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クラスメイトの箱入りお嬢様が、私の百合ラノベのネタになるまで!  作者: 沢谷 暖日
第3章 月江雫という女の子

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第41話 正しい百合えっちの作り方!(2)

 まじまじと、梓さんはスカートの中のパンツを凝視してくる。


「あの……そんなに見られると恥ずかしいんだけど。なにするの?」


 えっちなのは禁止と言ったので、流石にやばいことはされない──。


「触りたいです」


 されそうだった。

 私は慌てて首を横に振る。


「ダメだよ。ダメだよ」


 やっぱり梓さん、ちょっと変態の気がある。

 ここで流されたら、いよいよ私の身体と、明日の朝の梓さんの尊厳が危うい。

 私が必死にスカートの裾を両手で抑え込むと、梓さんは名残惜しそうに小さく息を吐いた。そしてスッと手を離すと、私の顔を見上げて「それじゃあ」と続けた。

 暗闇に溶けるような、甘えるような囁き声で。


「私が来栖さんにしたこと……私にも、してください」


 私にしたこと……それって。


「キスマーク、付けて欲しいの?」


 間違っていたらまずいので確認のように問うと、梓さんは小さく頷いた。


「はい……してください」


 理性の糸をなんども張り直しているのに、じりじりと解けていく。

 切れるでもなく、ふとほつれるように、私の頭の中が一瞬真っ白になった。

 その一瞬の白に、どろどろとした黒に近いピンク色が塗りつぶす。

 やばい。そう思っているのに、止まれない感覚だった。


「……じゃあ私のことも名前で呼んでくれる? 私も、梓って呼ぶから」


 私は熱に浮かされたようにそう告げ、梓さんの華奢な身体を抱き締めて、そのままぐるりと回って場所を入れ替わった。ベッドのマットレスが軋み、今度は私が馬乗りになる。

 上から見下ろす梓さんは、いつも学校で見ている優等生とはまるで別人だった。

 シーツの上に無造作に散らばった黒髪。

 潤んだ瞳で私を見上げるその姿は、思った以上に小さくて、華奢で、遠くに感じた。

 普段は隙の無い制服の着こなしなのに、今は第一ボタンが外れている。

 私は震える指先で、彼女の第二ボタンまでを外す。

 雪のように白い肩があらわにされて、私はごくりと喉を鳴らした。


「じゃあ、するよ」


 私は梓さんのその右肩の辺りに、自分の唇を押し当てた。

 やり方が分からないなりに、軽く歯を立てて吸ってみる。

 変な感覚だった。自分の口内に、梓さんの甘い匂いが満ちる。


「ぁっ……わか、な……っ」


 梓さんの口端から、甘ったるい声が漏れた。

 聞いたこともないような、高く切ない声音。

 いつも凛とした彼女が、こんな風にとろけた声を出すなんて。


「やば……ちょっと梓、えろい」


 私の体温が上がっていくのを感じる。下腹部が熱い。

 口を離すと、その白い肌には、暗闇でもはっきりと分かるほどの赤い痕が咲いていた。

 私の中の変なスイッチが、さらに押し込まれる。

 次は耳だ。と梓さんの顔の横に手をついて、その小さな耳たぶを舐め上げた。


「あっ──ひゃぁ……若菜、まって……」


 びくん、と。梓さんの身体が、大きく脈打った。


「わ、わかなっ……もっと……他のとこも触って」


 言われるがまま私は肩を抱き寄せる。

 耳をぱくりと口の中に収めると、梓さんの身が逃げるようによじった。

 顔を上げて、口元を雑に拭う。下には、ねだるような目で私を見上げる梓さん。


「……クラスの優等生が、こんな変態だなんて」


 思わず、そんな小説みたいなセリフが口を衝く。

 私は第三ボタンに手をかけ、両肩を露出させた。

 先とは逆の左肩に、私はまた唇を近付ける。


「だって……若菜が、きもちよくしてくれる、からっ……」

「ふーん。梓って、えっちなこと好きなんだ?」

「すき……。もっと、もっとしてぇ……っ」

「やっぱここまでにしておかない!?」


 あっぶない!

 私は解けた理性の糸を、無理やりにでも結び直した!


「……わかな?」


 梓さんが、不思議そうな声を上げる。

 だが私はもう、これ以上のことをできそうになかった。

 だって私が小説に書くのは、健全な百合恋愛モノだぞ!

 これ以上の描写を取材すると、これからの執筆で規制されるシーンを書きかねない。

 私はちゃんと踏みとどまれる女だ! 読者がここで萎えてしまっても構わない!

 シリアスパートに行き切る前に、ギャグパートに戻すことによってR指定されるのを回避する作家のライフハック! もちろん今作った!

