第7話:覚醒
「かっこいい遺言残したところ悪いけど、今ここで私がリーナちゃんを殺して、勇者と魔王の因果は終わりだよ!」
殴り飛ばされたミラが、戻ってリーナに拳を振るう。その拳は、リーナの顔面に突き刺さる……はずだった。
「え……?」
その拳は、リーナの掌で止められていた。
「嘘!?グランを殺したことでLvは上がった。攻撃力も上がった。身体強化をしていないとはいえ、今のリーナちゃんに止められるはず……うわっ!」
今度はリーナの蹴りがミラの鳩尾に入った。またしても吹っ飛ばされるミラ。だが、すぐに体勢を立て直す。
「いったいどんな手を……そうか!妖刀」
妖刀は強者の血を吸うことでその力を増し、その力を持ち主に分け与えることもできる。いまのリーナの身体能力は、妖刀がグランの血を吸う前とは比べ物にならない。
「身体能力が上がったのならそれ以上の能力でねじ伏せる。身体強化!」
ミラの猛攻がリーナを攻め立てる。一見無造に放たれたように見える拳の連打。その一撃一撃が必殺の威力。一撃でも貰えば昏倒必至。だが……
「当たらない!?」
未来視による先読みで、その攻撃を避ける。どのような強い攻撃も、当たらなければ意味がないのだ。
「流連撃」
逆に、リーナの流れるような連撃がミラの急所を次々と穿ってゆく。
「連打を打つときは狙いは雑にならないよう、なるべく急所を重点的に狙えって昔教えたよね。忘れた?」
こんな状況でも戦えば昔のことを振り返ってしまう。最近思い出した記憶だけれど。
「おかしい。ありえない」
ミラが呆然と呟く。だがその疑問は私も同じように抱いている。今の私はあり得ないほどに強い。妖刀の力を加味しても、今の私の身体能力はグランさんに劣る。それなのに、なぜ私はミラを接近戦で圧倒できているのだろうか?
その答えは、リーナが持てる力の全てを解放したからだ。リーナは今まで、無意識に力を抑え込んでいた。
この世界の人間は、Lvが上がればどこまでも強くなれる。Lvを上げ続ければ大岩を素手で砕けるし、剣で海を斬ることも可能だ。前世の人間の限界など簡単に超えることができる。だが、前世日本人だったリーナは、地球での常識がしみこみすぎて、そのことについてあまり実感がわかなかった。
オリンピック選手や高名な武術家でも、人間の限界を超える力など手に入らない。その思い込みが、リーナ自身の実力を過小評価させていた。それは、騎士が優れていると評した技術もだ。
前世で培ったもの。そして今世、義務教育を受けることなく空いた時間のほとんどを武術の鍛錬に打ち込み、武術の才能により成長速度を加速させているリーナ。その技術は、前世のどの武術家とも圧倒的な開きがある。この異世界においても、リーナより優れた技術を持つ者はいない。それは優れているなどという言葉で収められるものでは断じてない。
だが、人間としての限界を迎えるのが早い前世の価値観が、これ以上は伸びない、人間の限界以上の技術など持っていないと思い込ませた。そしてリーナは、自分の力を無意識に抑えてしまった。
しかし、グランの人間を軽々と超えた非常識ぶり、妖刀の力をもったことによる高揚、ミラとの再会による複雑な感情、グランの死による悲しみが、その無意識の思い込みを忘れさせたのだ。
「調子に乗るな!土魔法・隕石」
上空から隕石が発生。私は、刀を持って上半身を思いっきりひねった。
「模倣剛剣術・絶剣」
刀から放出された魔力は、隕石をたやすく砕いた。
(威力が足りないな。本家なら隕石なんか破片も残らず消滅させてた)
絶剣は原理自体は単純で、模倣するのはそう難しいことではない。ただ、単純故に使用者の力量がもろに影響するものではある。絶剣は、グランが使うからこそ必殺の奥義足りえるのだ。
(これなら、勝てるかもしれない)
「勇者とか魔王とか関係ない。私とあなたの因縁は、これで終わりにしよう」
そして、私は構えた。ミラにとどめを刺すために。
「……もしかして、今、勝てると思ってる?」
ゾクッ!!!
ミラの雰囲気が変わった。その威圧感は、グランさんと戦っていた時以上。
「身体強化・第二段階」
「それがどうしたの?」
ミラの拳が、私のみぞおちを打ち抜く。それは、未来視と身体強化・第二段階の反応速度をもってしても追いつけないほどの速度だった。
「ほらほらほらほら、さっきまでの威勢はどうしたの?」
先ほどのお返しとばかりに、急所を丁寧に狙った的確な連打が私を襲う。防戦一方とはまさにこのことだ。
「いったい……なにが、カハッ」
血反吐を吐きながら発した疑問に、ミラは律義に答えてくれた。
「スキル『憎悪者』。リーナちゃんと別れた後色々あって獲得したスキルだよ。誓ったんだ。私はこの憎しみを捨てないって。忘れない。幸せなんて望まない。この感情を原動力に、この先の一生を生きるんだって。このスキルは、憎しみの深さに比例して私の能力を増幅させる。これで終わり!」
スキルで強化された拳。これで今度こそ終わりだと、ミラも、リーナも思った。しかし……
「させるか!」
命を脅かすその拳から、近くにいた騎士が、その身を挺してリーナを救った。その命を引き換えにして。
「騎士さん!」
リーナの甲高い声が響く。
「あの騎士に続け!」
「守るべきものに逆に戦わせるなど騎士の名折れ!」
「団長の遺志を無駄にするな!」
一人の騎士の死を皮切りに、他に騎士たちも魔王にとびかかっていった。
「ご無事ですか!?」
騎士の一人が、リーナに話しかける。
「ほかのみんなが時間稼ぎしている間に、私が転移魔法であなたを転移させます。そう遠くにはいけませんし、発動にも時間がかかりますが、今なら……」
「やめてください!私のために人が死ぬなんて嫌です。それに私にはザックたちが……仲間がいるんです!その人たちを見捨てるわけには……」
「残念ですが……私の力量では一人しか転移できません」
「大丈夫よ」
騎士が己の力不足を悔やんだとき、精霊のキキョウが希望を見せる。
「私が力を貸してあげる。そしたら転移できる人数は増えるでしょ!」
「精霊!?ありがとうございます!」
いつの間にか近くにいたザックたちは、転移する準備はできているようだった。
「では、魔法を発動します。転移!」
そして、私たちは見知らぬ土地に転移された。
「騎士さんは……?」
転移された先に、騎士の姿はなかった。そして私は……意識を失った。
「おいお前、なんで勇者たちと一緒に転移しなかった!?」
「友に戦わせて私だけ生き延びるなどごめんだ。死ぬときは一緒だろう?」
「馬鹿だなお前!ああ、一緒に戦おうぜ!」
騎士たちの奮闘虚しく、この日リバーナ王国は魔王の手によって滅ぼされた。
覚醒するとは言ったが、無双するとは言ってない。




