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クラスメイトの箱入りお嬢様が、私の百合ラノベのネタになるまで!  作者: 沢谷 暖日
第3章 月江雫という女の子

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第43話 お風呂場の激闘

 まずい。さっきまでの制服姿、うやむやに流れると思ってたのに……。

 このままだと雫ちゃんに、私が『制服でお姉様とえっちなことをした女』であるというレッテルを貼られかねない。(合ってる)

 シャワーで髪を流しながら、私は言い訳を並べる。


「制服でお勉強した方が、勉強に集中できる的な──そう! 勉強会してたの!」

「制服でえっちなことしてたんですよね。だって声が、そういう声でした」

「ほ、ほら! 難しい問題を解けたのが嬉しくて、つい変な声がでたの!」

「お姉様が問題が解けただけで『好き好き』って言うのなら、そうなのでしょうね。……というよりさっきあなた、そういうことをしてたのは否定しませんでしたよね?」

「うっ……」


 レスバ力を鍛えておけばよかったと、これほど思わされる日は無い。

 くそ、ツイッターは得意だと思っていたのに……!

 私が唇を嚙んでいると、呆れたような声で追撃が飛んでくる。


「わざわざえっちなことをするために制服を着るなんて。あなたって、どうしようもない変態なんですね。はやく帰ってください」

「ま、まってよ! 制服は私の提案じゃないんだけど!」


 咄嗟に否定してしまい『しまった』と口を閉じる。

 いや、制服の提案をしたのは梓さんで間違いないんだけど、ここは月江家だ。

 雫ちゃんが抱く『お姉様像』は、きっと清楚可憐で完璧なものだと思う。その美しいイメージを私の口から壊してしまうのはいくらなんでも梓さんの名誉に関わる。

 と、内省していたのだけど──。


「うわ、お姉様に罪をなすりつけるんだ。最悪、最低。お姉様が自分からそんな破廉恥な提案をするわけないでしょう? 制服でえっちな提案をする人間なんて、普段からピンク脳内の激エロ破廉恥小学生男児しかありえません。あなたのことです。来栖さん」


 私、男の子だったらしい。

 そしてその理屈だと、お姉様がピンク脳内の激エロ破廉恥小学生男児になってしまう。


「えっと……」


 とりあえず梓さんに標的が移らなくて安心する。

 ……よし。一番丸いのは、私がここで悪者になることだろう。

 だってもう、えっちなことをしていたのは否定できそうにないもんね……。


「……そう、だね」


 私はシャワーヘッドを壁にかけ、シャンプーを2プッシュ手に取った。

 髪を泡立てて鏡越しの視線を誤魔化しながら、覚悟を決めて口を開く。


「やっぱり、さっきの訂正。制服着ようって提案したの、私なの。私がそういうシチュエーション好きで、無理を言って着てもらったんだ」


 私の自己犠牲の嘘に、雫ちゃんは鏡越しに私を見た。

 汚物を見る目から進化。ゴミを見る目になっている。


「う、うわぁ……お姉様に、そんな提案をしたんですね……ひっどい……変態……」

「……ゴメンナサイ」


 ここまで来たならずっと悪者でいよう。

 頭に泡立てしながら、私は甘んじて罵倒を受け入れる。


「本当に信じられないです。私のお姉様に無理やり制服を着せて、恥ずかしいポーズをとらせたりしただなんて……はぁ、かわいそう」


 してないが?

 とは思うが我慢して口を噤む。


「ベッドに押し倒して、全身を舐めるように見回して、羞恥で顔を隠そうとするお姉様の身体を縛ったりして……」


 してないが?

 私は心を無にして、泡立てした頭を洗い流す。


「そのまま一時間以上の濃密なキスを──」

「してないが!?」


 濡れ衣すぎるので、私は思わず叫んだ!

 ゴミを見る目から、粗大ゴミを見る目に最終進化していたので!


「してないんですか?」

「ほんとにしてない! ついでに縛ってもないし、ポーズもとらせてません!」


 私はシャワーを止めて振り返り、結構しっかりめに否定する。

 これは私に関わることだから、さすがに否定していいはず……!

