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クラスメイトの箱入りお嬢様が、私の百合ラノベのネタになるまで!  作者: 沢谷 暖日
第2章 御船穂乃果という女の子

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第27話 プリクラ

「おいしい……。雲でも食べてるみたい」


 肝心のパンケーキはすごく美味しかった。

 生地はふわふわで、湯気と共にメープルの甘い香りが弾けて。

 雪山のような生クリームをたっぷりとつけて口に運ぶと、生地がしゅわっととろけて、ものすごく幸せの味がした。


「ねーやばすぎるー! 生きててよかったー!」


 幸せそうに頬を緩める穂乃果につられて、私も自然と笑顔になる。


「こんな美味しいパンケーキ、初めて食べた。……穂乃果、ありがとう」

「大げさー。でも喜んでくれてよかった! また美味しいとこ見つけたら一緒行こ!」

「う、うん! 私でよければ……!」


 ◆◆◆


 パンケーキの暴力的なカロリーを収めた私たちは、駅前の大通りを歩いていた。


 美味しかったなぁ……。

 後でパンケーキ食べたってツイッターに上げよう。

 それにしても私、今すごく女子高生していないか……!

 カースト上位の女の子と放課後にお出かけをして、一緒にスイーツを食べる。今日は一切の罪悪感なく、リア充JK百合作家アカウントとしてツイートを更新できる!

 と、スマホをぽちぽち操作していると──。


「あ!」


 交差点に差し掛かったところで、横を歩く穂乃果が弾んだ声を上げた。

 スマホから顔を上げると、そこにはネオンが瞬く大型ゲームセンターの入り口がある。


「ゲーセン! ゲーセンだよ若菜!」

「えっ、ゲーセン……?」


 足を止める。

 ゲーセン。ゲーセンか……。

 最後に来たのは、多分小学生の頃だったかな。

 って今からゲーセンに行こうってこと!? 私と!?


「行こうよ! 記念にプリ撮ろ、プリ!」

「なんの記念!?」

「二人でお出かけ記念?」

「そっか、二人でお出かけ記念か……。いや待って、私、友達とプリクラなんて撮ったことなくて……初めてで。えっと、私なんかと撮ってもいいの?」

「えっ嘘でしょ! じゃあ尚更行くしかないじゃん!」


 立ち止まる私の腕を、有無を言わさずに引っ張ってくる。


「わ、分かったから! 分かったから引っ張らないで!」

「じゃあ私が若菜の初めての相手だね!」

「なんだその言い方……!」


 むむむと口を尖らせながらも、抵抗虚しく連行されてしまった。

 地下に続くエスカレーターに足を乗せれば、そこはもう別世界が広がっている。

 鼓膜を揺らすような激しい格闘ゲームの電子音と、クレーンゲームの陽気なBGM。そして大勢の若者たちの笑い声が、熱気と一緒に押し寄せてきた。

 目がチカチカしそうな照明の下、穂乃果はずんずんと迷いなく進んでいく。

 その後ろを、私は迷子にならないようについていった。


「よーし、どれにしようか」


 やがて辿り着いた、複数の筐体が並ぶプリクラコーナー。


「わぁ、プリクラっていっぱいあるんだね」


 透明感バツグンとか。盛れ神降臨とか。

 筐体には知らない日本語がデカデカと踊っている。

 もしかしたら日本語ではないのかもしれないが、機能の違いなんてちんぷんかんぷんで圧倒されて立ち尽くしていると、穂乃果が「これにしよ!」と足を止めた。


「ちょっとお金入れるから待っててね」

「まってまってまって!」


 穂乃果がナチュラルに財布を取り出したのを見て、私は反射的に声を上げる。


「ここは流石に私が出すよ!」

「えー? いいよいいよ、私が誘ったんだし」

「だ、だめ! さっきパンケーキ奢ってもらったばかりだから……!」


 これ以上奢られたら、流石に申し訳なさすぎる……!

 私は強引に最右から五百円玉を取り出すと、投入口に押し込んだ。

 するとカーテンの奥から「中に入ってねー!」という可愛い声の案内が響く。


「ありがと! いこっか!」

「う、うん……!」


 カーテンをくぐり撮影ブースへ入ると、パッと眩しい白いライトに包まれる。

 正面のモニターで最初の設定? みたいなのが終わると早速撮影が始まった。


『最初は定番のピース! さん、に、いち!』


「えっこんな急に始まるの!?」


 慌てて顔の横にピースを作る。

 カシャ! と完成した画像を見ると──。


「う、うわぁ……」


 ……プリクラってこんな証明写真みたいな顔にできるんだ。

 どんな顔をしてても、ある程度かわいく映るもんだと思ってた。

 ていうか穂乃果すごいな。完璧な笑顔とウィンクをキメている……!

 わ、私も穂乃果みたいにやらないと……!


『次はほっぺに指をあてて~!』


「若菜、こうだよ!」

「こ、こう……!」


 画面の横で手本を見せてくれる穂乃果に教わりながら、見よう見まねでポーズをとる。

 ひっきりしなしに飛んでくる機械の陽気な指示と、容赦なく光るフラッシュ。

 最初は恥ずかしかったけど、隣でころころと笑いながらリードしてくれる穂乃果のペースに巻き込まれて、だんだんと撮影のテンポがつかめてきた。

 ──というかあまり意識していなかったけど、これすごく貴重な経験では!

