第十五話 ドラゴンライダー
北大陸、魔王城。
魔界からエルグラントに侵攻後に、魔人たちが建築した城だ。
巨大な城の周囲には城下町が広がっており、そこでは、魔王軍に所属する以外の一般庶民の魔人たちが生活を営んでいる。
その日、ドラゴンライダーのギラメラは、魔王軍の参謀に呼ばれて魔王城を訪れていた。
紫色の肌に、額には二本の角。
服装は黒の革ジャケットとズボンとブーツ。
ピンクアッシュの髪をオールバックにして、首にゴーグルを掛けている。
(なんだろう? 魔王軍への勧誘かな? だとしたらやだなあ、自由な時間がなくなるし)
ギラメラは城下町で特技を活かし、個人経営で荷物の配送をしている。
たまに長期休業して、相棒のドラゴン、パルシオンとエルグラントを巡っているが、軍に入ったらそのような時間はなくなる。
魔人族のドラゴンライダーは希少だ。
ドラゴンは気性が荒く、卵から育てたとしても、手懐けるのは困難。
ドラゴンを育てていた魔人が、そのドラゴンに食べられたなんてこともある。
さらに、ドラゴンと心を通わせて、尚且つ騎乗までできる者は稀だ。
ギラメラは、そんなドラゴンライダーの一人。
魔界からエルグラントに移動した時、ギラメラは当時五歳。
彼は親ドラゴンとはぐれた、生まれたばかりの子ドラゴン、パルシオンを保護した。
以来、ギラメラとパルシオンは共に暮らし、いつも一緒にいる相棒となった。
「ギラメラ、参りました」
「よく来てくれた、ギラメラ君」
参謀は口調は丁寧だが、顔は厳つく傷があり、スキンヘッド。
よく鍛え上げられた肉体は威圧感がある。
(こ、こええ……)
ギラメラは萎縮する。
「君を呼んだのは、頼みがあるからだ」
(頼み? なんだ、運送の仕事か)
「君は、勇者というものを知っているか?」
「勇者? 何です、それ?」
「この世界の住人たちが信じている、魔王様を打倒する者のことだ」
「えっ? それって魔王様の予知にあった……」
参謀は頷く。
「同一と考えて間違いない、どうやらこの世界にも未来視のできる者がいたらしいな」
魔界は世界の寿命を迎え、滅びる運命にあった。
それを回避したのが、魔王の未来視だった。
魔王は次元の裂け目が開き、魔界とこの世界が繋がる場所と時期を予見し、魔界が滅びる前にこの世界へと移住した。
しかし、それにはある問題が伴っていた。
魔王の未来視には、いずれ魔王が異世界人に討たれ、魔人族が滅ぼされるという未来が映っていたのだ。
魔人たちはその日を「来る日」と呼んでいる。
未来視の内容は完全にランダムであり、見たい未来が見られる訳ではない。
来る日がいつなのか、そして、その異世界人はどのような人物なのかまでは予見できなかった。
故に、魔人たちはこの世界の住人を滅ぼすという選択をしたのである。
「いまその話をしたということは、見つかったのですか? その、魔王様を討ち、魔人族を滅ぼす異世界人が」
「いや、見つかってはおらん……しかし、やつら魔王様を倒す人材を育てようとしている。それが勇者学園、まだ建設中らしいがな」
「勇者学園……」
「そんなものを放置しておく訳にもいかんが、場所は戦場から離れたところにある。戦線も膠着しており、そこまで進軍するのは不可能だ」
「私が呼ばれた理由は?」
「君のドラゴンであれば、戦線を飛び越えて勇者学園まで行くことが可能であろう? よくこの世界を巡っているそうじゃないか」
「それは出来ますが、私一人でその勇者学園に乗り込めと? 戦いの経験もない私が行っても、すぐに殺されてしまいますよ」
「いや、君には勇者学園の様子を調べ、報告してもらいたい」
「私はこの世界の言語を知りません、それに見た目ですぐに露見してしまいます」
「中央大陸北部を占領した魔将軍の一人から、人族の言語を教えることのできる捕虜を送ってもらった。城で言語を学んでもらう」
「見た目については?」
魔人族は額に角があり、紫の肌をしている。
身長は人族や獣人族と同じぐらいだが、筋肉が発達しており、骨格が違う。
「それなら、こいつを使え」
参謀は腕輪を差し出す。
「これは?」
「変化の腕輪だ」
聞いたことがある。
違う姿に変身することのできる魔導具だ。
「聞いたことがあります、たしか国宝では? そんな貴重な物を使ってよろしいのですか?」
「来る日は魔人族の一大事だ、そうも言っておれん。君には明日から城に住んでもらい、言語と、変化の腕輪の使い方を覚えてもらう。戦闘訓練は私が見よう」
(断りたいが、魔人族の一大事だ、引き受けるしかないか)
「私は生徒として潜入を?」
「潜入できれば、生徒でも職員でも何でもいい」
「わかりました……それでは私は準備して、また明日参ります」
「よろしく頼む」
ギラメラは城を後にする。
(配送の仕事は全部断らないとなぁ、あとパルシオンが城の生活に慣れてくれるかどうか)
そう思いつつ、ギラメラは溜め息をついた。
───
入学から三カ月が過ぎた。
学園の一階の巨大な掲示板には、筆記試験の結果が学年ごとに貼られ、多くの生徒が集まっていた。
筆記試験は一年に三回に実施され、その結果は掲示板に張り出される。
掲示板の前には結果を喜び合う生徒、落ち込む生徒、冷静に受け止める生徒でひしめいている。
レオンも自分の順位を確認する。
名前はすぐに見つかった。
一番左上、学年一位に、レオンの名が堂々と書かれていた。
レオンはその結果に満足し、笑みをこぼす。
(ふっ、一位か……順当ではあるが、頑張った甲斐があったな)
他のクラスメイトの順位も確認する。
(チャゴとトッポは二十位と十九位……ミレアは五位、やるな……カイルは、七十八位!?)
