第1話:勇者誕生
ガバッッ
「ハァ、ハァ、……夢?」
口ではそう言いながらも、本当は夢じゃないことくらい理解していた。これが夢だったらどんなに楽だっただろうか。
「……これが、ミラに奪われた記憶のすべて…………」
なんてことだ。ミラと私は同じ境遇でも、味わった痛みは親を失ったあの子のほうが大きい。当時の私はそんなことも理解せず、ただ当たり前の正論を唱えていただけ。しかも最後は強引に力技で対応したなんて……
「いっそ時間が巻き戻ればいいのにな」
そんなことが起こるわけないか……。
自分で言った願望を自分で否定し、私は重い気分で食堂に向かった。
ー食堂ー
「おっ、リーナ!遅かったな。ゆっくり眠れたか?」
ザックが元気いっぱいの声で私に話しかけてくる。
「うん。体調はもう大丈夫だよ」
精神面では全然大丈夫じゃないが、それを顔には出さず対応する。
「顔色もいいし、大丈夫そうだな。早く飯食ってギルド行こうぜ。ブラックベアーの素材を売った金が切れそうなんだ。その分いい武器は買ったけどよ」
「そうなんだ。私も早く使ってみたいな」
嘘だ。本当は一日中部屋にいたい気分だ。だけどそれで解決するものでもないし、そのせいでみんなに迷惑はかけられない。
「あぁ~、眠い。あれ、リーナもう起きてたの?おはよう」
「おふぁよう」
ミレイとレイラも起きてきた。相変わらず朝に弱いようだ。
「おはよう。急いで席に座って。一緒にご飯食べよう」
そう言った瞬間、ミレイはいぶかしげにこちらを見つめた。・・・特に不自然な行動はとっていないはずだが?
「リーナ、昨日の夜に何かあったの?」
「!!!!!」
なんで?顔には出してないはずなのに!?
「その反応、何かあったんだね?」
「…………」
こちらを問い詰める視線に、私は無言で返す。
「……そこまで言いたくないなら無理には聞かないよ。でも、あまり一人で抱え込まないでほしい。私たちは親友なんだから」
「ありがとう。……いつか話すよ」
ミラがこのまま魔王であり続けるなら、いつかこの話をする時が来るだろう。どうかその時まで待っていてほしい。
……話を終えて、私たちは朝食に手を伸ばした。
それから十数分後、レイラの耳が反応した。
「ん?」
「どうしたの?レイラ」
「ねえ、なんか足音が聞こえてくるんだけど?しかも何これ⁉百や二百?いや、千?万?結構多い!」
「「「はあ!?」」」
おそらくこれは10㎞以上遠くの話だろう。レイラの『全能の耳』がどこまで聞こえるかは本人もわからないらしい。だがそれでも、万は多くなかろうか?そう思っていたら、いきなり食堂のドアが開いて、慌てて入ってきた人がこういった。
「大変だ!!魔族が魔物を引き連れて攻めてきた!!目測で一万体だ!急いで逃げろおぉおおおおお!!!」
レイラに足音のことを事前に知らされていたので、足音の正体はこれだと納得した。
だが、ほかのみんなは大パニックだ。
「なにいぃいいいいい!!??」「ま、魔王だ!魔王が攻めてきやがったあぁああああ」
「逃げろおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
魔王が攻めてきた。その言葉で、ミラがこの国を襲うといっていたことを思い出す。
「これのことだったんだ」
「ん?何か言ったか?リーナ」
「いや、なんでもない」
ザックの質問を軽く流して、私は今の状況を把握することに神経を注ぐ。
<世界に警告します。個体名:ミラがリバーナ王国を攻めたことにより、魔王の種が発芽しました。それの伴い、勇者の種を発芽させます…………成功しました。勇者は、個体名:リーナに決定します>
この脳内アナウンスにより、私は正真正銘の勇者となった。




