第十一話 退学
レオンは医務室で治療を受けた後、教室でユバ先生に事情を説明していた。
一年生の今日の午後の授業は中止。
この件に関わりのない生徒は寮へと戻っている。
ユバ先生はレオンの話を真剣に聞いていた。
「なるほど、それで乱闘騒ぎになったという訳ですか」
「私たちは退学でしょうか?」
「いえ、この件で言えばレオン君は巻き込まれた被害者です。退学にはしません」
「信じていただけるのですか?」
「はい、カイル君とチャゴ君、トッポ君にも事情を聞いていますし、レオン君が先程話した内容とも整合性が取れている」
レオンはほっと胸を撫で下ろした。
(ん? 待てよ……レオン君はってことは……他のみんなは?)
「あの、他のみんなは?」
ユバ先生は眉をひそめる。
「処分を下さないという訳にはいかないでしょう、特にカイル君には」
「なぜです? カイル君の大事にしている木剣を壊したのはこちらです。カイル君が平民だからですか?」
「話はそう簡単じゃないんです。チャゴ君とトッポ君がしでかしたことは物を壊しただけの器物損壊。対してカイル君は、無関係のレオン君を殴って怪我を負わせた傷害事件です」
「でもそれは、カイル君に誤解があったからで」
(あのとき、俺は止めようとしたが、チャゴとトッポは笑いながら俺の為にやったという趣旨の話をしていた。その輪の中に入っていた俺を共犯だと思い込んでも仕方ないはずだ)
ユバ先生は首を横に振る。
「レオン君だけじゃないんです。チャゴ君、トッポ君、さらには制止しようとした生徒が怪我をしています」
「それは、チャゴとトッポも同罪では?」
「チャゴ君とトッポ君は、暴れるカイル君を止める為に仕方なかったと言っています。先に手を出したのがカイル君である以上、カイル君が責を負うことは避けられないでしょう」
「カイル君の木剣が壊されなければ、こんなことになりませんでした、原因を作ったこちらが責を負わないのは片手落ちです!」
「器物損壊と傷害事件は別問題です。カイル君は傷害事件の責を負い退学。チャゴ君とトッポ君は器物損壊で一週間の停学。学園の規則と照らし合わせれば、これが最終的な判断になるでしょう」
「そんな……」
レオンは肩を落とす。
レオンはカイルのことを思い返す。
仲が良かった訳ではない、ほとんど話す機会もなかった。
カイルがなぜこの学園に入学したのかも、入学する前は何をしていたのかも知らない。
でも、このままカイルが退学するのは嫌だと思った。
いままでレオンは、同年代で自分よりも優秀な者に出会ったことがなかった。
実家にいたとき、教育係も、剣術指南役も、魔法の先生も、皆レオンをこれ程優秀な子は見たことがないと褒め称えた。
それが昨日、カイルとアルベルト先生の戦いを見て、初めて同年代で剣の腕は自分より上なのでは? と思った。
悔しさはあった。
でもそれ以外にも、同年代で自分と並び立てると思える相手に出会えた喜びもあったのかもしれない。
「ユバ先生……」
「なんでしょう?」
「カイル君と話はできますか?」
カイルと何を話せばいいのか今は分からない。
でも、レオンはカイルと話さなくてはならないと、そう感じていた。
教室でしばらく待つと、ユバ先生がカイル君を連れてきた。
レオンとカイルは、対面に座る。
「や、やあカイル」
カイルの顔にガーゼが貼られ、手には包帯が巻かれていた。
(話したいとは言ったが、何から話そう)
「……レオン君、怪我、大丈夫?」
「あ、うん……まだ血が止まらないけど、薬も塗ってもらったし、命に別状はないよ」
「そう……」
場を和ませようと軽く冗談を言ったのだが、滑ってしまった。
「その、ユバ先生から事情は聞いた。レオン君は僕の木剣を壊したこととは無関係だって」
カイルが勢いよく頭を下げる。
「勘違いで殴ってごめんっ!」
「いや、原因を作ったのはこっちなんだし、謝らなくていいよ」
「えっ? でもレオン君があいつらに指示した訳じゃないんでしょ?」
「うん、そうなんだけど、私も友達の暴走を止められなかったから……もっと強く言っておけば良かったかなって」
「えっ? 友達?」
「そうだけど?」
「取り巻きじゃなかったの?」
(やはり周囲からそう思われていたか)
「友達だよ、チャゴとトッポはどう思っているのか知らないけど、少なくとも私は友達だと思ってる」
「……レオン君も苦労してるんだね」
(俺のこの気持ち、分かってくれるのか!)
チャゴとトッポは、レオンがいくら自分の気持ちを伝えても理解しているのかしていないのか分からない態度なので、カイルのこの一言にレオンは感動していた。
「私はカイル君がこのまま退学するのは納得がいかない」
「僕も納得できないけど、規則なんだから仕方ないよ」
「カイル君はそれでいいの?」
「良くはないけど……」
「カイル君がなんで勇者学園に入ったのか、教えて貰ってもいい?」
「ある人と約束したんだ」
「約束?」
「うん、世界を救うために、できることをするって」
「その人って、カイル君に木剣をくれた人?」
「うん、その人は僕の命を救ってくれたんだ」
「詳しく聞いてもいい?」
「わかった、少し長くなるけど……」
カイルは話した。
三年前、カイルの村の近くの森に魔物が住み着き、夜な夜な村を襲った。
両親は魔物に殺され、カイルも魔物に襲われて殺される寸前に、旅の剣士に命を救われたのだ。
カイルは、その旅の剣士のことを勇者だと思ったが、剣士は自分は勇者じゃないと言った。
カイルは森を案内し、剣士と共に森の魔物を倒して村は救われた。
剣士が村を去る際、カイルは剣士に、勇者になって世界を救って欲しいと頼んだ。
すると剣士は、カイルに世界を救えと言い、剣士が自ら作った木剣をカイルに贈ったのだ。
「世界を救いたいと思うなら、どうすれば救えるのか考えて行動しろって言われてね」
「それで勇者学園に入学したって訳か」
「うん、悩んだ時は、そいつを振れって言われて木剣を渡されたんだけど、正直どうすればいいのか分からなくてずっと振ってたよ」
カイルは苦笑する。
「そんな大事なものを壊してしまったんだな……」
カイルは視線を落とす。
「壊れてしまったものは仕方ないよ、もう元には戻らない……」
それは、木剣のことなのか、それとも学園生活のことなのか……。
レオンがユバ先生を見る。
「先生、カイル君が退学せずに済む方法、何かありませんか?」
ユバ先生は、俯き考え込む。
そして、ゆっくりと顔を上げ、口を開いた。
「一つだけ……方法があります」




