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エルグラント 〜勇者学園の神童〜  作者: 武崎豊
第三章 恋の嵐
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第二十話 胡散臭い男

 ミレアの本心を聞いたレオンは、笑顔のまま固まっていた。


(今、胡散臭いって言わなかったか? 誰が? 俺が? 聞き間違いか?)


「レオン様、貴方、学園の生徒たちにも、先生方にも、すこぶる評判がよろしくてよ」


(ん?)


「成績優秀、眉目秀麗、その年で武術も魔術も大人顔負けを通り越してプロ顔負け。さらには家柄が良く、それを鼻にもかけず、誰に対しても優しく接する……」


(なんだ、やっぱり聞き間違いか。ミレアも俺のことをよく分かってるじゃないか)


「学習意欲も高く、先生の質問には率先して手を挙げるばかりか、同級生の勉強も見てあげる面倒見の良さ。驚くべきは、わずか十一歳で洪水で苦しむ人々のために、新たな川を作り多くの命を救ったこと。その川は、レオン川と呼ばれているらしいですわね」


(ああ、あれは大変だったな。でも世界を救う勇者になる俺が、街一つ救えないなんてことはありえないからな)


 レオンはミレアの話を聞きながら、満足気に頷く。


「そんな人間、いる訳ないではありませんか」

「えっ?」

「人間とは何かしら欠点のあるものです、欠点のない人間などおりません」


(なんて、ひねくれた考えの女なんだ)


「いやだなあミレア様、私にだって欠点はありますよ」

「レオン様の欠点とはなんでしょう?」

「えっ?」


(そう言われてみれば、俺の欠点って何だ?)


「……そうだ! 私が魔法を扱えるようになったのは、十一の時です、それまでは扱えませんでした」

「今は扱えてるではありませんか」

「それもそうですね……」


 レオンが言い淀んでいると、ミレアは笑い出した。

 いつもの微笑みではなく、心から楽しそうに。


「あはははっ、すみません、少し意地悪な質問でしたね。同じクラスでレオン様を見てきて、努力家だということは分かります。きっと、最初から出来たのではなく、出来るようにしたということも」

