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カクセイ



ピンクのリボンが揺れる目隠しの中。


カフエリ達の世界は

見えぬ暗闇と分からぬ恐怖により一変した。


「……っ!」


カフエリの足が小さな石に躓きよろめいた瞬間。


湿った獣の鼻息がすぐ間近で聞こえた。


「ちっ…」と舌打ちをしながらフエンは

咄嗟にカフエリを庇う。


普段ならコボルトの一撃で退けられるはずのカフエリ達。


フエンの肩から血が流れる。


「ごめ…んフエン。」

鉄の匂いと生暖かい何かがカフエリの顔に

へばり付く。


視界を封じられた途端に

コボルト、その気配は実体を持たない

巨大な影となって二人をすくませる。


「来た、来たにゃぁ!」ネミルの声が響く。


彼女は鼻をひくつかせ、まるで見えているかの様に迫る、コボルトの爪を身体を捩って躱す。


そして軽やかな身のこなしでコボルトの

喉笛を手甲爪で切り裂いていく。


「獣風情が…私に近寄るんじゃないよ!!」


フォードを背負うカヨウもまた、苛立ち混じりにコボルトを足蹴にし、背中の重みを守るように立ち回っていた。


ネミル達とは違って全く動けないでいる

カフエリとフエンに短剣の鞘を、何度も抜き差ししながら苛立ちを見せるカラ。


「いいか…空気を聞け。匂いを肌で感じろ。そして……耳で見ろ。」


先を歩くカラの突き放すような言葉。


戸惑う二人に、ネミルが必死に助言を飛ばした。


「もう…。カフエリちゃんは耳! フエンちゃんは鼻! 全部じゃなくていい!」


「一つだけに集中するにゃ!」


その言葉をきっかけに、カフエリは雑念を捨て、深く深呼吸をして鼓動を整えていた。


(耳で……見る……)


すると、風の鳴る音の裏側に、土を踏みしめる”ズサッ”というわずかな振動が混じる事に気づく。


フエンの鼻もまた、湿った獣臭の中に、

仄かに香る独特な気配。

鼻の奥にピリピリと針を刺すような感情の揺らぎ。


コボルト達が放つ殺意の匂いを感じとる。


「あんた達は、考えすぎなよ!」


フォードを背負い直しながら、カヨウが

皮肉たっぷりに鼻で笑う。


「本能で動きなさい。」


「頭で理解しようとするから足が止まるのよ!」


その刹那、二人の感覚が何かを掴み弾けた。

草木を分ける音、仲間の体温、そして襲いくる魔物の殺気。


それらが一つの線となって脳裏に鮮やかな輪郭を描き出す。


「…そこ!」


カフエリの放つ一撃が、目隠し越しに

コボルトの眉間を捉えた。


「…いけ。」


隣ではフエンが匂いだけで敵との距離を

完璧に測り、正確な一撃を見舞う。


肌をなでる空気の揺らぎが地形を教え、

仲間の位置を光のように伝えてくる。


「あっ!着いたよぉ~、みんな! 到着ぅ~。」


ムーリスの暢気な声とともに、足元の感触が柔らかな土から硬い岩肌へと変わった。


「もう、外してもいいよ~」


穏やかに笑うムーリス。


許可が出た瞬間、カフエリ達が

目隠しを剥ぎ取る。


そこには朝日を拒絶するように口を開けた巨大な岩穴『ギルアの洞窟』がそびえ立っていた。


「…やっと…たどり着いた……。」


息を切らし笑うカフエリ。


黙々と肩の傷口を消毒するフエン。


「にゃ…はは、スッゴい疲れた。」へたりと座り込むネミル。


「これぐらいで…あんた達、体力無いわね。」


汗だくで笑い虚勢を張るカヨウ。


実は24時間以上も目隠しをして道中を過ごしていた。


常に神経と精神を張りつめた状況では、

体力と精神の消耗は著しく激しい。


その上で冷静に行動できるのかを

カラは確かめていた。


目隠しを取っても洞窟の中にいるもの。


遠くにいる数多くの生物。


その小さな息遣いと気配が手に取るように分かる。


カフエリ達の瞳には、未知の感覚を手に入れた者特有の鋭い光が宿っていた。


「やっと~基本を覚えたね。」


背筋を伸ばし笑うムーリス。


カラは短剣を鞘に収め、鼻で笑いながら暗い洞窟の奥を見つめた。


カヨウの背中で、フォードは

熱にうなされながら、目を開ける。


その視線の先には、いつもと変わらぬ

仲間達がいた。


だが…苦難を乗り越え前へ進み続けた仲間達の、背中が一回り大きく見えた。




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