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クラスメイトの箱入りお嬢様が、私の百合ラノベのネタになるまで!  作者: 沢谷 暖日
第3章 月江雫という女の子

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第45話 地獄の朝食会

 朝日がたっぷりと差し込む、広々とした月江家のリビング。

 ダイニングテーブルには、こんがりとキツネ色に焼かれたトーストと、淹れたての紅茶が並べられている。雫ちゃんが用意してくれた朝ごはんだ。

 私の分も用意してくれているあたり、根はすごくいい子でしっかり者なのだろう。


「…………」


 しかし、そんなのどかな朝の景色とは裏腹に、空気はお通夜のように重かった。

 私の正面には、ジャムを塗ったトーストを小さくかじりながら、冷ややかな目を向けてくる雫ちゃん。私の横には、眼鏡をかけた優等生モードの梓さん。

 ……ただ、梓さんの目はすっごく泳いでいる。


「……あのね、雫。さっきのはね。えっとね。あのね……あの、話聞いてくれる?」


 沈黙に耐えきれなくなったのか、梓さんがしどろもどろになりながら口を開いた。


「さっきのは、えっと、来栖さんは私の着替えを手伝っててくれてたの! そう、だからあんな変な恰好でね……。ね、来栖さん。そうですよね!」

「うんそうだね。だからなんでもないよ雫ちゃん」


 私も一応、梓さんに乗っかる。

 けど、昨日そういうことをしているのはバレている時点で、恐らく言い訳も無意味だ。

 私はなんとなくソレを言い出せないまま、目の前のトーストに手を伸ばす。

 すると、梓さんがずいっと顔を寄せ、耳打ちをしてきた。


「も、もっと自然な演技をしてください……! 棒読みすぎます……! バレたら私の姉としての立場が危うくなるので、ここはどうかお願いします!」

「……分かった。まかせて」


 私は小さく頷き、雫ちゃんへ向き直った。

 彼女はいちごジャムの乗ったトーストを、小動物のように小さく咀嚼している。

 私は咳払いを一つして、梓さんに言われた通りに自然な演技を目指した。


「いやーまさかあの梓さんがこんなに朝に弱いだなんてね。自分で着替えができないくらい甘えん坊だとは思ってなかったな~。それでも私がいたから上手にお着替えできたね、偉いよ梓さうっ──!」


 どすっ。

 横から梓さんの肘打ちが飛んで来た。なんで!?


