【三つの結び】
俺は、修道女の服を着せられる。
……もう割り切った。
堂々としていればいい。
ネロと共にルグ村の探索へ向かう。
目的は村人の治療だけではない。
ネロの歌で、人々の心を癒やすこと。
ネロの歌は、死者へ捧げる鎮魂の歌らしい。
ふと、ネロの愛情が暴走した。
もう止まらない。
満面の笑みで俺へ抱きついてくる。
「可愛い……可愛すぎる」
みしみし、と骨が悲鳴を上げそうなほど力が強い。
愛情が重い。
……だが悪くはない。
「レキ、これを持て」
ミリアが差し出したのは、試験管のような容器に入った液体だった。
青く透き通った液体。
ゲームでよく見る、ポーションってやつか?
「お前は治癒系のユニティーを持っていない。だからそれを使え」
「薬草とはちみつを調合した物だ。ある程度の傷は治る」
かなり即効性のある薬だと認識した。
俺が感心していると、ミリアが、俺達に目線を据える。
「いいかお前達、今から言う【三つの結び】を忘れるな」
俺とネロは同時に首を傾げた。
「三つの結び?」
ミリアは葉巻を指で摘み、口から葉巻を遠ざける。
「縁、絆、繋」
「縁を大切にしろ。絆を結べ。そして繋がりを紡げ」
難しいな。
適当に覚えたふりをしておこう。
そう思った瞬間だった。
ミリアの目が、じっと俺を射抜く。
「レキ。復唱しろ」
こいつ、本当に人をよく見てやがる。
仕方なく口を開いた。
「縁、絆……なんだっけ」
ミリアが怒鳴った。
「正座しろ!」
隣を見ると、ネロは親指、人差し指、中指を一本ずつ立てながら覚えていた。
可愛い。
俺は正座したまま、覚えるまで延々と復唱させられた。
そして愛刃の木剣を腰へ取り付ける。
その姿を見て――
ミリアは腹を抱えて笑い出した。
ネロは、笑うのは失礼だと思ったのか、慌てて背を向ける。
だが肩が小刻みに震えていた。
……切ない。
ネロの肩の震えが止まり、こちらを見る。
「レキ、大きくなったね……」
そうなのか?
あまり実感はないが、確かに前よりは――
いや、違う。
ネロが言いたいのは、そういう意味じゃない。
見た目の話ではない。
ならば、全力で格好をつけてやる。
「ああ、守ってやるよ」
ネロはくすりと笑った。
「まだまだ子供だね」
なんだよ、それ。
教会の門へ着く。
ネロが門を開けようとしたところで、俺はその手を止めた。
「ネロ。俺に開けさせてくれ」
ネロは少しだけ目を丸くし、子供を見るような顔で笑う。
「どうぞ」
門を押し開く。
軋む音と同時に、胸が跳ねた。
終わりのない透き通る空。
優しく降り注ぐ陽の光に、理由なんてなくても心臓はうるさい。
向かい風が、背中を押す。
そして人生という限りある時間が、進み出した。
俺は振り返る。
見送ってくれているミリアへ向けて、今の感情を言葉にする。
そして――
愛を込めて。
「行ってきます」




