ダイニマク
黄金の槍を肉体に突き立て、異形でこわれた化物へと変質した黄金のディロア。
対するは、黄金のハンマーの力を解放し、神話の雷神トールを彷彿とさせる巨像へと変貌したギルア。
「これが我のすべてだ……ギルアァァッ!!」
「……来いディロア。俺のすべてで、叩き潰してやる!!」
二つの黄金の力が正面から激突した瞬間。
マーディンの大地が悲鳴を上げた。
一撃ごとに山が削れ、地割れが走り、地形そのものが破壊というものに支配されていく。
メルのコピーとの死闘を終え、その場に座り込んでいたカフエリ達。
休む間もなく襲いくる衝撃波と土煙に、生きた心地がしなかった。
「にゃあ……あ、危にゃい! ここにいたら巻き込まれるにゃ!」
ネミルの叫びを合図に、カフエリ、フエン、カヨウ達は、ボロボロの身体を引きずり、神々の喧嘩のごとき破壊の渦から必死に距離を取った。
背後では、黄金の火花が空を焦がし続けていた。
一方、戦場の中心では、神々しく輝く杖を持つターメルと、フォードの歌声に鼓舞された
メルが死闘を繰り広げていた。
ターメルはメルの剣を杖で受け流しながら、その冷徹な瞳で背後のフォードを観察していた。
時の門番として、幾千もの歴史を覗き見てきた彼にとって、この世に知らないことなど存在しないはずだった。
「……不可解だ…メル。」
「私はあらゆる歴史の断片を見てきた。」
「……だが、あそこにいる『フォード』という存在だけは、どの記録にも存在しない」
ターメルは戦いながら、独白のように問いかける。
「お前が未来から、幼いカフエリとフエンを救うためにこの時代へ干渉した……。」
「その時に…本来あり得ない”歪み”が生じたはずだ。」
「私はそれを、あいつの誕生の理由だと思っていたが……」
だが、ターメルの予想は半分正解で、半分は外れていた。
フォードの正体は、歴史の歪みそのものではない。
かつてユウトが作り出した『分裂薬』によって、錬金術的にメルから分けられた”もう一人のメル”だったのだ。
「ターメル!そんな事を知ってどうする。」
綠炎の剣を構え睨みつけるメル。
メルは自分が決して弱いとは思っていない。
だが自分と戦いながら別の事を考えている。
ターメルに底しれない恐怖を感じていた。
そんな事を気にせずターメルは自らの思考を巡らせる。
そして現実は小さな歯車の少しのずれが大きく、そして異質な結果をもたらしていた。
それこそが、ターメルの計算を狂わせる唯一のノイズであるフォードだった。
「まぁ…いいかすぐに終る…。」
神の杖を掲げ嘲笑うターメル。
放たれる恐怖を必死で堪える、メルとフォード。
雄叫びをあげ敵へと剣を向ける。
その背後で仲間をこれ以上傷つけさせない…。
その一心で魂を削る様に奏でる聖歌。
それを聴いているメルとターメルは、
心の穢れが少しずつ…少しずつ、薄まる。
そんな気がしていた。
まるで黒い絵の具に一滴ずつ水滴が垂らされる様に…
そして、別の戦域でも決着の瞬間が訪れる。
黄金の槍の力を全開放したディロアと、命を燃やし尽くす一撃を放ったギルア。
「ヌオォォォォォ!!」
「ガハッ……!? 我が、我の肉体が……ッ!」
凄まじい爆発の後、静寂が訪れた。
ディロアは、自ら取り込んだ黄金の槍の絶大すぎる負荷に耐えきれなかった。
神の力に肉体が焼き尽くされ、黄金の輝きを放ちながら、その身は音もなく灰へと変わっていく。
かつて人間族の王だった男は、最後に野望の残り香すら残さず、風に消えた。
それと同時に、ギルアの巨像化も限界を迎えた。
「……やれやれ。じか……ん切れか…。」
能力の解放時間が終了し、ギルアの身体から光が失われていく。
巨大だった岩石の肉体が元のドワーフの姿にもどる。
ギルアは満足げに微かな微笑を浮かべたまま、崩れ落ちるようにその場に倒れ伏した。
残されたのは、変わり果てた大地と、いまだ止まぬフォードの歌声。
そして、片目を失いながらもターメルを睨み据える、メル一人であった。