「ミレア様も人が悪い」

「実際話してみて、レオン様が生徒同士の争いを好まないということも分かりました。どうでしょう、学園の平和のために協力していただけませんか?」


 レオンは手を顎に当て、俯き思案する。


 さて、どうするか。

 ミレアの話が真実だとしたら、ここは協力すべきだが、証拠がない以上あくまで憶測。

 しかし、ミレアが俺と付き合うために嘘をついている訳ではないだろう。

 何も行動を起こさなければ、今後ますます被害者が増えるかもしれない。

 ここは協力して様子見するのが最善策だろう。


 レオンは顔を上げる。


「分かりました、協力いたしましょう」

「ありがとうございます」


 ミレアは深々と頭を下げる。


「それで、今後はどうします? 口だけ付き合ってると言っても、時間が経てば怪しむ者も出てくるでしょう」

「そうですね、定期的に逢瀬を重ねるというのが効果的ではあると思いますわ」

「それなら、サロンはどうです? ここなら秘匿性も高い」

「予約制ですが、私が何とかいたしましょう」

「後は、どれぐらいの周期で会えば疑われずに済むか……」

「とりあえず週一はどうでしょうか? 怪しまれるようであれば調整していけば良いですし」

「それは良いですね。周囲の反応を見て、逐次サロンで今後の対応を話し合いましょう」

「そういたしましょう。それから、こちらはレオン様に差し上げます」


 ミレアがテーブルの上に、一枚の紙を置く。


「それは?」

「こちらはシーラさんの派閥リストになります。レオン様を実力でどうこうできるとは思いませんが、一応お渡ししておきます」


 話し合いがまとまった所でレオンが席を立ち、ミレアに手を差し伸べる。


「それでは、今日からは恋人同士ですね。よろしくお願いします」

「ええ、こちらこそ」


 レオンとミレアは握手を交わした後、レオンは部屋の出口へと向かう。

 扉の前で立ち止まり、レオンは振り返ってミレアに質問した。 


「ところで、ミレア様が最初に告白した時点で、私が交際を承諾したらどうするつもりだったんですか?」

「それでしたら、学生らしく健全なお付き合いを卒業まで続けるつもりでしたよ」


 そう言ってミレアは美しい微笑みを浮かべた。


───


 魔王城、広場。

 ギラメラは参謀のゲテムンドと訓練用の槍を打ち合っていた。

 柄の部分は木製で、先端の通常は刃になっている部分は、綿を布で巻いて殺傷性は低くなっている。

 しかし、訓練用とはいえ全力で突いたら骨折する可能性はある。

 ギラメラは怪我をしないように防具を着けているが、ゲテムンドは軍服だ。


「ハァ……ハァ……」


 ギラメラは息を切らしながら、果敢にゲテムンドに突きを放つ。

 ゲテムンドはギラメラの突きを足捌きで躱し、無防備な脇腹に突きを放つ。


「ウグッ!」

「どうしたギラメラ! 足が止まっているぞ!」

「は、はい!」


 ギラメラは槍を旋回させて間合いを測りつつ、ゲテムンドの足元を打ち付けようとする。

 ゲテムンドは一歩下がり躱すと、ギラメラが槍を振り切る前に踏み込み、胸元を突く。


「カハッ!」


 ギラメラは尻餅をついて倒れる。


「よし! 今日はここまで!」

「は、はい……ありがとう、ございました……」


 ゲテムンドはまだまだ元気だが、ギラメラは疲労困憊、息を切らして立ち上がれずにいた。

 ゲテムンドは参謀になる前は、武術教官として兵の指導をしていたこともある。

 ギラメラが壊れないギリギリを見極めて鍛えていた。


「ギラメラ、だいぶ上達したじゃないか」

「そう、でしょうか?」


 ゲテムンドはギラメラを褒めるが、実力差がありすぎて、ギラメラは実感できずにいた。


「うむ、魔軍団長まではいかないが、一般兵であれば十分やっていける。どうだ? 勇者学園の潜入調査を終えたら魔王軍に入らないか?」


 勇者学園の潜入調査の為に訓練を始めてから一年、ギラメラの体は鍛えられて一回り大きくなっていた。


「いえ、僕には軍の仕事は向いてないので」


 敵は魔人族を滅ぼす異世界人。

 倒すべき敵だが、ギラメラは命を奪われることも、奪うことにも抵抗があった。

 むしろ、そんなギラメラだからこそ、ドラゴンのパルシオンと心を通わせてドラゴンライダーになることができたという所もある。


「それは残念だ……人族の言語については、もう覚えたのか?」

「言語については問題ありません。文字については、まだ不安がありますが」

「変化の腕輪の扱いについてはどうだ?」

「はい、最初は集中していないと変化が解けてしまいましたが、今では無意識下でも変化し続けることができるようになりました。ただ……」

「何か問題があるのか?」

「はい、変化の腕輪を使用中は、そちらに魔力を取られてしまい、魔法が使えません。それに、寝ている間は変化が解けてしまいます」

「ふむ、寝ている所を見られてしまえば一発で正体が露見してしまう、という訳か」

「勇者学園が出来るまで、どれくらいの猶予があるのでしょうか?」

「それが、新しく捕まえた捕虜を拷問して聞き出した所、勇者学園は今年、既に開校しているということだ」

「えっ? まだ建設中のはずだったのでは?」

「戦場は勇者学園の場所から離れた所にあるからな、以前捕まえた捕虜の情報は古かったようだ」

「そうなんですね」


 拷問……おそらく、その捕虜は既に生きてはいないだろう。

 ギラメラに言語を教えた捕虜はまだ利用価値があるので生かされるだろうが、情報を聞き出した捕虜は用済みだ。

 その捕虜が魔人族を滅ぼす異世界人、勇者ではないと証明できない以上、生かしておく理由はないだろう。


「そういう訳で、ギラメラ君には中央大陸、勇者学園に向かってもらう」

「魔人族の一大事ですからね」


 そのためにギラメラは毎日、血反吐の吐く思いをして訓練に励んできたのだ。


「出発まで一ヶ月の猶予を与えよう。それまでに仕度と、両親、知人への挨拶を済ませておきなさい」


ギラメラは槍を支えに立ち上がり、姿勢を正す。


「はい! 寛大なご配慮、ありがとうございます」


 ギラメラは着替えて荷物をまとめると、城の厩舎へと向かった。

 厩舎には翼の生えたドラゴン、相棒のパルシオンが鎖に繋がれている。

 パルシオンの他には、地竜タイプのドラゴンが数匹いた。


「ごめんなパルシオン、こんな窮屈な所に閉じ込めて。今、鎖を外してやるからな」


 鎖を外すと、パルシオンは頭をギラメラの胸に擦り付けてきた。


「はははっ、家に帰ろう……と、言っても一ヶ月後には中央大陸だけどな」

「ギャオ!」


 パルシオンは嬉しそうに鳴き声を上げた。

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