第十七話 ラブレター
レオンが登校して教室に入り、自分の机の引き出しを開けると、手紙が入っていた。
(これは? ……またラブレターか?)
レオンは便箋を取り出して、内容を読む。
あなたの強さに惚れました、付き合って下さい。
もし付き合っていただけるのであれば、放課後校舎裏の樹の下で待っているので来て下さい。
一年三組ミミロル
レオンは便箋をそっと閉じると、溜め息をつく。
(また、校舎裏の樹の下か……あそこに何があるんだ? 付き合っていただけるのであればって書いてあるけど、待ってるなら行かない訳にはいかないだろ)
カイルとモフオが教室に入ってくる。
「レオン、おはよう」
「おはよー」
レオンも二人に挨拶する。
「おはよう、今日は剣術の授業があるね。どうだいカイル? 私たちの剣の腕もだいぶ上がって来たし、またアルベルト先生に挑戦してみるのは」
「いいね、少しは通用するようになってればいいんだけど」
カイルがレオンの手元にある手紙に視線を落とす。
「それは……またラブレター?」
「そうなんだよ、悪いけど放課後の勉強会は少し遅れて行くから」
「あはは、レオンも大変だね。手紙は誰から贈られたの?」
「一年三組のミミロルって書いてあるね」
「それって……」
「知ってるの?」
「うん……モフオの、好きな子」
モフオを見ると、耳を伏せ、尻尾が垂れ下がり、ションボリしている。
「お幸せに……」
レオンがモフオの肩を叩く。
「安心して、断るから!」
「ほんと?」
「うん、私はこの子のこと何も知らないし、断ろうと思ってる」
そう言うとモフオの耳が起き上がり、尻尾が左右に振れた。
レオンがカイルを見る。
「そう言えばカイルもこの前、獣人族の先輩に告白されていたよね……断ってたけど」
「うん、強い人が好きだから付き合ってあげてもいいわよって言われたよ」
「獣人族の女性ってそういうとこあるよな」
他種族間では子は産まれない。
それでも、割り切って交際したり、結婚したりする異種族カップルもいるという話を聞いた。
モフオが拳を握りしめる。
「俺も、ミミロルちゃんに振り向いてもらえるように、もっと強くなる!」
モフオも決して弱い訳ではない、獣人族の高い瞬発力を活かした戦い方は目を見張るものがある。
王国騎士だったチャゴとトッポにも張り合えるぐらいには強い。
どちらかというと、剣術よりも槍術の方が得意のようだ。
チャゴとトッポが話に加わる。
「レオン様、恋バナですか?」
「先日も告白されてましたよね? やはり容姿端麗なレオン様は女生徒に大人気ですな」
「断るけどね、そう言うチャゴとトッポはどうなの? もう成人しているんだし、いい人はいないの?」
チャゴとトッポは顔を見合わせて、レオンに向き直る。
「ははは、我らは幼い頃に他家に修行に出されて、そのまま王国騎士団に入団いたしましたからな」
「騎士団には女性が少ない、交際する機会はありませんでした」
「少ないとは言っても、いない訳じゃないんでしょ? それに王城にも女性は大勢いるでしょ」
「騎士団の男女比をご存知で? 良いと思った娘は、すでに他の騎士と付き合っていたなんてことはざらですよ」
「それに、城は王や王子のお手付きになっている者もおります。もし、知らずに手を出してしまえば、どうなるかわかりません」
「そ、そうか……王国騎士は女性人気が高いと思っていたけど、なかなか大変なんだね」
「レオン様!」
「わかっていただけるのですか!」
「そういうことなら、この学園には成人済みの女生徒も結構いるんだし、探してみたら?」
「それは妙案ですな!」
「もし結婚することになれば、式には是非来て下さい!」
「あはは、まあ勉強もあるし、支障のない範囲でね」
「はっ! それはご安心を」
「我ら、レオン様のことを一番に考えております故」
ユバ先生が教室に入る。
「授業を始めます、みなさん席に着いて下さい」
みんなは、それぞれ自分の席へと戻って行った。
二時限目の授業が終わる。
三時限目は剣術の授業だ。
午前中は三時限まであり、午後は五時限まである。
レオンは休憩時間中にトイレに行こうと教室の出口へと向かった。
扉の前で女生徒とぶつかりそうになる。
紫紺色のおかっぱ、眼鏡をかけた、クラスメイトのエリーだ。
「お先にどうぞ」
レオンは笑顔でエリーに先に出るように促すが、エリーは聞き慣れない言葉を発した。
(ん? なんだこの言葉……セントル語でも、エスト語でも、オスト語でもない)
レオンが笑顔で固まっていると、エリーはハッとした顔をする。
「すみません、お先に失礼します」
エリーはレオンに頭を下げて教室を出る。
(中央大陸はセントル語に統一したが、その前に使われていた言語かな?)
