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無能力者の人生オールベット  作者: 織田マコト
幼少期編

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16/17

【家族会議】

朝の恒例行事。

ネロと並び、創造神様とやらへ祈りを捧げる。

昔、一度だけ祈りを忘れたことがあった。

あの時、初めてネロが怒った。

……いや、怒ったというより、怯えていたのかもしれない。


俺は心の中で適当に祈る。

(創造神様〜俺にもユニティーをくださーい)

どうせ叶わない願いだ。


食事の準備をミリアと済ませ、三人で食卓につく。

今日言わなきゃいけない。


二人に、自分の覚悟を。

息を吸う。

そして迷わないよう、決定事項として口にした。

「なあ、俺は外へ出る」


先に反応したのはミリアだった。

「ああ、いいぞ」


「……は?」

思わず間抜けな声が出た。


こんなにあっさり認めるとは思わなかった。

「ミリア、何言ってるの?」


今度はネロだった。

「いつまでもこのままじゃいられないだろ」


「でも、そんなことしたらレキは……!」

ネロの声が震える。


その言葉を遮るように、ミリアが低く言った。

「いい加減にしろ」


教会の空気が一瞬で張り詰める。

「ネロ、お前はもう子供じゃない」

「私達はもう、とっくに矛盾したことをしてる」

「今さらなかったことにはできない」


ネロが唇を噛む。

「それは……創造神様を否定するってこと……?」


「否定してるわけじゃない」

ミリアは真っ直ぐ見つめ返す。

「創造神様の導きだからって、自分の頭まで放り投げるな」


「……っ」

返せない。

そんな空気だった。


ずっと黙って見ていた俺は、口を開いた。

「時には喧嘩も大事なことだと思うぞ」

「喧嘩するほど仲がいい証拠だ」


二人が同時に振り向いた。

「黙ってろガキ」

「今は静かにして」


……息ぴったりじゃねえか。


少しだけ安心して思いを告げる。

「俺は、俺の感情に従う、神が否定してもな」


ネロが息を止める。

「ネロ、今は無理に答えなくていい」

「でも、一つだけ聞かせてくれ」


俺はネロを見た。

「俺は、ここにいない方がいいか?」


ネロの瞳に涙が溜まっていく。

「そんなこと……ない……!」

「絶対に……!」


胸が苦しい、ネロの涙は見たくない。

だけど、ここで目を逸らしたら駄目だ。


「ありがとう、俺に居場所をくれて」

「だけど、ネロが何かを抱え込んでる顔を見るのは辛い、これ以上は、耐えられそうにない」


ネロの目が大きくなる。

隠せてるつもりだったのだろう。


「俺達は、ひとりじゃないだろ」

「だから、感情を隠さないでくれ」


ミリアが頷く。

俺の言葉を引き継ぐように口を開く。

「私達は家族だ」

「誰であろうと、それだけは否定させない」


……本当に。

この人に拾われて良かった。

ネロは涙を拭きながら呟く。

「私は……どうしたらいいの」


ミリアは笑った。

「メソメソするな!」

「お前がしたいことをしろ」

「迷ったら、レキの言う感情ってやつに従えばいい」


ネロが目を丸くする。

「私の……したいこと?」


「ああ」

「創造神様に何か言われたら、その時は言ってやれ」


ミリアはニヤリと笑った。

「これは私なりに、この世界を想った結果ですってな」


ネロは涙を流したまま笑った。

「……私なり、か」


その笑顔は、俺が初めてネロを見た時と同じだった。

柔らかくて暖かい笑顔。

気付けば、あの日のネロが戻っていた。


心の中で、そっと呟いた。

(……おかえり)


ああ。

出会い方が違えば、違う感情を抱いていたのかもしれない。胸の奥に浮かんだ感情は、静かに消えていった。


誰も言葉を発さない。

けれど、さっきまでの苦しさはもうなかった。


――ジッ。

静かな教会に、火の付く音が響いた。


ミリアが葉巻に火をつけていた。

紫煙を吐きながら、俺たちを見る。

さっきまでの空気なんて、最初から無かったみたいな顔だ。


そして――


「お前ら今から、ルグ村の人の様子を見て来い」

「レキはこれに着替えろ」

ミリアがネロの服を指差した。


……ん?

「見習いシスターになれ」

数秒、思考が止まった。

「おい待て待て、これ女もんじゃねーか!?」


ミリアは煙を吐いた。

「当たり前だろ。教会だぞ」


俺は、ミリアに声を荒げた。

「ふざけんなよ、着るわけないだろ恥ずかしい」


ミリアは、葉巻を加えながら俺を睨む。

「おいガキ、こっちは、譲歩してやってること忘れるなよ」

「それ以上、文句言うなら庭で教育し直すぞ」


怖い。


ミリアを怒らせたら、飯抜きどころか一日中正座コースだ。

「はい、わかりました」

女装が確定した。


ネロの顔が視界に入る。

一部始終見ていたネロが笑う。


その笑顔は、俺の世界を暖かく包む。

そんなネロの笑顔と、ミリアのドヤ顔を見比べる。

……なんだこの差。

思わず口元が緩んだ。

ミリアが、不気味な笑みを浮かべながら近づく。

「今、私を馬鹿にしたな」


やばい。

今日の予定は、女装、正座、そして飯抜き。

終わった……。


ユニティーはないし、人権もない。

だが、この先には色づく世界が待っていると思いたい…

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