比べる
父の書斎の窓は、半分開いていた。その下で寝ていると、テシエの声がした。
「比べました」
紙を置く音がした。
「まっすぐの線なら、石を移します。八人で、半日です。移す先は、お屋敷でお決めください。荷車で運べるのは、東の門の脇までです」
父は黙って聞いていた。
「東へ曲げる線なら、石は残ります。そのかわり、トマの一時間が、四半刻遅くなります。ガルニエのりんごの木が、端の三本かかります。郡の費用は、道の長さのぶんだけ増えます」
「三本か」
「三本です。四本目は、根を避ければ残せます」
父は、しばらく何も言わなかった。
「期日は」
「あと三日です」
「わかった」
それで、テシエは帰った。父は、決めたとは言わなかった。
*
昼前に雲が出てきたので、厨房の食器棚の上に移った。
昼に、テシエが厨房に来た。ベルトがスープを出した。テシエは、それを飲む前に言った。
「比べました。旦那様には、さきほどお伝えしました」
ベルトは、お玉を持ったまま聞いていた。
「まっすぐなら、石は八人で半日かけて移します。曲げるなら、トマが四半刻遅くなって、ガルニエの木が三本かかります。郡の費用も増えます」
「そうかい」
ベルトは、鍋のほうを向いた。それから、また振り返った。
「わたしは、残してほしいね。あの石は」
テシエは、うなずいた。帳面には何も書かなかった。
戸口のところで、馬屋の若いのが手を拭いていた。
「おれは、まっすぐがいいな」
みんなが、そちらを見た。
「おふくろが、南の村にいるんだ。去年の冬は、腰を悪くして、町の医者まで連れていけなかった」
ベルトは、何も言わなかった。
「石が嫌いなわけじゃない」と馬屋の若いのは言った。「お嬢様が寝てるのも知ってる。でも、おれは、まっすぐがいい」
「そうかい」とベルトは言った。さっきと同じ言い方だった。
ギヨームが、腕を組んだまま言った。
「四半刻は、あの坂一つぶんだ」
誰も、それがどちらの味方なのかは訊かなかった。ギヨームも言わなかった。あの坂で荷車を押したのは、ギヨームである。
ピエールは、豆の筋を取っていた。アネットは、洗い場から顔を出さなかった。
*
テシエは、スープを飲み終えてから、もう一つ訊いた。
「曇りの日は、お嬢様はどちらにいらっしゃいますか」
ベルトが、黙って上を指した。ギヨームも指した。馬屋の若いのも指した。
テシエは、指の先を見上げた。わたしは目を半分開けて、また閉じた。
「……こちらでしたか」
「曇りの日は、いつもこちらですか」
「たいていはね」とベルトが言った。「なんでそんなことを訊くんだい」
「まっすぐの案になった場合です」とテシエは言った。「移す日の朝、晴れなら、まず石を確かめます。曇りなら、まずこちらを確かめます。どちらかで、段取りが変わります」
「曇りの日を選ぶのかい」
「選びません。日は、郡の都合で決まります。ただ、その朝どこを先に確かめればいいかわかっていれば、八人を待たせずに済みます」
ベルトは、少し考えてから、スープの二杯目をよそった。
テシエは、それを飲んだ。帳面は開かなかった。
*
次の朝は、晴れた。
父の書斎の窓が開いて、父が庭を見た。南の石のほうだった。しばらく見て、それから引っ込んだ。窓は、半分開いたままだった。
*
朝、トマの荷車が裏口に着いた。
荷台の、日の当たった空き袋の上に、茶色い猫がいた。
あいつ、来た。
トマは、壺を下ろしながら荷台を見て、それから何も言わずに、裏口へ壺を運んでいった。誰も、猫を降ろさなかった。
茶色い猫は、自分で荷台から降りた。わたしのほうは見ずに、庭を横切って、南の石へ行った。
わたしも、石へ行った。
茶色い猫は、もう石の上で丸くなっていた。わたしは、その隣に横になった。
背中が、くっついた。
どちらも、何もしなかった。石は、もうあたたかかった。




