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エルグラント 〜勇者学園の神童〜  作者: 武崎豊
第三章 恋の嵐
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第二十一話 偽の恋人

 レオンとミレアが偽の交際をすることになった翌日、二人は待ち合わせをして一緒に登校する。

 と言っても、寮は学園の敷地内にあるので、校舎の少し前での待ち合わせだ。


「おはよう、ミレア」

「おはようございます、レオン」


 名前は敬称を付けない方が恋人らしいだろうと言うことになった。

 レオンとミレアは笑顔で挨拶を交わしながら、校舎へと向かう。

 その様子を他の生徒、特に一年生は、唖然とした表情で眺めていた。


 教室に入る。


「それじゃミレア、今日も一緒に授業頑張ろうな」

「そうですね、レオン」


 笑顔でそれぞれの席に着く。

 二人が教室に入る前は、先に登校した生徒たちが賑やかに雑談していたが、レオンとミレアを見て静まり返る。

 チャゴとトッポがレオンの元に駆け寄る。


「レオン様! 今のは何ですか?」

「昨日の放課後、用事が出来たと言って勉強会を中止されましたが、ミレア様と何かあったのですか!?」


 レオンはチャゴとトッポの質問に笑顔で答える。


「ああ、実は私たち、付き合うことになったんだ」


 一瞬の静寂。

 遅れて教室内の生徒たちがざわめく。


「付き合うということは、レオン様とミレア様は恋人同士になられたということですか?」

「いや、たしかにお似合いの二人だと思いますが」

「驚かせてごめん、実は前からミレアのことが気になってたんだけど、なかなか言い出せなくてさ」

「たしかにミレア様であれば家柄的にも問題ない」

「これは、レオン公爵様になられる可能性も」


 レオンが二人を手で制す。


「二人共、落ち着いて。まだ付き合い始めたばかりで、婚約をした訳でもないのに気が早いよ」


 教室のドアが開き、カイルとモフオが入ってくる。


「おはよう……て、なんか教室が騒がしくない? なにかあったの?」

「おはようカイル、モフオ。二人にも聞いて欲しいんだが、私とミレアは付き合うことになったんだ」


 カイルとモフオは、きょとんとした顔で固まったが、言葉の意味を理解し、笑顔になった。


「そうなんだ、おめでとうレオン」

「ありがとうカイル」


 モフオはレオンの手を両手で握り、真剣な眼差しでレオンの目を見据える。


「二人共、凄くお似合いだと思う! 絶対に別れたりしないでねっ!」

「う、うん……ありがとうモフオ」


 モフオの好きな女生徒、ミミロルさんの告白にはちゃんとお断りの返事をした、とモフオには伝えたのだけど心配だったみたいだ。


(友達を騙すことには気を引けるが、俺とミレアが偽装交際していることは、誰にも知られてはいけない)


