確実に城下町の住民は皆殺しだ。わかるか?母さんはもう、魔王に殺されたんだよ!」
「あ……」
ザックの母親。血縁上は伯母だが、見ず知らずの私たちを育ててくれた、私たちにとっても母親のような人。
……この世界で初めて親の愛をくれた、私の大切な人。
「それなのに、殺したくないだと!?魔王だぞ!?世界の敵だ!母さんの仇だ!大切なものを奪ったんだ!なのになんで……」
「と、友達だから……」
「こんな事しでかした奴を、まだ友達って呼べるのかよ……」
「ミレイ、レイラ……」
助けを求めるように、二人の名を呼ぶ。ザックの問いに、答えが欲しかった。自分では考えることができないから、誰かに教えてほしかった。
「……私は、どんな悪人でも殺してはいけないっていえるほど、善人じゃないよ」
「私も、リーナちゃんに賛成はできない」
「「魔王は、殺すべきだよ」」
ミレイとレイラの返事は、無慈悲で、正しかった。
「お前は、許せるのかよ?母さんの仇を……」
ザックの気持ちは、痛いほどわかった。共感、できてしまった。だから、私は……だから……私は……。
「わかった。……魔王は、ちゃんと殺す。私も……許せないから」
決めた。
それから、色々あった。魔王討伐を決意し、そのために各地を転々とし、経験を積んだ。
軍事大国ヴァルコンでの戦闘訓練。
「ミレイ殿、レイラ殿、ザック殿。あなた方は勇者殿ほどの素質はありません。あなた方がどうしても勇者殿の戦いについていきたいのであれば……地獄を見るしか方法はありません」
「「「覚悟はできてます!」」」
「その意気やよし!ならば、この訓練場にいるわが国が誇る上級兵と力尽きるまで戦いなさい!勇者殿はその間、私と模擬戦しましょう」
三人はひたすら上級兵と、私はグランさんの次に強いと言われるヴァルコン王国騎士団団長と一日中戦った。あれはまさに模擬戦という名の殺し合いだった。
エルフの国の婚約騒動。
「勇者殿が我が国の王子と婚約すれば、我が国の地位は盤石なものとなる。どうか受け入れてはくれないだろうか」
「ふざけんな!惚れたおん……大事な仲間を簡単に嫁に出せるか!」
ザックが私より怒って大変だった。
妖刀の修理と強化のための外来。
東の国へ行くために船で旅をし、海賊に襲われながらも何とか到着。
「この刀を直してほしいんです」
「これは、我が師が魂を込めて作り上げた生涯最後の一振り、妖刀・鉄血。わかりました。弟子の私が、この作品をより完璧なものに仕上げましょう」
敵幹部との戦い。
「魔王様は、世界を憎む俺に暴れる場所と力をくれた。てめえらにわかるか、行き場のない衝動をぶつける力すらない無力への絶望。あの人は分かってくれた。救ってくれた。だから俺は、あの人のために命を懸ける」
「私は、復讐とか憎しみとかどうでもいい。全部諦めたもの。けど、ミラは違う。ミラはどこまでも憎悪に従って突き進む。なら私も、あの子と同じ道を行く。ミラは同じ施設で育った、私の妹だから」
「俺は、俺たちが正しいとは思わない。けど、正しい道を選んだら、俺たちは生きていけないんだよ。だから、正直羨ましい。正しく生きれるお前らが」
様々な主義主張があった。そして、憎しみにとらわれたミラにも、慕ってくれる存在や、家族がいたこと。それを嬉しく思うと同時に、嫉妬にも似た悔しさを覚えた。
そんな様々な苦難があったけど。これで最後だ。遂に、魔王の拠点についたのだから。
「みんなはここで待ってて。ここからは、私一人で行くから」
「リーナちゃん」
「……死なないで」
ミレイ、レイラは死ぬなといった。
「母さんの仇を、頼む」
ザックは仇をとれといった。
「……キキョウはついてきて。キキョウは私のパワーアップには必要だから」
私は三人の言葉に答えずに、先へ進んだ。そして……
「久しぶりだね。リーナちゃん」
、魔王と対面した。
もうすぐ完結です。




