ムオン
カフエリ達が『ギルアの洞窟』にたどり着いた頃。
カラに”足手まとい”という理由で陽炎の町に残された、二人の子供パルとマール。
落ち込む二人の頭を軽く撫でながら笑うムーリス。
「ごめんねぇ〜今は時間が無いんだ。」
「コレが、終わったらぁ行こうね〜。」
それを言われた二人は今
茫然と動かないミサキを眺めていた。
手を組んだまま、ただ呼吸だけ
をしている大好きな先生。
クレアがこのままだと手足に
拘縮が起きてしまうと悲しげに語る。
必死でゆっくりと手足を伸ばし動かす。
大きな砂時計をクレアはひっくり返す。
「…これで、次は飯だな…。」
ふらつきながら台所に向かう。
ミサキの看病を始めてから
寝ていないクレア。
時々胸が痛み、乾いた咳をこぼす。
クリエラが手伝おうとするが
どうしても自分がやるとの
一点張り。
断固として自分の意見を通す
。
恐らく、ノボルから傷付けられた姉に触れられたく無いのだろう。
それでも、アユムも心配して
みんなで協力して看病をしようと伝えてはいた。
それでも譲らないのには理由があった。
それは自らのスキル『酒分析』で、ミサキの状態を診察した時に知りたくなかった真実。
酒分析はクレアのスキル、純度の高いアルコールを摂取すれば、するほど、身体に起きている事が数値化されて頭に浮かぶ。
ミサキのお腹の中には今静かに鼓動を打つ別の命が宿っている。
そして…脳を削られ拷問された事により
ミサキの体内にある、白血球がかなり増加していた。
恐らく炎症によるものだろうが
体内の何かが原因の可能性が高い。
更に心臓の左心房が極度に膨れていた。
このままだと…後もっても
一月ほどでミサキの呆れ顔を もう二度と
見れなくなる。
唯一の救いはカフエリ達が
目指す精霊樹から取れる樹液。
『別名、奇跡の雫』
ありとあらゆる病気や怪我を直すと語り継がれる物。
小さな希望に、すがるしかクレアには残されていなかったのだろう。
姉を守り、必ずもとに戻す、
ただそれだけがクレアを
突き動かす動力源であった。
「クレアさん、僕達がご飯作るよ。」ふらつくクレアを支えるパル。
「俺たち…ご飯ならできる。」
仮面の様に笑顔が貼り付くマール、その瞳には暖かみを感じる。
「いや…おれがやる。」
自らを支えるパルを優しく退かすクレア。
そんなクレアを見て二人は今まで我慢していた感情が吹き出す。
「ミサキ先生は…僕を…僕達の……心を救ってくれた人なんです。」
ローブの裾を握りしめるパル。
「親が…目の間で殺されても
笑ってた俺をミサキは、否定しなかった。」
拳を強く握り締め笑うマール。
「だから力に…ミサキ先生を
助けたいんです。」
「…それに、クレアにも世話になったしな。」
純粋な瞳で、まっすぐに自分を
見つめる子供達。
ふと何かこぼれそうになる。
それをごまかす様に蜘蛛の巣が貼る天井を眺めるクレア。
「……ちっ…なら、おれの言う通りに飯を作れよ。」
二人を連れて一階の台所へと向かう。
◆◆
「おれが、渡すものを全部すり潰せ。」
そう告げるとすり鉢を二人に渡すクレア。
「ハイ!分かりました。」
にこにこしながら喜ぶパル。
「で…なにを擦るんだ?」
早く仕事をよこせと、言わんばかりにすりこぎを鳴らすマール。
そんな子供達をみて、少し笑みを浮かべるクレア。
台所の棚にある一冊の
『食物図鑑byミサキ』と表紙に手書きで書かれている本を取り出す。
「まさか、あの馬鹿の趣味が役立つとはな…。」
癖字の酷いページをめくる度に涙を堪え、歯を食いしばるクレア。
「たしか…あった、まずは滋養にマカラの花。」
ブツブツと独り言の様に呟き、棚にあるものをパル達に渡す。
二人はクレアから材料を受け取ると、一言も発さずにすりこぎでひたすらにすり潰す。
台所ではゴリゴリと擦れる音。
「わぁー、なんか泡が出てきましたよ!!」
「こっちからは…火が出ている。」
「い…良いんだよ。気にすんな!とにかく潰せ。」
そしてブツブツと呪文の様な言葉が聞こえてきた。
ずっと心配で様子を見ていたクリエラ。
アユムのいる書斎に走って行く。
◆◆
「良し…できた。」
鼻を突き刺す様な刺激臭が台所に
充満している。
マカラの木をくり抜いて作られた木の器に
出来た物を盛り付けた。
ベチャと音とともに紫色の何かが器へと流れる。
「これ、食べれます?」
時々ゴポッと紫色の何かから
する度に眉をひそめるパル。
「俺達は…言われた事をするまでだ。」
鼻を摘みむせるマール。
「あ…安心しろ。ミサキのレシピ通りに作った病理食だからよ。」
もう一度本を見直して笑うクレア。
「ビョウリショク??」
聞き慣れぬ言葉に不安を覚える
子供達。
クレア達はそれを持って
ミサキの寝ている部屋へと
向かって行った。
その様子をこっそり見ていた
クリエラ。
そしてクリエラに支えられながら歩くアユム。
あまりの刺激臭に恐る恐る台所を覗くと…。
壁一面に色とりどりの液体が飛び散り、調理道具はそこらに散乱している。
深くため息をするクリエラ。
「ごめんね。」と笑うアユム。
黙々と台所の惨状を片付ける
クリエラ。
その背中を見ているアユム、ただひたすらとクリエラに謝っていた。




