第8話:オーズ
「ここは……どこ?」
意識を失ったはずの私は、いつの間にか真っ白な空間にいた。見慣れないはずなのに、どこか既視感のある光景。
「久しぶりだな。今代の勇者」
背後から声がした。急いで振り返る。
「よっ」
そこには、私を転生させた神様、オーズが立っていた。
「そうか!転生する前にあなたに会った空間……」
「とりあえず、聞きたいことがあったら何でも言えよ。そのために連れてきたんだし……」
既視感に納得し、頭を整理させると聞きたいこととやらはたくさん出てきた。本人の許可も得たので、遠慮なく質問しよう。
「勇者と魔王の因果って何なの?グランさんは殺し合う運命にあるって言ってたけど……」
「う~ん、その二つの称号は、世界にとっても特別だな。けどまあ簡単に言えば、磁石とマーキングみたいなもの、かな?」
魔王の称号は、人類の文明を破壊する意思と、それを可能とする力をもつ可能性のあるものに現れる。そして、それに対抗する力と正義感を持つものに、勇者の称号が現れる。
世界としてはその二人に争ってもらい、人類の結末を決定づけてもらわねば困るので、種を植えつけ常にその存在を把握し、世界の破壊と救済、どちらかが決定づいたところで、種を開花させ因果を結ぶ。
因果とは、互いを殺し合う運命のこと。その殺し合いを実現させるために、どちらもほぼ互角の状態にさせるように運命を操る。魔王が強すぎれば勇者に強敵と遭遇させLvアップさせたり、強い仲間を増やす機会を与えたり。その因果が果たされるまで、二人が死ぬことはない。
「死ぬような状況になったら、別の誰かにしわ寄せがくるってこと?」
「そうだな」
私をかばって死んだ騎士たちのように……私のために死ぬ命が、この先どれほど現れるのだろう。
「そもそもなんでそんな称号と因果が存在するのかっていうと、世界がより良くなるために搭載された機能ってことだな」
魔王が現れるということは、人の世界を破壊したいと思うほどの醜い出来事があったということ。勇者が現れるということは、命がけで守りたいと願うほどの価値を見出すほど美しいものが世界にあるということ。
魔王が勝てば文明をリセットしより良いものに、勇者が勝てば今ある文明をベースに改良を……どちらにせよ、世界はより良い方向に働く。
「俺としては今回は魔王を推してるんだよな。転生させたお前には悪いけど。いや、ダークサイドってなんか共感できるんだよね。俺も元魔王だし」
「え!?」
神様が元魔王って……どういうこと!?
「俺もかつて……千年くらい前かな?は人間だったんだよ。当時、黒い髪は厄災の象徴とされていた。そして俺は、生まれた村で虐げられて育った」
……私と同じだ。
「そして俺は、精神を操る闇魔法を身に着け、村人を皆殺しにした後、邪法を使い力をつけた」
蟲毒の邪法。精神を操り魔物同士を殺し合わせ、最後に残った一体を自分の手で殺すことによって、効率的にLvを上げる。生命の冒涜ともいえる所業。だが、その効果は高い。人が神に至れるほどに。
「いやーこれほんとに便利なんだよ。おかげで俺、神様に格上げしたんだぜ」
おぞましき邪法を笑って便利の一言で済ませるその姿。リーナは元魔王という本人の発言に納得した。
「Lvを上げすぎると人はその存在を格上げされ、やがて神に至る。グランもいい線いってたが、いかんせん強敵に恵まれなかった。あいつがドラゴンを独りで倒したとき、この空間に呼んで少し話したんだよ」
グランはなりふり構わず強敵を殺す人生を送ったら神になれるほどの素質があった。そうしたらいいとオーズはこの空間で提案した。しかしグランは、神になる人生より人として生きることを選んだ。
「長生きしてもどうせろくなことないから神になるなんて御免だと。いやー変わった奴だった。もう死んだけど。で、その時ついでに、勇者と魔王の因果についてグランに話した」
グランさんが妙に詳しかったのはそのせいか。
「あ、話が脱線した。まあ、虐待された俺はとにかく世界を恨んで、復讐のために力をつけて、復讐の過程で神になったわけだ」
苦労したんだぜ~と、全くそのそぶりを見せない軽い口調で語るオーズに、リーナの目は呆れて半眼になった。
「で、神様になって、なんか虚しくなった。こんな小さな世界に復讐して何になる。人の営みなんてそんなもんだ。神に比べたら矮小で、そんな存在を殺して何が満たされるんだろう。絶対的な力をもつことで、俺の価値観はガラッと変わった」
超越者の視点ってやつだと、オーズは、悲しそうに、虚しそうに……その表情から今の心境を推し測ることはできなかった。高々一人の人間である私に、神を測ることなど出来るはずがないのだ。
「そんなわけで、魔王から神になって、テキトーに世界を見守って、気まぐれに転生させたりして、今に至る。あ、もちろんお前を転生させたのは気まぐれじゃないぞ。今代の魔王に張り合える奴がいなそうだったから、いっそ別の世界から素質のあるやつをもってこようって思って」
私は気まぐれじゃあなくても、他の二人は気まぐれだと、オーズは語った。私とほぼ同じタイミングでたまたま死んだから、もののついでみたいに半端な能力をつけて転生させたそうだ。
「まあ俺が何を言いたいかっていうと、頑張って殺し合ってねってことだ。俺の推しは魔王だけど、お前のことも気に入ってるし」
―――しかし、復讐心の果てに魔王が破壊した世界がどういった結末を迎えるのか。かつての自分に似たミラの勝利と結末が気になるのも本心だ。
「けど、どんな最後だろうがミラには笑って逝ってほしいもんだ。俺に似てるからなのかな?誰かにこんな想いを抱くなんて、神になってから初めてだ。だから頼む。納得のいく結末を、あいつにあげてやってくれ」
―――それができるのは、勇者であり親友であるお前だけだ。
オーズはそう締めくくった。
「じゃあな。もう会うことはないだろ」
白い空間に、黒い亀裂が走る。亀裂は広がり、大きくなって、白が砕けて、、崩壊して……
そして、リーナの意識が覚醒した。