レオンも教室を出てトイレに向かった。
「ふぅ……」
(次の授業は剣術、防具をつけて屋外に移動しないとな)
手を洗いトイレを出る。
すると、隣の女性用トイレからも女生徒が出てくる。
レオンがそちらに何気なく目をやると、ぎょっとする。
その女生徒は、制服姿で全身ずぶ濡れ、ポタポタと水を滴らせていた。
(え? なんでこの娘、こんなになってるんだ?)
「君、大丈夫?」
レオンはすぐにハンカチを取り出し、女生徒の頭を拭く。
女生徒が顔を上げると、知っている顔だった。
「あれ? 君は……」
「レオン様……」
女生徒は先日レオンに告白したマヤだった。
「どうしたの? こんなに濡れて」
「レオン様……私……私」
マヤはその場に泣き崩れてしまった。
「大丈夫? 何があったの?」
レオンは優しく呼びかけたが、マヤはしゃくりを上げ言葉が出ずにいた。
その様子を見たユバ先生が、二人の元に駆け寄る。
「レオン君、どうしたんですか?」
「わからないんです。私がトイレから出たら、マヤさんがこの状態で出てきて、私にも何が何だか」
「とりあえず医務室に運びましょう、レオン君は次の授業は剣術でしたね?」
「はい」
「アルベルト先生に授業に遅れると伝えて来ます。レオン君はマヤさんを医務室まで連れて行ってあげて下さい」
「わかりました」
その時。
「マヤ!」
マヤがレオンに告白した時に、一緒にいた友人が駆け寄ってくる。
「君は、マヤさんの友達の」
「マヤに何があったんですか?」
「わからない。これから医務室に運ぶけど、一緒に手伝ってもらえますか?」
「わかりました」
マヤの友人は頷き、二人でマヤを抱えて医務室まで連れて行った。
昼休み、レオンはユバ先生の元を訪れていた。
「マヤさんの件、なにかわかりましたか?」
ユバ先生は首を左右に振る。
「詳しいことはわかりません、マヤさんが個室にいると、突然水が降ってきたそうです」
「何者かが個室にいるマヤさんに水をかけた……ということですか?」
「そうです、マヤさんが個室を出た時には、もう人はいなかったという話です」
「いったい誰がそんな……」
「レオン君がトイレを出た時に、誰か怪しい人はいませんでしたか?」
「いえ、私がトイレを出たのはマヤさんとほぼ同じタイミングです、怪しい人は見ませんでした。私怨という線は?」
「マヤさんは覚えがないと。マヤさんの友達にも聞きましたが、誰かに恨みを買うような子じゃないと言っていました」
「それでは愉快犯ということでしょうか?」
「その可能性はあると思います」
「理由は?」
「実はマヤさんだけじゃないんですよ、最近、女生徒を狙った嫌がらせが多発しているんです」
「嫌がらせ……ですか」
一瞬、カイルの木剣を壊したチャゴとトッポの顔がよぎるが、すぐに打ち消す。
(馬鹿か俺は。チャゴとトッポも反省して心を入れ替えたし、あの二人が女生徒にそんなことをするはずがないじゃないか)
「今回、マヤさんは誰かに水をかけられたということですが、他にも物を隠された、机の上が落書きされていた、悪い噂を流された、なんてものもあります」
「犯人の検討はついているのですか?」
「いえ、まだ何も掴めていません。しかし、手口や規模からいって、これはおそらく単独犯ではなく……」
「まさか!」
ユバ先生は頷く。
「そうです、これはおそらく複数の人物が関与している……複数犯です」




