第八話 派閥
勇者学園入学から一週間後。
「レオン様、食堂に行きましょう」
午前中の授業を終えると、クラスの友達が二人、レオンの元へやって来る。
背が高く痩せ型のチャゴ・チンギス、二十歳は、チンギス子爵の三男。
背が低くぽっちゃり型のトッポ・モリンチ、十九歳は、モリンチ男爵の四男。
両家ともサンライト伯爵家の寄子だ。
二人とも勇者学園に入学する前は、プロミネンス王国騎士団に所属していた正規騎士なので能力は高い。
体型は対照的だが、騎士団にいただけあって体は鍛えられている。
最初は父上が手を回したのではないかと疑ったが、あの父がそんなことをする筈がない。
おそらくチャゴとトッポの親が、父上への点数稼ぎのために入学させたのだろう。
食堂に着くと、良い席は埋まっていた。
食堂の席は早いもの順だ。
レオンが二人に話しかける。
「奥の席が空いてますね、あちらに行きましょう」
レオンが空いている席に向かおうとすると、チャゴが引き止める。
「レオン様、お待ち下さい」
「どうしました?」
トッポが胸を張る。
「ここは我らにお任せ下さい」
(任せる? ここの席はもう埋まっているのに、何をどう任せるんだ?)
二人が近くの席に座っていた男生徒二人組に声を掛ける。
「おい、そこのお前。この席はレオン様がお使いになる」
「席を空けてもらおうか」
レオンは一瞬硬直する。
(おいいいっ! 俺の名前を使ってなに言ってるんだよ! ユバ先生も学園では外の身分は関係ないって言ってただろ!)
男生徒二人組が、驚いてこちらを見ている。
(しかもこの二人組、二年生で先輩じゃないか)
勇者学園は学年ごとに制服の模様の色が違う。
今年の一年生の学生カラーは黄色、二年生は青、三年生は赤だ。
来年の入学生は学生カラーが赤になるとのことだ。
「先輩方、申し訳ありません。私たちはあちらの席に行きますので、どうぞごゆっくりお食事をお楽しみ下さい」
そう言って二人の背中を押して奥の席へと向かう。
「レオン様?」
「なぜですか?」
二人はわけがわからないといった表情だ。
「いいからっ!」
席に着き、食事をとる。
チャゴがレオンに尋ねる。
「なぜ先ほどレオン様は席を譲られたのですか?」
「譲るも何も、先に座っていたのはあの方たちですよ?」
チャゴとトッポがお互いの顔を見合わせると、笑い出した。
「ははははっ、レオン様はザイン伯爵様のご子息ですよ?」
「あの者たちが席を譲るのが筋というものです」
レオンは若干顔を引きつらせる。
「あの者たちって先輩ですよ?」
「大丈夫です、我らも生徒たちの情報は集めております。貴族、特に伯爵以上の上級貴族の家の出の者は片手で数えるほどしかいない」
「あの者たちの家は、貴族ではありません。ご安心下さい」
(こいつら本気か? 頭が痛くなりそうだ)
「チャゴとトッポが私のためを想って行動してくれたのは分かりました。でも、私はこういうやり方は好きじゃないんです」
チャゴとトッポが再びお互いの顔を見合わせると、きょとんとした顔でレオンを見る。
「はあ、レオン様がそうおっしゃるなら」
「さすがは領民に慕われる神童、慈悲深い」
(本当にわかっているのだろうか? 心配になってくる)
レオンはチャゴとトッポに笑顔を向ける。
「わかってくれればそれでいいんです」
レオンたちは、再び料理を口に運び始めた。
すると、今度は女生徒の集団が食堂に入ってくる。
公爵令嬢ミレアだ。
周囲に取り巻きを五名引き連れている。
女生徒の間では、派閥というものが重要視されている。
入学してまだ一週間だが、一年生の女生徒の中ではミレアは最大勢力。
次点で子爵令嬢の派閥があり、ミレアの派閥とはあまり仲が良くないらしい。
男生徒の間では、あまり派閥というものは重要視されていない。
それよりも個の実力が重要視される。
というか派閥ってなんだよ、同じ勇者を目指す学友なんだから、仲良くしろよ。
ミレアの取り巻きの一人、黒い被毛の獣人族が前に出ると、先ほどチャゴとトッポが席を空けろと話し掛けた先輩に声を掛けた。
「そこのあなた達、この席は公爵令嬢であるミレア様がご利用になられるの。席を譲って下さらない?」
取り巻きがそう言うと、先輩たちは席を立った。
「はいっ! 僕たちちょうど食べ終わったところなんです」
「どうぞお使い下さいっ!」
先輩たちは顔を真っ赤にし、ミレアに見惚れている。
それを見ていたチャゴとトッポが不満を漏らす。
「あいつら、レオン様に席を空けろと言ったときは動かなかったくせに」
「ちょっとわからせた方がいいんじゃないか?」
レオンは二人の不穏な会話に慌てる。
「そんなことしなくていいから! 二人とも大人しくしててくれ!」
(おっと、少し言葉遣いが荒くなってしまった)
「レオン様はお優しすぎます」
「もっと伯爵家の者として振る舞っても良いのですよ」
レオンは一度深呼吸をして応える。
「あいにく私は、父上の威光を笠に着て好き勝手振る舞うつもりはありません」
ミレアの席を見る。
取り巻きたちがミレアをもてなしている。
(取り巻き……俺はチャゴとトッポを友達だと思っていたが、ひょっとして周囲に俺の取り巻きだと思われているんじゃ……)
それはいけないとレオンは思う。
取り巻きを引き連れているなんて、レオンの中の勇者像からはかけ離れていた。
「チャゴ、トッポ、私たちは友達だ、もう敬語を使わなくていい。私もお前たちに敬語を使うのをやめる。家は関係ない、これから同じ学友として共に歩んで行こう」
チャゴとトッポは目を潤ませる。
「レオン様……」
「ありがたきお言葉」
「だから様はいらない、レオンでいいよ」
「さすがに呼び捨ては……」
「敬語は我らのレオン様に対する敬意の現れです。どうかご了承いただけると幸いです」
「わかった、もうそれでいいよ。これからは必要以上に他の生徒にちょっかいを出すのはやめてくれ」
(これでわかってくれると良いのだが)
しかし、その数日後に事件は起こった。




