第6話:死
「俺の勝ちだ」
グランさんの奥義・絶剣。それはまさに一撃必殺。奥義の名に恥じぬ一撃だ。破壊力だけを見れば剣技というより兵器の類。死体が残らないのも納得できる。
「やったぞ!」
「魔王を打ち取った!」
周囲はまさに勝利の雰囲気。魔王は倒れ、手ごわい魔物、魔族はすでに殲滅されている。恐れるものは何もないはずだ。
しかし、リーナの胸には言いようのない不安が這いよっていた。
「ブォオオオオオオ!!!」
グランさんに殲滅された魔物の内の一体。象の魔物が息を吹き返し、鼻の標準をグランさんに合わせた。
「急所を見誤ったか?まあいい、もう一度……」
今度は確実に殺そうと、グランさん剣を構えた時だった。象の魔物の鼻から発射されたのは……
フンッッ!!!
発射されたのは、つい先ほど仕留めたはずの魔王ミラだった。
「なんだと!?」
「隙あり!」
グランさんの一瞬の動揺。それを見逃すミラではなかった。魔力で強化された貫手が、グランさんの心臓を穿つ。
「「「「「団長!?」」」」」
騎士たちの悲鳴に似た叫びが戦場に広がる。
「カフッッ……てめえ、どうやって絶剣を……」
「あなたが奥義を構えた時から転移してた。それだけよ」
ミラは象の魔物の中にあらかじめ自分そっくりの人形を潜ませていた。そして、グランが一撃必殺の奥義を繰り出すと予想したとき、奥義発動前に転移でその人形と入れ替わり、象の魔物の体内から人形を遠隔操作していたのだ。
「私、性格悪いの。あからさまに大きな攻撃を溜めてる敵を前に、正面から戦ってあげるわけないじゃん」
「……ちくしょう」
グランはそれを卑怯、などと罵りはしない。生死のかかった戦いにおいて、あらゆる策を練り最善を尽くすことは当然のことだ。悔やむのは、その駆け引きにおいて全く歯が立たなかった自分の力不足のみ。
「重勁拳!」
目の前の魔王が飛んだ、否、殴り飛ばされた。殴ったのは、リーナだ。
「大丈夫ですかグランさん!?今治療を……」
「君は……」
私はグランの心臓を治そうと必死に頭を巡らせる。
(心臓丸ごとなくなってる。細胞分裂の速度を加速させるだけじゃだめだ。臓器の複製を……どうやって?)
体細胞、内臓組織、クローン技術、医療技術。様々な知識を総動員させるが、元女子高生程度の浅い知識と理解では、内臓の複製を実現させるには力不足だった。
「無理だ。俺じゃなかったらとっくに死んでる。……その刀、妖刀か?」
「え?刀……今はそんなこと」
「ちょっと貸してくれ」
グランさんは私から半ば無理やり刀をとったあと……自分の腹に刺した。
「なんで!?」
「ガハァッ……妖刀は、強者の血を吸えば吸うほどその力を増す。俺の命、全部魔王の経験値になるくらいなら、少しだけでもこの刀の礎になったほうがましだ」
ただでさえ出血多量のグランさんの顔色が、もう青を通り越して白だ。もう助からないことがわかる。
「頼む。君はあの魔王から逃げ切ってくれ。騎士は、いざとなれば国のために命を捧げる義務と覚悟がある。俺が死んだあと、残りの騎士は命がけで魔王と戦うはずだ。その隙に……」
「だれかの犠牲の上に立って生き延びるなんてごめんです!私は……本当は、私が魔王を倒すべきだったのに……」
ミラを倒すのは私の役目。それを果たせなかったことで、そのしわ寄せがグランさんや騎士たちに来る。そんなことを許容できるほど、私は大人じゃない。
「魔王が誕生したなら、勇者もだれか確定したはずだ。因果は必ず二人を殺し合わせる」
「……私が勇者です!魔王は私が倒します!だから……」
だから、何なのだろう?私はできればミラを殺したくない。一回戦って、勝って、改心させることができれば、それが一番だ。それに、私の強さではミラの足元にも及ばない。殺す気も、力もないのに、何を一生懸命語っているのだろう。
「そうか……因果は絶対だ。君と魔王は、殺し合う運命に合う。今はその時ではないだろうが、いつか……勝ってくれ」
グランさんはもう喋るのもきついだろうに、最後に大きく息を吸って叫んだ。
「お前らぁああああ!最後の団長命令だ!この子を守れ!今代の勇者だ!」
その言葉を叫んだあと、グランさんは倒れた。
「グランさん!」
グランは死の寸前、時が緩やかに進む思考の海の中で、過去に思いをはせる。
(ああ、ガキの頃はろくでもなかったが、騎士になってからの人生は、悪くなかったな。まともな人間になれて、こうして誰かになにかを託して逝くことができる)
グランの視界と耳に、騎士の慟哭とリーナの泣き顔が入る。自分が誰かに悲しまれるなど、スラムで暮らしていた時は想像もできなかった。
(自分より強いやつと戦えた。今代の勇者は将来性は高い。部下たちには思いを託した。……そして、俺の死を悲しんでくれた。心残りは、なんもねえや……満足だ)
人間界最強の男、グラン・ブライトレオ。その生涯に、幕を閉じる。
ネタバレ。次回、主人公が覚醒します。




