表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能力者の人生オールベット  作者: 織田マコト
幼少期編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/8

【交差する思い】

フレヤとの激動の出会いの翌日。

彼女は、何事もなかったかのように教会へ現れた。


その背後には、執事のオスカーの姿もある。


もう隠れる必要はない。

俺は正面から庭へ出た。


フレヤは木製の剣を二本、軽く掲げる。


「レキ、稽古に付き合ってくれないか」


唐突な申し出だった。

だが、その手にある木剣を見れば、意味は明白だった。


迷いはない。


「よろしく頼む」


強くならなければならない。

ネロとミリア――家族のような二人を守るために。


ユニティーがないなら、武で補う。


教会の庭。

向かい合い、木剣を構える。


前世で剣を握ったことなどない。

それでも、自然と形は整っていた。


両手で剣を握り、身体の前へ。

片足を半歩引く。


「構えは知っているのだな」


「なんとなくだよ」


フレヤも同じ構えを取る。

少なくとも、間違いではないらしい。


「行くぞ」


「こい」


踏み込む。


振り上げた木剣を、そのまま胴へ叩き込む――はずだった。


「――っ」


鈍い衝撃。


フレヤの剣が、正確に噛み合う。

受けた、のではない。流された。


力が逸れる。


体勢が崩れる。


――まずい。


振り下ろそうとした、その瞬間。


視界が揺れた。


「ドンッ」


腹部に突き。


空気が、一瞬で抜ける。


「あ……っ」


息が、ない。


地面が迫る。

気づけば、数メートル先に転がっていた。


肺が痙攣する。

吸えない。吸い方が分からない。


痛い。


腹の奥を、乱暴に掻き回されるような感覚。

視界の端が滲む。


こんな痛み、知らない。


「立て、レキ」


静かな声。


「そんな事では、何も守れないぞ」


分かってる。


そんなの、分かってる。


怖い。


怖い。怖い。怖い。


死ぬ――


「もうやめて!」


ネロの声。


振り向くと、ミリアも立っている。

ネロの目には、涙が浮かんでいた。


情けない。


また、心配をかけている。


それでも――


「大丈夫だよ」


絞り出す。


「俺は、強くなりたい。だから……今は、自分と向き合わせてほしい」


ネロが言葉を探す。


その肩を、ミリアが静かに押さえた。


何も言わない。

だが、“止めない”という意思だけがあった。


そのままネロを連れて、教会へ戻っていく。


……助かった。


小さく息を吐く。


再び木剣を握る。

震える手に、力を込める。


構える。


呼吸を整える。


「お願いします」


フレヤが、笑う。


次の瞬間、地面を蹴った。


速い。


「今度は、動きを理解してやる」


見えない。


気づいた時には、もう目の前に剣がある。


反射で受ける。


だが――身体が逃げる。


恐怖で、わずかに仰け反る。


「パァンッ」


弾かれた。


重心が浮く。


身体が、空く。


――終わった。


「ドンッ」


二度目の衝撃。


今度は、深く入る。


地面に叩きつけられる。

背中に鈍い痛みが広がる。


痛い。


痛い痛い痛い。


呼吸が乱れる。

視界が白む。


……それでも。


立たなければならない。


痛みから逃げるため、思考を逸らす。


前世。


何も成さず、ただ時間を浪費した日々。

満たされないまま、積み重なっていくだけの時間。


あの虚無。


今は違う。


目的がある。

足掻いている。

考えている。


震える脚で、立ち上がる。


木剣を構える。


口元が歪む。


気づけば、笑っていた。


――痛いのに。

それでも、笑っていた。


覚悟が決まる。


自分の人生を、初めて賭けている。


結果がどうであれ、関係ない。


視界が、冴える。


フレヤの目が、わずかに細まる。

「対等に慣れたなどと慢心するなよ」


小さく、続ける。


「限界を作るな」


「……そういう奴は、もう……見たくない」

ほんの一瞬だけ、表情が陰る。


対等なはずがない。

楽しそうに言うその顔に小さく吐き捨てる。


「……余裕ぶってんじゃねえよ」


ほんの少しだけ。


心に余白が生まれていた。



少し離れた場所で。


ミリアは葉巻の煙を吐き、目を細める。


「……ああいう顔、初めてだな」


視線の先で、レキが何度でも立ち上がる。


「あんだけ心配かけといて、楽しそうにしやがる」


小さく、笑う。


「ほんと、手のかかる奴だ」


ネロは唇を噛み、手を組む。

祈る指先が、わずかに震えている。


「……レキを、お許しください……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