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無能力者の人生オールベット  作者: 織田マコト
幼少期編

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11/14

【転生者は前進する】

フレヤとオスカーの姿は、教会にはない。

教会の中に、夜の静けさが沈んでいた。

音が消えたわけじゃない。ただ、すべてが遠く感じる。最初に沈黙を破ったのはネロだった。

「フレヤ様……大丈夫かな」


「フレヤ嬢のユニティーなら問題ない」

ミリアは短く言い切るが、強い声だった。だが、その奥に焦りが混じっているのが分かる。


オスカーの実力は分からない。

正面からの戦いなら、フレヤが負けるとは思えない。

だが――これは、そういう場じゃない。

だから俺は言った。


「ミリア、俺行くよ」


空気が変わる。


ミリアの視線が一瞬だけ揺れて、それから鋭く刺さった。

「お前が行って何が変わる」

怒鳴り声だった。

だが怒っている相手は俺じゃなく、自分自身を殴っていた。


「そうだよ、レキ……お願いだから」

ネロが腕にしがみつく。

細い指が、離れまいとするみたいに強く力を込める。

その温もりが、少しだけ思考を鈍らせる。


頬がこわばって動かない。

それでも無理矢理にでも口角をあげる。

「フレヤだけに任せる訳にはいかないだろ」


ミリアの声が跳ねた。

「駄目だ……っ!」

そして、すぐに察した。


「レキ、それは……お前を一生蝕むぞ」

その言葉は、脅しではなく事実だろう。


息を吐く。

「その苦しみを、フレヤに押し付ける訳にはいかない」


沈黙。


ミリアはもう何も言わなかった。

言えなかったのかもしれない。


ネロの指が、俺の服を握りしめる。離れないように、必死に。


なのに俺は、また二人に背負わせようとしている。

胸の奥が締めつけられる。

それでも言葉は出た。


「俺は大丈夫だ。……二人とも、愛してる」

それが、嘘じゃないことだけは分かっていた。

ネロの手を外し、強く握られた指を、一本ずつゆっくりほどく。

離れる瞬間、指先の力がゆっくりと失っていった。


振り返らない。


振り返れば、何かが終わる。


――そのとき。


「……行かないで」


絞り出すような声だった。


「……行かないで」


小さく息を呑んで、続ける。


「帰ってきて……ね」


ネロの突き刺す声に足が止まる。


ミリアは歯を食いしばったまま、しばらく動かなかった。 

それから、ようやく吐き出すように言った。


「……行け、レキ」


数秒の沈黙。


初めて、自分の意思でその扉に手をかける。

重い。

軋む音が、やけに大きく響いた。

その向こう側から、冷たい夜気が流れ込む。

白い月光が、床に線を引いていた。

内と外を、はっきりと分ける境界。

守られるだけだった少年が、その線を越える。


そして――


世界が、ひらいた。

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