第40話 正しい百合えっちの作り方!(1)
今更だけど、寝ぼけた梓さんはなんだかすごくあまーい感じになってたなと、電話した時のことを思いだした。だから梓さんはきっと今、すっごく寝ぼけてしまっているのだ。と、制服姿の彼女に馬乗りされながら思う。
毛布はすでに剝がされて、私の全身がさらけだされていた。
そう書くと全裸っぽいので訂正しておくと、私はまだ制服姿を保っている。
ってかなんだこの状況。なんだこの状況!
「……来栖さん」
梓さんが、とろんとした声で私の名前を呼ぶ。
馬乗りにされてるはずなのに、体重はあまり感じない。
気遣って浮かせているのかと思ったけど、密着した太ももからは熱い体温を感じた。
「……えっと、なに。するの?」
私は顔を直視できずに、顔を逸らして問うた。
呼吸が浅く、荒くなっていることに気が付く。
逃げ出したい気持ちでいっぱいなのに、身体は固定されて動けない。
やばい。めちゃくちゃドキドキしてきた。私、これからどうなるんだろう。
「なにがいいですか?」
「いや……じゃあ、決めてよ。そっちが」
半ば投げやりに答える。
すると梓さんは「んー」と少し考えるように唸った。
その拍子にまた、黒髪がさらりと私の頬に零れてくすぐったい。
……そもそも梓さんは、私とえっちなことを取材するために、わざわざ制服を持ってこさせたんだよね。それってめちゃくちゃ変態じゃん。
と思うのと同時、真面目ゆえの親切心が空回りしている可能性もある。
あくまでこれは、私の小説執筆のためを思ってしていることだと思うし……。
「それじゃあ」
現実逃避のように思考を巡らせていると。
やがて梓さんは、自らの唇を押さえて一言。
「キス、します?」
「しないよ!?」
私は即答した。
そりゃしないよ! ってかできないよ!
だって恋人同士じゃないもん!
「私とは、嫌ですか? 嫌だったら、教えてください。嫌なことはしたくないです」
「嫌ではない……けど。梓さん、キスしたことあるの?」
「ありません」
「なら、やめといた方が。……だってキスは多分、大切なことだもん」
私みたいな女のために、彼女のファーストキスを与えさせるわけにはいかない。
でも。ここで『キスする』と言ってしまったら、本当にキスをしかねない流れだ。
きっと梓さんは目が覚めたら後悔する。
彼女を後悔させないために、私は選択を間違えてはいけない!(手遅れ感が若干あるけど)
しかし……くそぅ。周りにたくさん落とし穴がある。
少し足を踏み違えれば、はまりかねない。
誰だよ、こんなところに落とし穴を掘ったのは!
「でも来栖さん、私とデートよりもすごいことしたいって言いました」
私じゃん! 過去の私、反省しろ!
「そ、そうだけどさ……。私たち付き合ってないじゃん。キスとかダメだよ」
馬乗りもダメだけど!