 ていうかそもそも──!


「ほんと、私のためにここまでしなくてもいいよ! ほんとに!」


 正直、続きはどうなるのかすごい気になっている。

 気になってはいるが、梓さんは別に私のことが好きというわけではない。

 佐倉わかという作家への好意を利用して、こんなことをさせるのはマズい。

 こういうのって今はよくても、後々に響いたりしてしまうので! きっと!

 私が馬乗りの態勢を解いて離れようとすると、同時にむくりと梓さんが上体を起こす。

 そして呆れたようなジト目で、私の目を刺すと──。


「……へたれるんだ」


 と、ポツリ。


「…………」


 ドクン、と。

 心臓が握られた気がした。

 薄暗闇の中、濡れた瞳で私を挑発するように見上げてくる。

 なんか……舐められてる。


「……じゃあ、するけど」


 私は次の瞬間には、衝動に任せて再び彼女をベッドに押し倒していた。

 梓さんは小悪魔のように意地悪に笑った。まるでこれが狙いだったかのように。


「先生の取材のためなら……私、最後までしたい」

「……最後と言われても。どこがゴールなの?」

「分かんない。でも、若菜に色んなとこ触って欲しい」


 やばい……可愛すぎる。

 こんな風に求められて、私の心臓は壊れそうだった。

 好きって言いたい。好きって言ってしまいそうになる。

 エッチな流れに身を任せて吐き出しただけの愛の言葉に、果たして価値はあるのかも分からない。でも価値がないなら、別にいいのかもしれない。

 これはあくまでも取材だ。全部、創作のためのウソ。

 だから──。


「好き」


 と、言った。


「……うん」


 小さい頷きが返ってくる。


「好きだよ、梓」

「わたしも」


 カウンターがきた。

 なんか私ばっかりマジになってるみたいだ。

 ただの陰キャの私なんて、普通に生きてたら梓さんと釣り合う訳ないのに。

 思いながらも、目の前の現実だけに焦点を当てて、私は彼女の腰に手を添えた。

 そして伝うように太ももに手を運んで、少しまさぐる。


「……ぁんっ」


 同時に耳も舐める。


「好き。若菜。好き好き、好き……っ」


 私が少し肌を撫でるだけで、梓さんが壊れたように好きを連呼する。

 大変えっちで、このままだとまた理性がどこかに飛んでいきそうだった。

 もうとっくに、理性なんて無いのかもしれないけど。


「……私の、どこが好き? 言ってみて」


 私は意識を保つために問いかけを投げる。


「んっ、優しいとこ、好き」

「もっと」

「可愛い。すごい可愛い」

「それだけ?」

「声もっ……好き……」

「他には?」

「落ち着いたとこも好き。全部すき……」


 ……さっきから誰の特徴を言っているのだろう。

 そうは思うが、ムードはよさそうなので野暮なことは言わない。

 さて、いよいよここからが本番、というところで。

 ふと、私の下で荒い息を吐いていた梓さんの動きが、ぴたと静止した。


「……梓?」


 返事はない。

 そう思った数秒後。


「すぅ……」


 寝息を立てだした。


「え。まって。寝た? 梓さーん、おーい」


 返事は無い。

 寝てる。本当に寝ている。

 いや確かに前の電話の時も限界を迎えた途端に寝落ちしていたけど、まさかこんなタイミングで電池が切れるなんて……。


「すぅすぅ」


 え、終わりたくないんだけど。

 ちょっとくらい起こしてもいいかな?

 と。未練がましくほっぺたを指でつついてみる。

 だが、ピクリとも反応しない。完全に夢の中だった。


「…………」


 いやまぁ、これでよかったのかもしれない。

 これ以上してたら、多分私も朝に後悔していただろう。

 ちょっと拍子抜けだけど、えっちな取材はこんなオチで終わりを迎えた。


 荒くなっている呼吸を整える。

 極度の緊張も相まって、かなり汗を掻いてしまっていた。

 お風呂に入り直したいと思って、そういえば下着が二着分あることに気付く。

 ってなるほど。このために、梓さんは下着を余分に持たせたのかもしれない。

 伏線回収でもされた気分になりながら、私はベッドを降りる。


「おやすみ」


 安らかな寝息を立てる梓さんに、はだけた毛布を丁寧にかけた。

 部屋の隅にあるバッグを持って、お風呂場へ向かおうと部屋のドアを開く──と。


「「あ」」


 二つの声が重なった。

 その声の持ち主はもちろん一人は私で。

 もう一人は──壁に張り付くようにして聞き耳を立てていた雫ちゃんだった。


 まずい……部屋でのこと、全部聞かれていたかもしれない。

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