 その圧に押されたか「そうですか」と納得したように頷く雫ちゃん。

 すると何かを思いついたように「じゃあ」と声のトーンがすっと落ちる。


「……具体的に、どんなことしたんですか?」


 その顔は、少し恥ずかしいように赤く染まっていた。


「……興味、あるの?」

「ち、違います!」

「思春期だもんね」

「……だから違いますけど!」


 ぷいっとそっぽを向く雫ちゃん。

 意外と可愛いところがあるじゃないか。

 とはいえ、具体的にと言われても困ってしまう。

 まさか『馬乗りになられてブラウスのボタンを外され、肩の辺りにキスマークを付けられて、耳をねっとりと舐められた』とはいえない。冷静にすごいことされてる。


「えっと、それは……うーん……」


 私は前の鏡に向き直る。

 鏡はすっかり曇って、雫ちゃんの姿を映さない。

 とはいえ答えに迷った私は、ボディソープを手に取って目線を泳がせる、と。


「……ちょっと待ってください。その、肩の赤いのはなんです? ケガですか?」


 不意に、雫ちゃんの視線を私の鎖骨のあたりで感じた。

 多分キスマークのことだけど……よし、ここは──。


「ケガだよ」

「絶対キスマークですね」

「知ってるなら聞く必要なかったよね!?」

「あ、あなた……! お姉様に無理やりそんなこと……!」

「む、無理やりではなかったかな? 一応合意の上で……」


 やっぱり私の身も少しだけ守ることにした。

 悪者になるのはいいが、このままだと通報されかねない。


「合意の上? それも嘘に決まってます! お姉様が、自分からそんな獣みたいなことするわけありません! そもそもそんな知識すらもありません!」


 ガタっと後方でバスチェアから立ち上がる音が聞こえた。

 再び振り返ると、雫ちゃんは肩を震わせ、ギラギラとした目を向けてきていた。


「えと……どうしたの?」

「お姉様がそんなことしたの、すごく嫌なんですけど!」

「だ、大丈夫。制服で隠れるとこに付けてくれたから」

「そういう問題じゃないです!」


 私の指摘は間違っていたらしく、ぶんぶん首を振って否定された。

 そして「あなたという人は!」と私に詰め寄ろうと、濡れた床を強く踏み込んでくる。


 ──その瞬間。


 とぅるん。


 間抜けな疑問が響いた。

 恐らく、私のボディソープが飛んでいたのだろう。

 その泡に、雫ちゃんの足が見事に乗っかってしまったのだ。


「きゃあっ!?」


 足元をすくわれ、宙に浮く小さな身体。

 私は咄嗟に正面から受け止める態勢をとった──が。

 いくら小柄な彼女とはいえ、私の力では支えきれない……!


「ぐえっ」


 まるでカエルが首でも絞められたような声が出た。見事に押しつぶされた私は、勢いを殺しきれないまま、もつれあうように床へと身を投げ出されてしまう。

 びたん。と冷たい風呂場の床に、私の背中が激しく打ち付けられた。


「いっ……たぁ……」


 肺から空気が抜け、背中にじんわりと鈍い痛みが走る。


「す、すみません……。私、ちょっと熱くなって」

「き、気にしないで。ごめんね、私のせいで床滑りやすくなってて……」


 私がクッションになったおかげで、雫ちゃんの身体は無事だ。

 私も多分、これくらいなら大した痛みは続かないだろう。


「……すみません。あの……もう、大丈夫ですから」


 耳元で、雫ちゃんの少し震えた声がした。

 無事とは言ったが、しかしその代償のように。仰向けに倒れ込んだ私の胸元には、雫ちゃんの華奢な全裸がぴったりと密着していた。


 受け止めたはずみで、私の両腕は彼女の細い背中を抱き締めている。

 肩口で綺麗に切り揃えられた黒髪が、私の首筋や鎖骨に張り付いていた。

 梓さんより少し小柄で、まだ未完成な柔らかさをもつ身体。水気を帯びたきめ細かい素肌が、私の肌と隙間なく重なって、高い体温が生々しいほどダイレクトに伝わってくる。


「────」


 雫ちゃんも滑った衝撃が先に来て、すぐに今の状態を意識しなかったのだろう。

 若干の沈黙の後。私の胸元に押し当てられた彼女の胸の奥から、ドクドクと、とてつもないスピードで脈打つ心臓の音が響き始めた。


「は、離してください! ば、ばか! なんで腕を回す必要があるんですか!」


 火が出るほどの熱を持った雫ちゃんが、私の身体をぺしぺし叩いて抗議してくる。


「ごめん! これは床に頭を打たないようにって、咄嗟にしたことで……」

「その件はありがとうございました! けど、もう大丈夫です! 今から私をお姉様みたいに汚す気ですか! 私にまで手を出すなんて!」

「ち、違うって! そんな破廉恥小学生男児みたいなことしないから!」

「小学生男児はそんなことしません!」

「うんそうだね!」


 雫ちゃんは涙目でジタバタと暴れ、茹でダコのように真っ赤になって跳ね起きた。

 そして一言。


「早く洗い流して出て行ってください!」

「は、はい……!」

「さっきはご迷惑おかけしました! やっぱりあなたはとんでもない変態ですね!」


 ……私、悪くないと思う。

 今日はもう、寝よう。

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