第25話 正しい誤解の解き方!
放課後。
……一応、今日は無事に終えられた。
今は、日直の仕事で職員室に行った穂乃果の帰りを待っている。
「…………」
普通に緊張してきた。
陽キャとの放課後の寄り道。
そんなの、私にとって初めてのイベント。
緊張するけど、小説のネタにするつもりで頑張ろう……!
ツイッターにも罪悪感なしに『ギャルの友達とおでかけ~☆』って投稿できるし!
「……よし!」
私はふんすと鼻を鳴らして、カバンに荷物を詰める。
と、その時、不意に私の机へ、ふわりと一人の影が落ちた。
「……来栖さん」
「あ、月江さん!」
月江さんだ!
今日一日、全く話しかける隙が無かった彼女の登場に、声色が少し明るくなる。
やっと話せる! と私は笑顔を浮かべたが──月江さんの顔には、微塵も笑顔がない。それどころか、どこか思いつめたような表情で私を見下ろしていた。
「……LINE、見てくれました?」
「えっ、LINE……?」
予想もしていなかった言葉に、私は首を傾げながらスマホを取りだす。
全く心当たりがないままLINEのアプリを起動してみると──。
「あっ……!」
トーク画面の一番上。
月江さんからの二件のメッセージ。
しかもそれらは昨日の夜に送られてきている。
『明日、お昼を一緒に食べませんか?』
『放課後、一緒に帰りたいです』
こ、これ……!
完全に未読スルーしてしまってる……!
うわぁ! なにやってんだ、私のバカ!
今日一日、月江さんずっと不安だったに違いない……!
そっか、だから視線をずっと感じていたんだ……。
「ご、ごめんなさい!」
私は反射的に席を立ちあがり、勢いよく頭を下げた!
「私、プロットに集中したい時はスマホの通知を完全に切る癖があって……! それに普段、家族くらいからしかLINE来ないから通知オンに戻すの完全に忘れてて……!」
言い訳がましいとは思いつつも、私は最後に「本当にごめんなさい!」と付け足す。
しかし──。
「……そう、だったんですね」
私の必死の弁解を聞いても、月江さんは変わらず俯いている。
静かに落とされた視線は上がらず、その細い肩は強張っているように見えた。
月江さんは「じゃあ」と、ゆっくりと私の顔を覗き込む。
「……今日は一緒に帰れますよね?」
まるで縋るような、微かに期待を込めた上目遣い。
その健気な姿に、私の胸がチクリと痛む。だって今日は、先客がいるから。
「ごめん。さっき穂乃果と一緒に帰る約束、してしまって……」
言うと、月江さんの表情からすっと感情が抜け落ちた。
「……なるほど。理解しました」
月江さんは小さく笑う。
その笑顔は、今まで見たどの表情よりも、冷たく、痛々しかった。
「一度デートをしてしまったから、もう私のことは捨ててしまったんですね……」
「なっ、捨てるなんてそんなこと……!」
「御船さんという……もっと明るくて、魅力的な、新しい取材相手を見つけたから……。でもそうですよね。私、暗いですし。門限も早いですし。経験豊富というわけでもありませんから……」
「ち、ちが──!」
違う、そうじゃない!
穂乃果といるのはただの偶然で、今日はほんとに違うくって!
私は月江さんを小説の道具として見たことなんて一度もないのに!
で、でもここで慌てて「実は穂乃果がバイトをしてるのを誤魔化すために~うんたらかんたら」なんて秘密をバラすわけにもいかない。
かといって適当な言い訳をするのも、かえって怪しい感じがしてしまう……。
「えっと……」
なんて説明しよう。
そう頭を悩ませていると──。
「わっかなー! 終わったよー! 待ってるねー!」
教室の入り口から、空気を一切読まない穂乃果の明るい声が響いた。
ここで穂乃果はまずい! やばい、早く月江さんのこの致命的な勘違いを解かないと、明日からの関係が終わってしまう……!
「つ、月江さん!」
私は眼前にあった月江さんの手を力強くぎゅっと握ると、逃がさないように彼女の目を真っすぐ見る。
「月江さんは、ただの取材相手じゃないから!」
「えっ……?」
「月江さんは、私にとって一番大切な相手だから! 私の一番だから!」
なんか言葉が空回りしてる気がする……!
で、でも本当のことだし。一番大切な相手なのは間違いないから……!
「一度デートしたから捨てるとかないし、フラれたからもう関わらないとかない!」
「え、フッてなんて──」
「月江さんは、すっごく魅力的な女の子! 可愛いし、すごく優しい! 私、もっとデートよりもすごいこと、月江さんとしたいって、思ってるから! ごめん、またちゃんと説明するからね! 私、大好きだからね、月江さんのこと!」
周りには聞かれてないよな……?
息継ぎも忘れるほどの勢いで捲し立てると、月江さんの瞳に熱が灯る。
「えっ……あっ、くるす、さん……」
さっきまでの青ざめた顔はどこへやら。
月江さんの白い頬は、みるみるうちに林檎のように真っ赤に染まっていく。
彼女は握られた私の手をきゅっと握り返すと、熱を帯びた、とろけるように甘い上目遣いで私を見つめてきた。
「……今日の夜、お話してくださいますか?」
両手を口を押さえて、小動物のように上擦った声。
「えっ? あ、うん! わかった!」
私は慌てて頷くと、なんだかふにゃふにゃしてしまった月江さんを残し、脱兎のごとく教室を飛び出した。
変な言い方になってしまったような気がするけど……気のせいだよね。
……いや、気のせいなわけないよな。何言ってんだ私!
と、ともかく誤解は無くなったと思う!
今はとりあえずそれだけで満足しておく……!
「穂乃果、お待たせ!」
私は廊下で待っていた穂乃果の横に並ぶと、勢いのまま「さぁいこう!」と放課後の街へと繰り出すのだった。