一年生は百五十名。
七十八位は中間なので悪くはないのだが、学年が上がる際に成績順でクラス替えがあり、一組から別の組になってしまう可能性がある。
筆記試験だけでなく、武術や魔法、礼儀作法といった実技も総合的に判断される可能性もあるのだろうが、少し心配になる順位だ。
(カイルのやつ、ちゃんと寮で勉強してるのか?)
「モフオは四十位か」
モフオはフワフワの白い被毛の獣人族男性。
元々カイルと仲が良かったのだが、乱闘騒ぎの後、カイルはレオンたちと交流するようになり、モフオも自然とレオンたちと一緒にいることが増えた。
最下位を見ると、コロロンの名前があった。
教室に入ると、筆記試験の結果で持ちきりだった。
レオンが席に座ると、チャゴとトッポがレオンの元にやって来る。
「レオン様、一位おめでとうございます!」
「さすがは神童です!」
「いや、まだまだ。全教科満点という訳ではない。チャゴとトッポもなかなか良かったじゃないか」
「学年が変わってレオン様と離れ離れにならないように、我らも頑張りました」
「この調子で行けば、次も同じクラスになれそうですな」
レオンが笑顔で頷く。
「そうだね」
カイルとモフオがやって来る。
「レオン、一位おめでとう」
「俺は四十位、結構必死に勉強したんだけどな」
入学から三カ月も経てば、仲の良いグループは大体決まってくる。
レオンも含めたこの五名は、授業の合間の休憩時間や昼食を共にしたり、週二日ある休日は街に一緒に出掛けたりしていた。
レオンがカイルを見る。
「カイルは七十八位だったね、ちゃんと勉強したの?」
「いやあ、聖書のテストは満点だったんだけど、他がね」
カイルは両親が亡くなった後、教会で暮らしていた。
聖書の内容はすべて暗記しているらしい。
「いくら武術の実技が良くても、筆記試験が悪ければ学年が変わった時に他の組になるかもしれないよ」
「授業は真面目に受けているんだけどね」
「予習、復習はしているの?」
「なにそれ?」
レオンは肩を落とす。
「やってないんだ、放課後は何してるの?」
「木剣で素振りしてるけど?」
(そう言えば、村を救ってくれた憧れの剣士に、迷ったら木剣を振れと教えられたと言っていたな)
「カイル、授業を受けるだけでは内容は身に付かない。反復して体に覚え込ませる必要があるんだよ」
「テスト前には徹夜で勉強したけど?」
「それじゃ駄目だよ、予習で流れを掴んで、授業で理解して、その日のうちに復習する。それを繰り返して知識を自分のものにできるんだよ」
「そ、そうなんだ……知らなかったよ」
「カイルが良ければ、放課後図書室で一緒に勉強する? 分からないところがあれば教えるよ」
「えっ、いいの? 助かるよ」
チャゴ、トッポ、モフオもその話に食いつく。
「レオン様、その話、一枚噛ませていただくことはできますか?」
「我らもご一緒したいのですが」
「俺も、俺も」
レオンは笑顔で頷く。
「いいよ、みんなで勉強した方がモチベーションも上がるだろうし」
その時、コロロンが教室に入り、レオンたちの横を通り過ぎた。
レオンがコロロンに声を掛ける。
「コロロン、君も一緒に放課後勉強会どう? 筆記試験の結果、あまり良くなかったよね」
「勉強会? 儂には魔法があるんだ、必要ないね」
そう言うと、コロロンは自分の席に座った。