「今のはなんかダメです……!」


 そうか。今のダメなのか。

 さてどうしようか、と自然な演技の方法を模索していると──。


「……はぁ」


 深い溜息が思考を遮った。

 見れば、雫ちゃんはトーストを皿に置き、呆れたような視線を向けている。


「さっきからなんですかこの茶番。昨日の夜、二人が破廉恥なことをしてたのは知ってます。まさか朝もしてるとは思わなっただけで」

「昨日の夜……!?」


 やはり時間の問題だった。

 まさか昨夜の秘密を知られているとは思っていなかった梓さんが、あわあわし始める。


「でも、お姉様が被害者なのは分かっているので、落ち着いてください」

「えっ? え、わ、私は──」

「何も言わなくても大丈夫です。全てそこにいる来栖さんが元凶だと、彼女の口から直接聞いてますから」

「そ、そうなんですか!?」


 梓さんが驚いたように私を見る。

 私は静かに目を伏せ、全てを背負った十字軍の騎士のような面持ちで頷いた。


「……そういうことになってます」


 お姉様の名誉を守るために、私が変態の泥を被ったのだ。

 どうか私の屍を超えていって欲しい。覚悟はできてる。


「さっきまでの時間は一体……」


 困惑したようにぼやく梓さん。それは本当にごめんなさい。


「……お姉様。悪いことは言わないので、彼女と関わるのはやめた方がいいと思います」


 雫ちゃんは冷たい目で私を睨みつけると、梓さんに向かって真剣なトーンで告げた。


「私を一人にしないって、約束してくれたじゃないですか」

「そうだけど……でも……」


 姉を真っすぐに見つめる瞳には、微かな不安が揺れていた。

 梓さんは、そんな雫ちゃんの言葉に少しだけ困ったように苦笑いを返す。

 雫ちゃんにとっては、すごい大切なお姉ちゃんなんだろう。

 たしかに私今……泥棒猫のポジションなのか。


「あと、彼女はお姉様に不釣り合いな、ただの変態です」


 雫ちゃんはきっぱりと言い放つ。


「だって彼女、昨夜、私とも身体を重ね合ってますから」

「え!?」


 梓さんの素っ頓狂な声がリビングに響く。

 まって。雫ちゃん今、なんて言った……?

 私が耳を疑う暇も無く、雫ちゃんは淡々と続けた。


「しかも全裸で」

「しかも全裸で!?」


 バッ! と、すさまじい勢いで梓さんがこちらを振り向いた。

 眼鏡の奥の瞳が、これまでにないほどに見開かれている。

 やっぱり雫ちゃん、昨日の風呂場でのことチクってる……!


「ち、違う! あれは不可抗力だったから!」

「つまり身体を重ね合わせたのは本当なんですか?!」

「いやそれは身体を重ね合わせた(物理)と言いますか! 私がニュートンなら、雫ちゃんはリンゴだったというか!」(間違った例え)


 私が必死で弁解しようとするのに被せるように、雫ちゃんがしれっと補足を入れる。


「私のこと、大切に抱き締めたりしてきました」

「抱き締めてしかいないよ!?」

「抱き締めたんですか!?」

「不可抗力!」


 やばい。なんて言えばいいんだこれ。

 いやまぁ普通に『お風呂場で滑って転んだ妹を下敷きになって受け止めました』でいいのか。パニックになって弁解を近道しようとしすぎた。

 今のところ『姉の目を盗んで全裸の妹を抱き締めたクズ』になっている。


「えっとね、お風呂場で全裸の雫ちゃんとお話をしていたら、倒れかかってきて、私はそれを受け止めたの! だから抱き締める感じになったの!」

「雫の方から来栖さんに……!?」

「うーん違う!」

「じゃあやはり来栖さんが……!?」


 梓さんもパニックだった!

 キャッチボールをするはずが、お互い変化球を投げて成立していない!(間違った例え2)


「えっとつまり、つまりね……!」


 弁明しようとすればするほど、事態が泥沼化していく。

 そんな私を尻目に、雫ちゃんは自分の皿を片付け、そそくさリビングを出ていった。

 そして去り際、私の方だけをチラリと振り返り、してやったりな顔をしてくる。

 ……わざと言い回しをややこしくてしたなあの子。


 ──バタン。


 部屋に残されたのは、頭を抱える私と、パニックに陥ってフリーズする梓さん。

 静まり返ったダイニングに、カチコチと時計の病身の音だけがやけに大きく響く。


「あ、梓さん……? 今のは本当に誤解だからね。お風呂場で転んだ雫ちゃんを、咄嗟に助けただけで……」


 恐る恐ると声をかけると、俯いた梓さんの肩がぴくりと揺れた。


「……全裸で」

「そりゃお風呂だから服は着てなかったけど!」

「抱き締めた……」

「だから受け止めただけだってば!」


 梓さんはぶつぶつと反芻するように呟く。

 その瞳は、嫉妬と混乱が混ざって、ぐるぐるとハイライトを失っていた。


「来栖さん」

「は、はい」


 地を這うような低い声に、私は思わず背筋を伸ばした。


「たしかに妹の雫は、誰もが認めるほどすっごく可愛いです。ですが……」


 梓さんはぎゅっと私のパジャマのズボンを握りしめ、潤んだ瞳で見上げてきた。


「私と最後まで出来なかったこと、そんなに恨んでますか……?」

「一つも伝わってない! とりあえず一旦落ち着こう、ほんとに何も無かったから!」


 混乱した梓さんの誤解を解くには、まだまだ時間がかかりそうだった。

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