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無能力者の人生オールベット  作者: 織田マコト
幼少期編

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15/17

【黄金騎士】

朝日が差し込む前に起き、ネロと共に創造神とやらへ祈りを捧げる。

それが俺の日課だった。

だが、今朝は違った。


荒々しい声で叩き起こされた。

「レキ、起きろ。稽古の時間だ」

フレヤの声だ。


……そうか。

昨日、あいつは教会に泊まったんだった。

「もう少し寝かせてくれ……」


寝返りを打つ。

すると、目の前にネロの寝顔があった。

そういえば昨日、俺はフレヤに寝床を譲ったんだ。

その結果、俺はネロと一緒に寝ることになった。

俺は眠るネロへ、そっと抱きつく。

至福だ――


その瞬間。

ぞわり、と背筋が冷えた。

……圧?

いや、違う。

殺気だ。

振り向くと、フレヤが無言で俺を睨んでいた。

「レキ。起きろ」

完全に目が覚めた。

「わかった。飯食ってからにしよう」



ミリアの朝食を食べ終えた頃だった。

「レキ、稽古だ」

フレヤが木剣を持ち上げる。


だが、その言葉を遮るように教会の門が開く音が響いた。

来客だ。


扉を開くと、高貴な身なりの男が穏やかに頭を下げた。

「ミリア様、お久しぶりです」

「娘が帰っていないので、何かあったのかと心配しましたが……」

その視線がフレヤへ向く。

「問題なさそうですね」


……父親か。


ミリアが頭を下げた。

「すまない、ヴァイス殿。少々遅くなってしまってな」


「そうでしたか。無事なら何よりです」

ヴァイスは周囲を見渡し、首を傾げる。

「おかしいですね。オスカーの姿が見当たりません」


……そうなるよな。


俺のことまで話されたら面倒だ。

フレヤが前へ出る。

たった一歩。

それだけで空気が変わった。


「父上、ご心配をおかけしました」

「そしてオスカーは、私が解雇しました、己が何者なのか知ってもらうために」


ヴァイスが目を伏せる。

「彼は……ようやく……」


「はい」

「オスカーは、自分自身と向き合い始めました」

そしてフレヤは俺を見る。

「このレキという男が、手を差し伸べました」


……助かった。

原因を伏せたまま、問題にならない形にしてくれている。


ヴァイスは、俺に視線を向けた。

「私はヴァイス・ロンドと申します」

「レキ君。君がオスカー殿を救ってくれたのかい?」


俺は首を横に振った。

「違う、俺が納得できなかっただけだ」

「ただ、自分で選ぶ事を知ってほしかった」


静寂が落ちる。

「彼に必要だったのは、救いではなかったのですね」

ヴァイスは深く頭を下げた。

「心から感謝を」


「レキ君。黄金騎士様のお話を聞いて下さりませんか。」

黄金騎士。

オスカーが心酔していた人物か。


するとフレヤが静かに口を開いた。

「少し昔の話だ」

「あの頃は、黄金騎士様以外、誰もユニティーを持っていなかった」


まて……

ユニティーが無い。

俺だけが異常ではなかった。


フレヤの声色は少し違った。

尊敬――いや、それ以上の感情が混ざっている。

「皆がユニティーを使わずに支え合って生きていた時代だ」

「だが、黄金騎士様だけは違い、ユニティーの力で争いを止め、人々を守り続けた」


俺は黙って聞いていた。


だが――


フレヤの表情が、僅かに曇る。

「……それを快く思わない者もいた」


空気が静かに重くなった。

「王は、自らの威厳が揺らぐことを恐れた」

「そして民も……黄金騎士様を裏切った」


その言葉だけが、妙に静かに響く。

「信じていた者達までも」


しばらく誰も口を開かなかった。

「黄金騎士様を守ろうとした騎士は僅かだった」

「そして四面楚歌の中、命を落とした」


前世でも似た話はあった。

誰かが救い、誰かが恐れ、最後には都合よく切り捨てられる。


「オスカーは、最後まで忠義を貫いた騎士だ」

そうか……

道理であそこまで狂気じみていたわけだ。


そしてフレヤは、静かにヴァイスを見る。


「ロンド家は、黄金騎士様の末裔であり――」


一拍置いた。


「死を与えた家系でもある」


ヴァイスは否定しなかった。

「その褒美として、この地を授かった」


……どこの世界でも、都合の悪い存在は嫌われるらしい。



情報量が多いな。


ここは、ルグ村。


黄金騎士に、ロンド家の末裔。


王の在り方。


頭の中で整理していると、一つだけ引っかかった。

「……何で今は皆、ユニティーを持ってるんだ?」

俺以外。

ネロもミリアも驚かない。

知っていた顔だ。


ヴァイスが静かに答える。

「黄金騎士様が亡くなられた後です」

「創造神様が願いを聞き届けた、と伝えられています」

「そして我々に、ユニティーが宿るようになりました」


……なるほど。

オスカーが俺を認められなかった理由も、そこにあるのかもしれない。


黄金騎士の理想から外れた存在。

少なくとも、あいつはそう思っていたのかもしれない。


結末には、違和感を感じるが、知らない事が多過ぎるからなのか。

今は、追求しない。


フレヤは上を向いたまま言う。

「私は、黄金騎士様を尊敬している」

迷いのない瞳を、俺に向ける。


「お前、黄金騎士と似てるぞ」

「気をつけろよ、本気で」


フレヤの口角が上がる。

「なら、その時はレキが止めろ」

「お前は、そういう男だろ」


……何を当然みたいに言ってるんだ。

「面倒だ。英雄や騎士なんてごめんだ」


少し間を置いて、ため息を吐く。

「……借りくらいは返すけどな」

安心している顔で、フレヤは笑って俺を見る。

なんだよ……


そして、ヴァイスがこの場にいる全員へ静かに告げた。

「この話は、一切他言無用です」

「黄金騎士様の存在は、一部の人間しか知りませんので」


……無かったことにされているのか。

英雄だったはずなのに。

救ったはずなのに。


残ったのは裏切りと隠蔽だけ。


……嫌な話だ。

俺には関係ない。

そう思うのに、妙に引っかかった。

世界の話はもういい。

これ以上聞くと、腹に影響しそうだ。


そんな事よりも、ネロだ。

笑顔は変わらない。

いつも通りだ。


……なのに、妙に静かだった。

俺は気づいている。


ネロが何かを隠していることに。

理由はわからない。

聞けば話してくれるかもしれない。

けれど、多分そういう問題じゃない。


笑顔の奥に隠しているなら、簡単に触れてほしくないものなんだろう。

だから今は聞かない。

ただ――


俺を肯定してくれて、居場所をくれる奴らだけは守る。

そう決めた。

面倒事になるのはわかってる。

それでも放っておけない。


……やれやれだ。

笑って過ごすだけなのに。


思っていたより、ずっと難しい。

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