 白飛びしそうなくらいの明るい照明。カウントダウンの焦燥感。

 そして、狭い空間で友達と肩を寄せ合う、この独特のわちゃわちゃした空気感。

 これをうまく言語化できれば、私のラブコメでもプリクラシーンが書けるかも……!

 よし、忘れないように、今のこの光景をしっかりと脳裏に焼き付けておかないと!

 しかし、そんな風に取材ノートを広げているうちに撮影はあっという間に終盤戦。


『最後はくっついて、ハグのポーズ!』


 そして最後。

 画面に映った指示はハグ。

 そうか。最後はハグか。

 ハグ……ハグ……。


「ハグ……?」


 いやいや待って! それって普通、恋人同士がやるやつなんじゃ!?

 たしかに女子高生の友達同士って普通にハグするもんなんだろうけど!

 私は一応、女の子が恋愛する話を書いている人間……。私が女の子に恋をする人間ではないとはいえ、意識してしまうとなんだか特別なことに思えてならない!

 どっちの腕を回せばいい? 顔の向きは?

 ていうか触れていいの!?


「えっと、これ──うっ!」


 私が軽くパニックに陥っていると、横から強い衝撃──!


「はい、ぎゅーーーーっ!」


 穂乃果が私に勢いよく抱き着いてきた。

 密着する身体。私の腕の中に、穂乃果の体温がすっぽりと収まる。

 甘いシャンプーの香りが鼻をくすぐって、穂乃果の胸のふくらみも当たってる……!

 私と同じくらい小さい! 陽キャにも胸がない人間はいる! よかった!

 それはさておき、顔めっちゃ熱くなってるかも!

 脳内の取材ノートも一瞬で吹き飛ぶ!


 ──カシャ!


 無慈悲なフラッシュが焚かれ、私の真っ赤の顔が画面に保存されたのだった。


 ◆◆◆


 撮影が終わると、撮影ブースの横の落書きコーナーへの移動を促される。

 カーテンをくぐってタッチペンのある画面の前に立つと、そこには先ほど撮ったばかりの写真がずらりと並んでいた。

 画面の中には完璧な笑顔の穂乃果と、ハグされて真っ赤な頬に、ぐるぐるした目を晒している私がいる。うぅ……マシなのもあるけど、全体的に私の顔ひどい。


『落書きスタート!』


 機械の音声と共に、カウントダウンの数字が減り始める。


「よーし、盛るよー! 若菜はこっちのペンね!」

「えっ、わ、私も!?」


 穂乃果から片方のタッチペンを渡され、私は慌てて画面に向き合う。

 しかし、ペンの種類、スタンプ、メイク機能……選択肢が多すぎる!

 私のキャパシティを優に超える情報量だ。どれを選べばいいんだ……?


「うわっ、すごい……穂乃果、めちゃくちゃ早い……」


 私がフリーズしている間にも、穂乃果のペンは魔法のように画面を滑っていく。

 迷いのない手つきで、余白に『放課後デート』や『ずっ友!』といったポップな文字が、まるで雑誌の表紙のように配置されていく。そうか、これ放課後デートだったのか。

 ていうか陽キャのこの謎のデザインセンスは一体どこで培われるんだろう。

 私みたいな陰キャに残された最後のアイデンティティはイラストを書けることなのに、それまでも陽キャが奪っていかないで欲しい。


「ほら若菜、早く早く! 時間なくなっちゃうよ!」

「わ、分かってるけど! 何書けばいいか分かんなくて!」

「なんでもいいんだよ! こういうのはノリ! 勢い! パッション!」

「な、なるほど……それじゃあ──」


 焦燥感から私はとりあえず一番無難そうなピンク色のペンを選択した。

 そして自分でも何やってるか分かんないんだけど、頭上に『来栖』と書き込む。

 すると間髪入れずに穂乃果が吹き出した。面白かったらしい。


「あははっ! なにそれ、名字!? 普通下じゃない!?」

「うぅ……慣れてなくて何を書けばいいか……」

「じゃあ私が若菜を可愛くしてあげる!」


 穂乃果は私の『来栖』の文字の横に、ぽんぽんとスタンプを押していく。

 私の限界顔に、可愛い猫の耳とヒゲが書き足された。

 たしかにマシになった気がする。第一印象は少なくとも悪くなくなった。


『しゅーりょー!』


 あっという間に制限時間を迎えて、画面が切り替わった。

 筆が乗り始めたら、時間が一瞬で溶ける。小説を書くときと一緒だった。


「ふぅ完璧! 出来上がり楽しみだね!」

「う、うん。……なんか、すごく疲れたけど、楽しかった」


 タッチペンを置き、私たちはブースの外へ出る。

 プリントアウトされるのを浮ついた気持ちで待ちながら私は思案した。


「…………」


 今日は朝からずっと忙しない一日だった、けど。

 たくさんの思い出ができたと思う。小説のネタになりそうなこともたくさんしてもらったし、穂乃果には感謝してもしきれない。

 今すぐにでも帰って小説のネタ帳に纏めたいような、でも、ただこの余韻に浸っていたいような。そんな充実感に胸を弾ませていた──その時だった。


「あれ。来栖さんじゃん」


 背後から、声をかけられた。

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