第十六話 告白
最初の魔法実習以降、レオンとミレアは、張り合うように魔法を放っていた。
コロロンはいつも通り、百回目の魔法を放つと杖を置いて、他の生徒と交代する。
今日もレオンとミレアの一騎打ちだ。
何度か魔法の実習を受けてわかったことがある。
ミレアもレオンと同じく、負けず嫌いということだ。
負けず嫌いといっても、相手を妨害したり、足を引っ張ったりして貶めるようなことはしない。
あくまで正々堂々、実力で勝負した上で勝ちたいということである。
(八十回)
火球が的の左上に直撃する。
(よしっ! 今日は調子がいいぞ。これは……いけるか? 百回)
チラリとミレアの方を見ると、かなり辛そうだ。
魔法の使用回数は、その日の体調や精神状態に左右される。
万全の状態であれば魔法をより多く使用できるが、体調不良だと魔法が使えなくなることもある。
この日のレオンは絶好調だった。
八十四回目の魔法を放ったところで、ミレアは杖を台の上に置いた。
レオンはミレアの方を見ると、勝ち誇った瞳でニコリと微笑んだ。
ミレアはレオンを見て、一瞬目を細めて不機嫌な表情をしたが、すぐに微笑んでその場を後にした。
(ふふふ、今日は俺の勝ちだな。あとはどれだけ自己記録を更新できるか、目指すはコロロン超えの百回以上だ)
他の生徒たちがどよめく。
「ねえ、今日のレオン様凄くない? いつも凄いけど、更に調子がいいと言うか」
「これは、コロロン超えいけるんじゃないか?」
「レオン様ー! 頑張って下されー!」
(声援には応えないとな……九十九回!)
「はあ……はあ……」
(息切れしてきたが、まだいける……百回!)
生徒たちから歓声が上がる。
「すげぇ! 三桁いったぞ!」
「コロロンに並んだ!」
コロロンが声援を送る生徒たちの間をかき分け、前に出てきて目を見張る。
(まだいける! ……百一回!)
百一回目の魔法を放つと、更に大きな歓声が上がる。
「コロロンを超えた!」
「きゃー! すごーい!」
「レオン様! 流石は神童でございます!」
レオンは順調に自己記録を更新していく。
(もう限界だ、最後の一発……百五回!)
火球が的の右端ぎりぎりに直撃する。
その瞬間、レオンは杖を台に置き、両手をついて荒く息を吐いた。
「はあ……はあ……はあ……」
(よし! 百五回、コロロンの記録を抜いた! これで俺は、この学年で……いや、この学園の生徒の中で、ナンバーワンだ!)
レオンを大歓声と拍手が包む。
レオンはそれに応えるように右拳を天に掲げた。
プリヌス先生もレオンに拍手を送る。
「レオン君、やりましたね、百五回は勇者学園で歴代最高記録ですよ」
「ありがとうございます! 先生のご指導のおかげです!」
「レオン君の次は誰が入りましょうか……チャゴ君、次入って下さい」
「はっ! 承知いたしました」
すると、コロロンが手を上げた。
「先生! 儂、まだいけます!」
(やはり手を抜いていて、まだ余裕があったか)
プリヌス先生が目を細めてコロロンを見る。
「コロロン君は、今日はすでに終えたはずです。他の生徒も使うのですから、また今度にしなさい」
「そんな……」
コロロンは項垂れた。
次の魔法実習、コロロンは百十回の記録を叩き出し、勇者学園歴代最高記録を更新した。
───
レオンが廊下を歩いていると、後ろから声を掛けられた。
「あの、レオン様……」
振り返ると、茶髪内巻きワンカールの女生徒がいた。
年齢はレオンと同じぐらい、一組の生徒ではない。
女生徒は顔を赤らめ、はにかんでいる。
「何かご用ですか?」
隣にいる友人が、その女生徒に話しかける。
「ほら、早く言いなさいよ」
「うん……あの、私、二組のマヤといいます。レオン様にお聞きしたいことがあるんですけど」
レオンはマヤに笑顔を向ける。
「はい、いいですよ」
「あ、あの、レオン様は今、お付き合いされている方はいるんですか?」
「それは、私に交際相手はいるかどうかという意味でしょうか?」
マヤは両手を組み、大きく頷く。
「そ、そうです!」
「それなら、いませんが」
マヤは表情を明るくする。
「それなら! 私と付き合ってもらえませんか?」
「えっ? 君と?」
「はい! レオン様のこと、好きなんです!」
「……う〜ん、でも私は君のこと何も知らないし」
そう言うと、マヤはしゅんとして視線を落とす。
(またか、最近多いんだよな)
入学から三カ月が過ぎ、学園での生活にも慣れてきて、生徒たちも余裕ができてきたようだ。
誰と誰が付き合っているという噂がちらほら聞こえるようになっていた。
マヤの隣にいた友人が口を挟む。
「あの、この子、凄く頭がいいんです! この前の筆記試験も十二位になったんですよ」
「へえ、それは凄いじゃないか。もしかしたら、来年は同じ組になるかもしれないね」
「頭がいい人同士、話も合うと思うんです」
マヤが顔を上げて、一緒にアピールする。
「私、本が好きで、度々図書室に行くんですけど、レオン様もよく行きますよね?」
「そうだね、放課後は友達と行くよ」
(休日以外は毎日、友達と勉強会してるからな)
「私、レオン様と一緒に本の話をしたりとか、休日は街にお出かけしたりとかしたいんです!」
「ごめんね、君の気持ちは嬉しいけど、今はそうゆう気分じゃなくて」
マヤの表情が沈む。
「やっぱり……レオン様はミレア様が好きなんですか?」
「え? なんで?」
(なんだ? どこからそんな話が出た?)
「お二人共、凄く綺麗で、頭が良くて、身分も高くて。それに、一組の方から、魔法の授業ではレオン様とミレア様が笑い合っているとお聞きしました。みんなお似合いだって噂してます」
「そんな噂になってるんだ」
(笑い合っているというより、張り合ってるだけなんだが、周囲にはそう見られていたのか)
「私、レオン様とミレア様なら諦めがつきます。お幸せになって下さい!」
そう言い残して、レオンに頭を下げ、涙を流して去っていった。
「ちょ、ちょっとマヤ!」
マヤの友人も、レオンに頭を下げ、マヤを追いかけて行く。
レオンは呆然とその姿を眺めていた。
(俺と……ミレアが?)