「……そう、でしたね」
梓さんは残念そうに目を伏せる。
かと思えば「それなら」と、彼女の手が私の胸元に伸びた。
「嫌だったら、やめますから」
ぽつりと、甘い声が鼓膜を震わせる。
直視できなかった視線を、私は思わず彼女の方へと向けた。
すぐ目の前には、熱っぽい瞳で私を見下ろす梓さんの顔。
そんな彼女の華奢な手は、ブラウスの第一ボタンに添えられていた。
「え、ねぇ、なにして──」
私が戸惑いの声を上げるのと同時。
カチ、と小さな音を立ててボタンが外される。
そのまま白い指先で、制服の襟元をぐいっと乱暴に引っ張った。
視界の端で、私の無防備な肩と鎖骨があらわにされる。
ひんやりとした部屋の空気が露出した肌に触れた。
私が今、とんでもない姿なのを自覚させられる。
せめて。部屋の明かりだけでも消して欲しかった。
「いいですか?」
問いかける声。
その意味が分からず私は返答に遅れる。
沈黙を肯定とみなしたのか、梓さんの顔がゆっくりと近付いた。
キス……かと思ったけど、私の顔からわずかに逸れて──。
「ちょっと梓さ──!?」
かぷり。
「あっ、ね、ねぇっ、梓! なにして、んの……」
熱い吐息と共に、私の鎖骨に柔らかい唇が押し当てられた。
ぴりっとした痛み。薄い皮膚を隔てた骨に、梓さんの歯が触れているのが分かる。
そして、そのまま痕を刻みつけるように強く、吸われた。
「い、やっ。な、なんで。どこで覚えたの、そんなの──っ」
梓さんは何も言わない
思わず身をよじると、背中に強く腕を回された。
まるで逃げられなくするように、私の身体をホールドしてくる。
「…………っ」
ちっ、とリップ音が響き、ぷはっと息継ぎをするように、梓さんの口元が一度離れた。
助かったと思ったのも束の間。そのまま梓さんの顔が私の耳元へとスライドし、今度は私の耳たぶをぱくりと、小さな口で包み込んでくる。
「ま、まって! ねぇまって!」
ちゅる、と生々しい水音が鼓膜を直接揺らす。
唾液の匂いが鼻に流れて、意識が四方に奪われた。
「まって、まってまってまってやばいって! いやっ、ね、ねぇ!」
やばい。なんだこれ。
頭の奥がしびれて、変な気持ちになってくる。
私って耳弱いんだ、と思った。女の子はみんな弱いのかもしれない。
足の先から力が抜けて、腰からどろどろに砕けそうになってしまう。
これがきもちい感覚なのかと聞かれたら、私にはまだ分からない。
でも続けられと、ほんとに限界そうで──。
「ねぇ梓! やだ! まって、これ以上ほんと、なんかやばそうだから……!」
私が涙目で抗議すると、梓さんはようやく私から離れた。
馬乗りになったまま、はぁはぁと少し荒い息遣いをこぼす。
それでも上品な所作で、自分の濡れた口元を手の甲で拭った。
「……キスがダメなら、キスマークです。どうでしたか?」
「ば、ばかぁ……っ! てか、それもっとダメじゃない!? 耳も舐めてきたじゃん!」
どこで覚えたんだそんなの!
私も漫画とかの知識でしかよく分かんないのに!
「そうなんですか? ごめんなさい、私こういうの詳しくなくて」
「詳しくなかったら、そもそもキスマとか付けないが?!」
「ネットで調べて、実践してみました」
梓さんにネットを与えてはいけないと思った。
って今はそれよりも──!
「私、官能小説を書くわけじゃないからね! えっちなことは確かに小説を書くのにいい経験になるかもしれないけど、これ以上のえっちなことは取材しても書けないので禁止!」
私は正直、完全にひよっていた。
これ以上の未知の領域に興味がないわけではないけれど、やっぱりこういうのはもっと段階を踏まないといけないので! 私は淑女なので! こういうことはしない!
「……今日はここまでにしよ? ね?」
まるで不機嫌な猫を宥めるように声をかけ、私が梓さんから逃げようとすると。
梓さんは吐息をこぼし、ふらりとベッドから降りてくれた。
てててっ、とおぼつかない足取りで部屋のドア付近へ向かうと──。
──パチン。
部屋のメイン照明が消され、室内が一気に真っ暗になった。
……よかった。諦めて寝るつもりになってくれたらしい。
そう胸を撫で下ろして、乱れた制服を整えて毛布を被ろうとする──が。
足音もなく戻ってきた梓さんの手が、暗闇に乗じて伸びてくる。
伸びた先にあるのは、はだけた毛布の下で無防備になっている──私のスカート。
ぺろんっ。と。それを、なんの躊躇いも無く捲りあげてくる。
「な、なにしてんの!? そこパンツしかないよ!?」
「パンツがあります」
「つまりどういうことだよ!」
さっき、えっちなのは禁止って言ったよね……!?




