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フリカカルヒノコ



「お願いムーリス!死なないで!!」


ぽたぽたとムーリスへと落ちる透明で悲しみを帯びた雫。


どくどくとムーリスの右胸に

空いた穴から吹き出す赤いもの。


必死に塞ごうと右胸を抑える

小さな手が微かに震るえる

カフエリ。


「死なせない…絶対に。」


ありったけの魔力を込めて

癒しの炎をムーリスへと放つ

フエン。


手足が冷たくなり、自分の鼓動が早鐘の様に鳴り響く。


その度に激しい頭痛と吐き気が襲う。


カフエリとフエンの頬に冷たく優しい手が触れる。


「ふ…た、とも……あり…とう。」


その言葉を最後に、薄っすらと微笑み、眠る様に瞳を閉じるムーリス。


ムーリスの首筋へと、軽く触れ、俯き首を横に振るギルア。


それでもカフエリは、右胸を抑えている。


分かっていてもフエンは、

癒しの炎を滾らせる。


左脚を引きずり歩くカラ。


「もういい…休ませてやってくれ。」


二人の幼き子供を強く抱きしめ耳元に囁く。


強く…とても強く、手に爪跡が付くほどに握り締めるフエンとカフエリ。


泣き叫ぶ二人の声が、時折流れる風と共に静かに響く。


カヨウは、自分の羽織っている黒いローブをムーリスにそっとかける。


背中に携えた黒い翼を強く

羽ばたかせていた。


フォードの柔らかい手を強く

握り締めるネミル。


呼吸を整え、唄うフォード。


何処が暖かく懐かしい。


不思議な旋律がムーリスの肉体を優しく包み込むと光を放つ。


すると…、ふわりと揺らめき

激しく燃える紅い炎が現れる。


突如として唄うのを止めるフォード。


「……フエン、ムーリスが話したいって。」


両手を組み瞳を閉じて祈るフォード。


意識が遠くなると波の音が響く。


ふと気が付けば、フエンの眼の前では、色鮮やかな小さな魚達が自由に泳ぐ。


「ここ…何処?」


上を見上げると波打つ隙間から

光が差し込み、周りを見ると

一面に白い砂が広がっている。


こぽこぽと耳を塞ぐ様な水の音。


何故か呼吸をする度に口の中が塩辛い。


以前、絵本で読んだ海というものに凄く似ている。


「ごめんね〜フエン。」


間の抜けた、そしてどこか

優しい女性の声が聴こえて来る。


声のする背後へと視線を向けたフエン。


眼の前には無邪気に笑う

ムーリスが立っていた。


しかし足元には影が無い。


「ムーリス…ここは何処?」


涙の跡をローブの裾で拭い、いつも通りの口調で話すフエン。


そんなフエンを優しく、

そして……悲しげに見詰めるムーリス。


その視線に何故かメルと同じ

暖かみを感じ取る。


「…ここはね〜私だけの世界。」


「まぁ……走馬灯と呼ぶ人もいるかな〜。」


指先から透き通る、蒼い兎を

生みだして笑っている。


そんなムーリスを見ると

胸が張り裂けそうに痛い。


ずっと、ずっと、我慢していた感情が吹き出して止まらない。


「…ごめんなさい。」


「…私が弱いから……ムーリスを…。」


「メルを…止め…なかっ。」


昂る感情で言葉を上手く伝えれないフエン。


ムーリスはそっと傍に近づきしゃがみこむ。


フエンの背中を頷きながら

何度も、何度も、擦る。


「…なんで…なんで庇ったの?」


「…家族じゃ……無いし、血の繋がりもないよ。」


そんな言葉にムーリスが呑気な調子で答える。


「う〜ん…なんでかな〜?わかんない。」


「けどねぇ…理屈じゃないよ、フエン。」


「そうだな…あえて理由を付けるなら、大人だからかな〜。」


いつも通りのムーリスに思わず「答えになって無い。」

と返すフエン。


「フエンて〜面倒くさいね。」

そう言うとクスクス笑うムーリス。


足先をパタつかせ、爪を噛む

フエンの頬が少し歪む。


「いつもの、フ〜エン。」


フエンの髪を手でくしゃくしゃにして強く抱きしめた。


