第十三話 別の道
レオンの部屋の中が静まり返る。
チャゴとトッポは、レオンの退学宣言に絶句して固まっている。
(頼む、チャゴ、トッポ。俺のためと言うのであれば、首を縦に振ってくれ)
レオンはカイルの退学を取り消させるために、和解しなければ自分も退学すると賭けに出た。
勝算はある。
チャゴとトッポはレオンを確実に勇者にするために、カイルを脅威に感じて退学させようとしている。
それならば、レオンが学園を退学してしまえば本末転倒だ。
それに今回の件、レオンは巻き込まれた被害者という立ち位置。
安全圏から何を言っても、チャゴとトッポの心には響かないだろうという判断だ。
チャゴとトッポが口を開く。
「しかし……」
(くそっ、駄目か?)
「カイルが我らを許すでしょうか?」
(えっ?)
チャゴとトッポは意気消沈している。
「事情を知らなかったとは言え、我らは彼の大事にしている木剣を壊した」
「カイルも怒っているでしょう、とても和解できるとは思えません」
「チャゴ……トッポ……」
いままで、チャゴとトッポは、カイルのことを平民、孤児と、大きな枠で一括りにして呼んでいた。
それが、相手の事情を知り、カイルと名前を呼ぶことで、枠ではなく個として、カイルを感情のある一人の人間として見るという意識が芽生えていた。
レオンの瞳が潤む。
「ああ、カイルは私の友達だ。仲は私が取り持つ、安心してくれ」
レオンは椅子から立ち上がり、チャゴとトッポの肩を抱く。
「それに言ったろ、壊れたものは元には戻らないけど、別の道もあるって」
チャゴとトッポはきょとんとした表情を浮かべる。
「別の道?」
「それは一体……」
レオンは静かに笑みを浮かべた。
翌朝、職員室。
レオンは授業が始まる前に、ユバ先生の元へ報告に来ていた。
「今回、喧嘩に巻き込まれて怪我した生徒、並びにカイル、チャゴ、トッポの三名は和解しました。私も殴られたことについては不問とします。これにより 器物損壊と傷害事件は解決いたしました」
ユバ先生はレオンの報告に驚嘆する。
「まさか、一日で解決してしまうとは……レオン君には驚かされますね」
「これで、傷害事件による退学も、器物損壊による停学も、不問にしていただけますね?」
ユバ先生は柔和な笑みを浮かべる。
「ええ、今日は昨日の件で会議があるのです。学園長には生徒同士で解決しましたと報告しておきましょう」
レオンは深々と頭を下げる。
「ありがとうございます!」
レオンはユバ先生の目を見る。
「まだ何か?」
「はい、ユバ先生に許可を頂きたいことがあるのですが……」
ユバ先生は職員室を出るレオンの背中を眺める。
レオンは神童と言われるだけあって優秀なことは分かってはいたが、まさかここまで早く解決するとは思いもよらなかった。
(他の先生方に、学園の決定を先延ばししてもらえるよう根回ししていたのですが、無駄になってしまいましたね……もっとも、無駄になって良かったですが)
そう思いながらユバ先生は、会議資料の準備を始めた。
数日後、レオンたちは剣術の授業で広場に集まっていた。
カイルは学園で準備された木製の片手剣を手にしている。
カイルの元へチャゴとトッポが歩み寄る。
三人とも、まだ顔のガーゼと手の包帯は取れていない。
チャゴとトッポがカイルに謝罪する。
「カイル君、木剣のこと済まなかった」
「この償いは必ずする」
カイルが少し困った顔をする
「あははっ、この前も謝ってもらったしもういいよ。それに、僕も君たちのこと殴っちゃったし」
そう言って笑い合う。
まだ少しぎこちないが、それでも三人の関係は確実に良くなっていた。
そこへ、レオンがやって来る。
「カイル、素振りが終わったら、私と手合わせしよう!」
カイルが笑顔で頷く。
「うん、やろう!」
放課後、レオン、チャゴ、トッポは学園内にある工房に集まっていた。
工房の使用許可はユバ先生から貰っている。
レオンが二人に指示を出す。
「木材が手に入った、さっそく作業を始めるぞ」
手に入れた木材に、カイルから借りてきた折れた木剣を乗せ、ペンで型をとる。
そして、その木材を三人はそれぞれ小型のナイフで削り始めた。
まずは大まかに削り、ペンで描いた型に近くなったら少しずつ削っていく。
削り過ぎないように慎重に。
しかし、乾いた硬い木材は、削るのも一苦労だ。
三人は、放課後になると、毎日工房に集まり木を削り続けた。
そして、削り終わると、ヤスリで表面を滑らかにしていく。
仕上げは油を塗って乾かした。
作業を始めてから完成までに一ヶ月近くかかってしまった。
レオンたちは、出来上がった木剣を眺める。
レオンの作った木剣は美しい仕上がり、折れる前の木剣と比べても遜色ない。
(さすが俺、手先も器用だ)
レオンは自分の作った木剣を手にとって眺め、ニヤリとする。
チャゴとトッポの作った木剣は、少し削りすぎてしまったり、油の塗りにムラがあったりで、あまり出来の良いものとは言えない仕上がりだった。
それでも、心を込めて作った木剣には違いない。
チャゴとトッポも自分の作った木剣を手にとる。
「木剣を作るのって、こんなに大変だったんですね」
「でも、我らの作った出来の悪い木剣を渡しても良いのでしょうか? レオン様が作ったものだけで十分なのでは?」
レオンは首を横に振る。
「こういうのは気持ちだ、お前たちそれぞれの気持ちを伝えないと意味がないだろ」
チャゴとトッポが頷く。
「わかりました」
「レオン様がそうおっしゃるなら」
レオンは笑顔で頷く。
「きっと喜んでくれるさ」
次の日の放課後、カイルも一緒に工房を訪れる。
(本当にこれで良かったのだろうか?……いや、きっと大丈夫なはずだ)
工房に入るとカイルが尋ねる。
「見せたいものって何?」
作業台の上に被せてあった布を取り払うと、そこには三本の木剣が並んでいた。
少し曲がっていて、剣士がカイルに贈ったものと同じ、刀を模した木剣だ。
カイルが目を丸くして木剣を眺める。
「これは?」
カイルの問いに、レオン、チャゴ、トッポが応える。
「カイルの木剣を壊してしまったからな、私たちが新しく作った」
「これで我らのしたことが消える訳ではありませんが、受け取って頂けませんか」
「我らの作ったものは、レオン様の作ったものと比べて、あまり出来は良くありませんが」
カイルは、木剣を一本一本確認すると、満面の笑みを三人に向けた。
「ううん、そんなことない、嬉しいよ。作るの大変だったでしょ? 折れた木剣を借りたいって言われた時は何でだろうって思っていたけど、こういうことだったんだね!」
レオンたちはほっと胸を撫で下ろす。
「でも……」
カイルが作業台に置かれた木剣に視線を落とす。
(なんだ?)
そして、再び顔を上げた。
「今度からこういうことをする時は、僕も誘ってよ」
チャゴとトッポが表情を和らげる。
レオンも満面の笑みでカイルに応えた。
「ああ、私たちは……友達だからな!」