 もし、どこからか情報が漏れてしまえば、学園の平和を守るという意味がなくなる。

 このことは、レオンとミレア、二人だけの秘密だ。

 ミレアも、自分の取り巻きたちに偽装交際の件は言わないとのことだ。

 親しい人に内密の話だと打ち明けても、今度はその人が親しい人に内密の話だと言い、次々と尾ひれをつけて話が広まっていく。 

 秘密の話は誰にも打ち明けることなく、最初から最後まで、徹頭徹尾、貫き通さなければならないのだ。


 カイルが思い出したように言う。


「しかし、そうなると放課後の勉強会はやめた方がいいかな? レオンもミレア様と一緒にいたいでしょ?」

「いや、ミレアも自分の派閥のことがあるし、いつも通り勉強会は参加しようと思うよ。ただ、たまにサロンで会おうと思ってるから、その時は欠席させてもらうよ」

「そっか、ミレア様も忙しいんだね。レオンのおかげで勉強のやり方もコツが掴めてきたし、勉強会の方は気にしなくてもいいからね」

「勉強会は私の方から誘ったのに、すまないね」

「いいよ、いいよ。むしろ勉強教えてもらって感謝してるぐらいなんだから」


 教室のドアが開き、ユバ先生が入って来る。


「皆さん、おはようございます。少し騒がしいですね、席に着いて下さい。」


 ユバ先生が声をかけると、騒々しかった教室内は静かになり、生徒たちは自分の席に着いた。


 お昼休み、レオン達は食堂に来ていた。


「さて、どこに座ろうか……」

「レオン様! こちらです!」


 振り向くと、モモが手を振っていた。

 カイルがレオンに話し掛ける。


「レオン、モモさんが呼んでるけど、お昼の約束してたの?」

「いや、してないけど」


 レオン達がモモの所まで行く。


「モモさん、どうしたの?」

「席をお取りしましたので、こちらをお使い下さい」

「えっ? でもここ……」


 二人用の席だ。


「間もなくミレア様がいらっしゃいますので、お二人でお食事を楽しんで下さい」

「ミレアとは特に約束してなかったけど、モモさんはミレアに頼まれたの?」


 午前中の授業が終わった途端、モモは教室を出て行った。

 きっとこの席を確保するためだろう。


「いえ、特には。ミレア様からはレオン様とお付き合いすることになったとお聞きしましたので、こうして席をお取りしました」


(なるほど、つまり俺とミレアに気を利かせて自発的に動いたということか。これが派閥か……確かにこれは迂闊なことは言えないな)


「でも、ミレアもモモさんたちと食事を楽しみたいんじゃないのかな?」

「いえ、私たちはいつもミレア様のお側におります。お食事の時ぐらい、お二人で楽しい時間をお過ごし下さい」


 チャゴとトッポが口を挟む。


「そうですぞ、レオン様。せっかくモモ殿がこうして席を確保してくれたのです」

「我らのことは気にせず、ミレア様とのお食事をお楽しみ下さい」


 カイルとモフオもその意見に賛同する。


「そうだよレオン。恋人であることに胡座をかいてミレア様を放っておいたら、愛想つかされるかもしれないよ?」

「レオン、女心わかってない」


 レオンは皆の意見に衝撃を受けていた。


 なんだよお前ら、いつも食事の時は一緒だったろ!

 それに女心がわかってないってなんだよ、お前たちだって俺と同じで女性と付き合った経験ないだろ!

 なに経験者ぶっているんだよ!


 レオンは友達の突き放した意見に若干の寂しさを覚えつつ、思い直す。


 いや、でも確かにここでミレアとの相席を頑なに拒否するのは不自然か?

 疑われない為にも、ここは皆の意見に従った方が無難だろう。


「わかりました。モモさんの好意、ありがたく受け取らせていただきます。ありがとうございます」


 モモがニコリと笑みを浮かべ、尻尾が左右に揺れる。


「いえ、お役に立てて光栄です」


 そこへ、ミレアが取り巻きを引き連れてやって来る。


「あら、レオン。モモさんと一緒でどうしたのですか?」


 そう質問するミレアは、何が起きているのか既に理解しているかのようだった。


「モモさんが、私とミレアの為に席を確保してくれたのです。一緒に食事いたしましょう」

「あら、そうなのですね。モモさん、ありがとうございます」


 モモは深々と頭を下げる。


「身に余る光栄に存じます」


 レオンとミレアは二人用の席に座り、他の皆は別の席へと向かった。

 レオンとミレアは談笑しながら食事をしている。

 完全に二人の世界だ。

 周囲の生徒たちは、そんな二人の姿を眺めて感嘆の声を漏らす。


「美しい……」

「まるで絵画のよう」


 中にはレオンとミレアが付き合ったことで落胆している女生徒と男生徒もいるが、あの二人なら諦めもつくと納得している者が大半だ。


 しかし、そんな祝福ムードの食堂の中で、ミレアを忌々しそうに眺める者たちがいた。

 子爵令嬢シーラ・スタンデンと、その取り巻きたちだ。

 シーラはミレア程ではないが、美しい顔立ちをしている。

 ミレアが美人系とするならば、シーラはどちらかといえば可愛い系だ。

 桃色の髪をツインテールにしている。


「シーラ様……あの女、実家の権力を笠に着てレオン様と付き合ったんじゃありませんか?」

「なんて卑しい」


 シーラは、溜め息をつく。


「憶測でものを言うものではありませんよ。でも、レオン様が権力で無理やり付き合わされているとしたら、たしかに心配ですわね」


 表面上はレオンを心配する素振りのシーラの瞳の奥には、ミレアに対する敵意が隠せないでいた。

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