ムーリスからハーブの爽やかな匂いがする。


徐々にムーリスの身体が薄くなる。


「ごめんね…本当はさ…もっと色んな事、教えたかったけど…仕方ないね。」


「今から私の全てをフエンに渡すよ。」


激しく光るムーリスの右手。


フエンの額に当てると凄まじい量の魔力と知識が次々と意識と肉体に流れ込んでくる。


その情報量の多さに、吐き気をもよおし、溢れる魔力で心が

割れる様に痛い。


光が収まると小さな光の玉が

一つだけ残る。


フエンは、漲る力とムーリスの知識に驚きと恐怖を感じる。


見える世界がまるで違う。


今まで漠然と見えていた小魚達が小さな光の粒に見える。



息使い、鼓動、波長、それらの


点が線に繋がり動きがより

細かく分かる。


一つ残された光の玉を大事そうに抱えるムーリス。


「それは?」と聞くフエン。


見たことがない程に穏やかな表情を見せるムーリス。


「これは…みんなとの想い出だよ。」


「私の宝物なんだ…。」


「不器用な…あなたらしく生きてねフエン。」


ふと意識が戻るフエン。


「お帰り…フエン。」


フエンの乱れたローブを直すフォード。


「フエンちゃん…ずっとボーとしてたにゃ。」


ずっとフエンのほっぺを指先でつつくネミル。


「会ったの…ムーリスに。」


雰囲気が以前と、どこか違う事に気付くカフエリ。


カラは、ムーリスの亡骸を抱きかかえ、マーディンの入口から少し離れた場所へと運ぶ。


「ムーリス…この花好きって言ってるの聞いたから…」と

名も知らぬ赤い花を摘んで来たカヨウ。


無言で墓穴を掘るギルア。


一人分の小さな穴にそっと

ムーリスを置くカラ。


各々が土を両手に掬うと

冷たくなっているムーリスへ

と掛けていく。


最後はギルアが綺麗に埋めていく。


短剣の柄を持ち胸に当てるカラ。


「我らの祖国『ボールデン』に住まう古の神よ、気高き同胞、その御霊を精霊樹の元へと届けたまえ…。」


膝を地面へと付け祈りを捧げる。


カフエリ達も、カラの作法を真似をする様に祈りを捧げる。


フエンだけが、作法を知っているかのように動き、瞳を閉じて祈る。


ギルアが「これはマーディンの地酒だ…。」と墓にかける。


ムーリスを送り終えたカフエリ達。


突然フエンが森の向こうへ

「…用事はなに?」と話しかける。


がさがさと草を掻き分けて現れる人影。


顔半分がひび割れ、左腕がもぎ取られた意志を持つメル人形。


このメル人形はフエンの魔力を注がれ自分達の意思で動く。


そしてフエンはそのメル人形達に陽炎の町を守護するよう命令していた。


脚を引きずりゆっくりと近付く。


「フエン様…陽炎の町がミカリと名乗る者に襲撃され。」


「現在、ミレイ様が人質として捕まっております。」


「誠にもう……しわけ…。」


それだけ伝えると動かなくなる。

 

カフエリ達は、陽炎の町へと走り出そうとする。


それを制止するフエン。


「町へは私が…行くわ。」


「カフエリ達は精霊樹へ先に行ってて。」


そんな提案を勿論、否定するカフエリ。


拳を強く握り締めているフエン。


身体から漏れる魔力は、蒼く燃えるがとても冷たく地面も凍る。


「お願い…邪魔をしないで…カフエリ。」


「それに安心して…。」


「もう…誰も傷付けさせないし奪わせない。」


「たとえ誰が相手でも……ね。」


凍てつく氷の様に冷たく笑うフエン。


以前のどこか儚く壊れやすい子供とは違う。


破壊を楽しむ凶神に映る。


しかしその真意を知っているフォード。


何となくムーリスとのやり取りを理解しているカラ。


ムーリスとの約束を守る。


とても純粋で…そしてその為には、手段を選ばない覚悟。


幼い子供とは思えぬ笑顔を浮かべているフエン。


幼い子供が、本来背負うべきではない宿命。


それに挑む姿を心配そうに見ているフォードとカラだった。


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