【歩み】
転生してからの日々は、食べて、寝て、そして魔法を思い描く。今のところ何も起きていない。
ある日の事、ネロが俺の過去を話した。
「あのね、レキは教会の前でミリアが見つけたんだよ」ミリアとは、教会にもう1人いる白髪のシスター、容姿は、前世の俺よりでかく、常に葉巻を咥えている。威圧感を常に出している。
状況を考えると俺は、捨てられていた。ネロやミリアに居場所を貰っているお陰もありすんなりと受け入れられる。
(それでも今ここにいる)それが、今の俺の存在証明になる。
身体に力を入れる、「ぁーぁーあーー」声を出して魔法を使うイメージを試みるが、相変わらず何も起きない...だが、魔法はあると確信した出来事がある。窓の外を眺めている時に、怪我をした子供に回復魔法を使うネロの姿を目視した。今後に期待だな。
そんな日々を過ごすうちに、気づけば月日は流れていた。やがて俺は言葉を話せるようになり、自分の足で歩ける年齢まで成長していた。
朝の覚醒の前、柔らかくて暖かい匂いに包まれていた。気がつけば、ネロに抱きしめられている。
彼女はいつもこうやって起こしてくる。がっちりとした腕にホールドされ、身体がきしむほど締め付けられる。
苦しい。だけど、不思議と嫌じゃない。むしろ安心してしまう自分がいる。
愛情が重いが、好きだ。できるならこのまま結婚したい。
ネロにあの力のことを聞こうとした。だが、「魔法」と呼んでいいのか分からない。
少し考えて、言い方を選ぶ。
「ネロが、小さい子の怪我を治していたの……あれって何?」
これなら不自然じゃないはずだ。
だが、ネロはすぐには答えなかった。ほんの一瞬、躊躇う気配があった。
「……ユニティーだよ」
静かに、そう言う。
「ユニティーはね、創造神様に与えられる力なの」
少しだけ微笑んでから、ネロは続けた。
ネロの手から放たれる柔らかな白い光――「ユニティー」。
それは前世で読んだファンタジー小説の「魔法」とはどこか違う、もっと根源的な生命力を感じさせるものだった。
「ねぇ、ネロ。俺にもユニティーは使えるのか?」
俺がそう尋ねると、ネロは抱きしめる力を少しだけ強めた。その温もりは相変わらず心地いいが、彼女の瞳の奥に、言葉にできない複雑な感情が揺れているのを俺は見逃さなかった。
「……レキがもう少し大きくなったら、ミリアと一緒に『鑑定の儀』をしましょう。そうすれば、レキにどんなユニティーが宿っているかわかるわ」
そう言って笑うネロの顔は、どこか無理をしているように見えた。
ある日の午後。庭で木の枝を振り回して「イメージ修行」をしていると、背後から紫煙の匂いが漂ってきた。
「おい、レキ。そんな棒切れ振り回して何になる」
振り返ると、案の定、巨大なシスター・ミリアがいた。身長百七十センチを超える彼女に見下ろされると、やはり少し気圧される。今日もその口には太い葉巻が咥えられていた。
「ユニティーの訓練だよ。ネロみたいに、光を出せるようになりたくて」
俺が答えると、ミリアは鼻から煙を吐き出し、重厚な声で笑った。
「ネロの『慈愛』は特別だ。だがな、坊主。ユニティーってのは、単なる力じゃねぇ。それはお前の『存在の証明』そのものだ。焦るんじゃねぇよ」
ミリアはそう言うと、大きな手で俺の頭を乱暴に撫でた。見た目は怖いが、その手は驚くほど温かかった。彼女が作る無骨だが味の深いスープと同じ、不器用な優しさがそこにはあった。
その夜、俺は不思議な夢を見た。
真っ暗な空間の中で、自分自身の心臓の音が聞こえる。
ドクン、ドクン、という鼓動に合わせて、身体の奥底で何かが蠢いている。
それはネロの白い光とは違う。もっと熱く、激しく、漆黒の中に火花が散るような……。
「これが、俺の……?」
手を伸ばそうとした瞬間、目が覚めた。
窓の外からは、夜の森のざわめきが聞こえてくる。隣で眠るネロの穏やかな寝息を聞きながら、俺は確信した。
俺の中には、何かがある。
それが「創造神」から与えられた祝福なのか、あるいは転生者ゆえの異物なのかはわからない。
だが、あの時のネロの寂しそうな顔の意味を、俺はいつか知ることになるのだろう。
捨て子だった俺を拾い、愛してくれた二人。
今度は俺が、この力で二人を守れるようにならなければならない。
時は経ち「鑑定の儀」の日がやってきた。
教会の古びた祭壇の前で、ミリアが葉巻を置き、真剣な表情で古い教本を開く。
「さあ、レキ。その手をここへ置け。お前の運命を覗いてやる」
俺は震える手を祭壇の石板にかざした。
その瞬間、教会全体が激しい光に包まれた。ネロの白い光でもない、見たこともない色の輝きが、俺の指先から溢れ出したが、消滅した。




