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クラスメイトの箱入りお嬢様が、私の百合ラノベのネタになるまで!  作者: 沢谷 暖日
第3章 月江雫という女の子

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第33話 キスをする夢

 私の部屋の中には、放課後らしい斜陽が差し込んでいた。

 目の前にいるのは月江さん。いつも通りの制服姿のはずなのに、どこか雰囲気が違って見えた。少しだけ熱を帯びたような、艶やかな瞳が私をじっと見つめている。


「……若菜」


 月江さんは、ひどく甘い声で続けた。


「キスって、したことある?」


 唐突な問いかけ。

 当然、キスなんてしたことない。


「ない、よ」


 私が首を横に振ると、月江さんは小悪魔っぽい意地悪な笑みを浮かべる。


「きっと、若菜のいい小説のネタになるよ」


 言い訳のように呟く月江さんは、その白い手を私の頬に伸ばした。

 長いまつ毛に縁取られた美しい瞳が、すぐ眼前に近付いてくる。

 ほのかに甘いシャンプーのような匂いも連れてきて──。


「…………」


 月江さんの柔らかい唇が、私の唇に重なった。

 そのまま何度も、場所を確かめるように唇で突いてくる。

 口端から漏れる吐息がやけに熱っぽく、私の体温が上がった。

 制服のリボンはいつの間にかするすると解かれて──。


「若菜、デートよりすごいことしたいって、言ったから」


 頬に当てた手を、そのままなぞるように首筋へ、そして──。


 ◆◆◆


「つ、月江さんそこは──っ!?」


 ガバッ。と勢いよく上体を起こす。


「え……あれ……?」


 目の前に月江さんはいない。

 それどころか、ここは部屋のベッドの上だ。

 窓の外からは斜陽とは程遠い、朝の陽ざしが降り注いでいる。


「ゆ、ゆめ……?」


 私、月江さんとキスをする夢を見た……?

 いや目が覚めなければキス以上のことをしていたかもしれない。

 ていうか熱い。全身が火照って、パジャマの下には汗をびっしょりかいている。


「…………私、え。なんでこんな夢」


 冷静になりきれない。

 だって、ただの同級生だ。どうして同級生の女の子とそんな……。

 私はほとんど無意識にスマホを掴み、ブラウザを起動して『同姓の友達 キス 夢占い』と打ち込む。検索結果のトップに出てきたサイトを開くと──。


『愛されたいという欲求の表れ。もしくは、心の中でその人物に好意を抱いている』


「え、えぇ……?」


 私、月江さんのこと好きだったんだ。

 ってそんなわけないだろ! たしかに昨日の夜はあんな甘い電話はしたけど!

 あれは不可抗力というか、ただ単に月江さんが眠くて変になってただけだから!

 やばい。思い出すと顔が熱くなってくる。私、好きって言われたんだよね。

 でも、好きと言われたからって、キスの夢を見るのは……変?

 いや……変だよね。


「あーーもうーーーー」


 両手で顔を覆い、ベッドの上で悶絶する。

 夢とはいえ申し訳ない想いが結構ある……。

 でも夢の中の月江さん、正直かなり可愛かった。

 私のこと若菜って呼んでくれたし。


 ……まぁでも、夢の中でいくらことが進もうが、現実は何も変わらないわけで。

 つまり結局のところ、ここ数日、肝心の小説の執筆は全く進んでいない。

 だけど沢山の経験もしたし、きっと今日からは筆も乗ってくるだろうな!(慢心)


 ともかく、早く学校いこう。

 その前にシャワー浴びようかな……。


 ◆◆◆


 鶴高に登校し、教室に入る。

 と、すぐに穂乃果が声をかけてきた。


「おはよ、若菜! 昨日はありがとね! めーっちゃ楽しかった!」

「おはよう。こっちこそは昨日はありがとう……いや、ほんとに」


 昨日のゲーセンでの出来事を思い出して、私はぺこぺこと頭を下げる。


「いいっていいって!」

「ほんとありがとう。……あ、そういえば、恋愛に進展はありそう?」


 私が小声で尋ねると、穂乃果は少しだけ照れたように笑った。


「んー、今はね、その子に送る文面を考えているところなんだー」

「お、そっか。がんばってね。またよければ進捗、教えてよ」

「もち! ていうか若菜くらいにしか話せないし、むしろ話かけまくるから!」


 穂乃果がにかりと人好きのする笑顔を浮かべて親指を立てる。

 と、その時。私の制服が、ちょんちょんと背後から軽く引っ張られた。

 驚いて振り返るとそこには──丸い眼鏡の、ふわふわおさげ。


「あ、月江さんおはよ」


 私の代わりに、穂乃果が軽く挨拶をする。


「おはようございます。御船さん。……来栖さん」


 透き通るような声。凛とした佇まい。

 そこには昨日の夜の甘々具合が嘘のような、いつもの完璧な月江さんの姿があった。

 なんだかあのやり取りが遠い昔のように感じるけれど、多分まだ半日も経っていない。


「お、お。おはよう。つ──あず……月江さん」


 ここで唐突に今朝の夢の内容まで思い出してしまった。

 昨日のことも変に意識してしまうしで、私はたどたどしく噛んでしまう。

 そんな私の不審な様子を、月江さんは静かな、けれど射抜くような瞳で見つめてきた。

 そして一言。


「来栖さん。……今から、校舎裏に来てください」

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