第42話 雫ちゃんの言及
煌々と明かりの灯る廊下。
雫ちゃんは、淡い桜色のもこもことしたパジャマ姿で、ぺたんと座り込んだまま上目遣いに私を見上げていた。彼女の白い肌は、耳の先から首筋にかけてほんのりと赤い。
姉の梓さんによく似た、誰もが振り返るような整った顔立ち。
そんな少女と、互いに時が止まったように見つめ合っていた。
「…………」
この状況、客観的に見れば多分、どちらも不利な立場。
扉に張り付いて盗み聞きしていた妹と、友達の部屋でえっちなことをしていた女。
とはいえ、私から気の利いた言い訳ができる気など全くしない。
ならばここは、先手必勝で──!
「もしかして、聞き耳立ててたよね?」
「……もしかしなくとも、えっちなことしてましたよね」
やばい。不利度のレベル差がありすぎる。
氷のように冷ややかな声に、私は言い合いで勝てないと察す。
頑張って誤魔化そうと脳を回転させるが、次の一手で完全に詰まされた。
「お姉様の声が漏れてました。あんな……破廉恥な声……っ」
雫ちゃんはパジャマの胸元をぎゅっと掴み、顔を真っ赤にして私を睨みつける。
「……死ね」
「え、死ね?」
真っすぐに罵倒されてしまった。
お上品な雰囲気から放たれるシンプルな罵倒に思わず気圧される。
次いで雫ちゃんは軽蔑の眼差しを向けて追撃してきた。
「……好きだからって、こんな破廉恥なこと! あり得ないです!」
「いや、私たちは友達で……」
「え? 好きでもない相手と、ああいうことするんですか……」
「いや、そういうことではなくて……」
「え? 好きかも分からないのに、ああいうことするんですか……」
「その、なんだろう。これちょっと難しくて」
「え……え……? えぇ……?」
ドン引きである。
完全に汚物を見る目だった。
小説の取材とも言えないし……ほんとに説明が難しいのだ。
しかし、これ以上の言及はどうあがいても避けたい。
ボロが出る前に、ここはひとまず撤退しよう。
「ごめん、ちょっとシャワーだけ借りるね……!」
と。私は雫ちゃんの冷酷な視線から逃げるように、脱衣所へと駆け込んだ。
◆◆◆
──のだけど。
「どうしてここまで付いてきてるのでしょうか……」
正面にある曇った鏡には、私の後方にバスチェアを置いて座る雫ちゃんの姿。
当然、二人とも生まれたままの姿である。同じ空間で全裸で並んでいるなんて、普通なら羞恥心で死にそうになるシチュだが、梓さんとのあれこれで完全にマヒしている。
年下なのもあるだろうけど、意外と何も感じないものだった。
「まだ大事なこと何も聞き出してないからです! 正直に話してくれるまで、今夜は絶対に寝かせませんからね!」
シャワーの音を掻き消すような、トゲのある雫ちゃんの声が響く。
そして「そもそも!」と、私の耳元で二の句を継いだ。
「お風呂上がりに、なぜ制服を着ていたのでしょうか?」
……見逃されてなかった。




