表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/106

フレテハイケヌモノ



目に映るもの全てを石化させる魔物コカトリス。


その巣にある卵を手に入れなければ

霊妄の雲海を通る事など出来ない。


ふと何かに、気が付くミレイ


「カラ達も、霊妄の雲海を通るのにコカトリスの卵を使ったのよね。」


「その卵をどうやって手に入れたの?」


視線をカラへと向けた。


手を前に組み深くうつ向くカラ。


「コカトリスは聖なる魔力を持つエルフには牙を剥かない。」


「そして清らかなエルフだけが聖なる魔力を持つ。」


「以前の私達も、清きエルフだった。」


「だが……今は。」


震える左手を必死で抑えるカラ。


二人は支配の種により自我を奪われていた頃を、思い出したのだろうか…。


楽天的なムーリスの笑顔も

何処か寂しげに映る。


あの無神経なロウガでさえ

この重々しい空気を察して口をつぐむ。


そんな空気を切り裂く怒声。


「だぁ~っ!こらぁ止めろ!!」


どたどたと足音が聞こえる。


ケタケタと笑いながらクレアの眼鏡を

持って走るネミル。


「それねぇと、見えねぇから!」

息を荒くして走るクレア。


「こんなの掛けて見えるの?」


眼鏡を掛けて笑うネミル。


「もう…ネミル!」


風の精霊を呼び出しネミルを

捕まえようとするカフエリ。


「ネミル、始末……する。」


個人的な恨みを込めた魔力を、右手に集中させてネミルを狙い放つフエン。


ネミルは雲の様に不規則な動きで二人の猛攻を器用にかわす。


魔力の玉を外す度に舌打ちをするフエン。


「そう……なら…これで終わり。」


両手に集めた魔力を身体の中心に集中すると弾けさせた。


無差別に飛び交う衝撃波と破裂音。


砂埃が舞い上がりクレアはむせる。


ドサッ、ドサッ、と倒れる音がする。


「にゃはは!それじゃ無理だよフエンちゃん。」


ネミルは咄嗟にパルとマールを盾にして攻撃をかわしていた。


「何で私まで攻撃するのフエン!?」


風の剣でフエンの攻撃を全て弾くカフエリ。


「そこにいるのが…悪い。」


全く反省の色が見えないフエンにプツンと何かが切れたカフエリ。


「……そうなの、じゃあ。」


風の精霊で作り出された剣を振り回しフエンへ幾多もの鋭い風の刃が襲う。


魔力の障壁でそれを防ぐが

残りの刃がフエンの背後にある建物を次々と切り刻む。


目つきがスッと鋭くなり全身から

炎を帯びた魔力がフエンを包みこむ。


冷酷な笑みを浮かべ見下すフエン。


「邪魔するの?カフエリ。」


風の精霊で全身から吹き荒れる熱い風が

カフエリを包みこむ。


姿勢を低く前屈みに剣を構え睨むカフエリ。


「あなたはいつも、やり過ぎなのよフエン。」


二人の凄まじい戦気と魔力で空間が歪む。


その様子を見ていた

カラとムーリスは精霊族に古来から伝わる

伝承『風王の剣士と炎極の覇王』の一節を

思い出していた。

▪▪

それは世界の終わりが近づいた時。


風を支配する王と炎を支配する王が現れる。


その者達は全てに属さぬ力が

悪しきものへと形を変えた時。


唯一と対抗できるものである。


新たな属さぬ力を導き、終焉へともたらす

使者となり再生の導き手となろう。

▪▪


「おい!メル、あの娘達を止めろ!」


「あぁ、分かった。」


慌てふためくアユム達を横目に


かつて、森の叡知と呼ばれたムーリス。


そして精霊族最強と称えられた

精霊樹の守護神カラ。


二人は己の為さねば成らぬ宿命を感じていた。


幼きエルフと幼き魔族の強力で異常な力が、拮抗し歪んだ空間を更にねじ曲げる。



『閃極風斬』

カフエリの放つ細く圧縮された大気の塊が全てを切り裂こうとする。


『ゴクエン』

フエンの両手から、赤黒い熱を

帯びた、巨大な炎の玉がその場にあるもの全てを焼き付くそうとしていた。



メルは右手に綠炎の剣、左手には綠炎の矛を生み出し、全力の技を使おうとしている。


凄まじい稲光が堕ち、周辺5キロ圏内が激しく揺れる。


タイミング悪く更なる災難が訪れる。


「メル!!きさまを闇に染めようと悠長な事は言わない。」


「今、この場で取り込んでやるよ!!」


以前は若々しく威厳のあったノボル。


今は痩せ細り目の下に深い隈と

皺が全身を覆う。


綺麗な黒髪も真っ白に染まり

まるで老人のような姿になっていた。


そして右手に掴んでいた何かをメルの足元へと、無造作に放り投げる。


それは、翼をもがれ瀕死のカヨウであった。


「ご…めん…メル、失敗しちゃった……。」


舌を出し、頬を伝う涙。


そっと駆け寄るフォードは"子守唄"のような穏やかで優しい旋律を口ずさむ。


カヨウの傷が癒されていく。


それを見ていたメル。


静かにそして冷たい感情がメルを蝕む。


怒りを越えた怒りでノボルは、叫ぶ。


「もう世界なんてどうでも良い!」


「みんな、消えてしまえば神も現れるだろう!」


『創造【黒い太陽】』


質量の全く異なる異常なまでの大きさをほこる溶岩の塊を自らの頭上へと創造し造り出す。


ユウト達はノボルから距離が

かなり離れているのに肺と眼球が

焼けつくように熱い。


カフエリとフエンは蓄えた力を

ノボル目掛け放つ。


二人の風と炎の力が混ざり合い

激しく燃える美しい蒼い光の炎となる。


破裂音と衝撃が宙に浮く

陽炎の町を激しく揺らす。


しかし、ノボルの圧倒的な質量を持つ黒い太陽の前では、ノボルの体勢が少しぐらつく程度にしか効果がない。


だがその一瞬の隙を付き

メルが最大の技『無限化合暝法【キラードーム】』を放つ。


虹色に輝く斬撃は、全ての属性抵抗を一切無視したメルの最強奥義。


光の速度で突進してくるメルに

ノボルは黒い太陽を落とす。


周辺に存在する全てが一瞬で

灰も残らずにこの世から消え去る。


ゆっくりとそして確かに香る

死の臭い。


黒い太陽へと近づくにつれ

プスプスとメルの肉体を焦がす。


溶けるような熱を帯びた空気を吸い込み肺も焼けただれる。


吐き出す血液ですら一瞬で蒸発してしまう。


本来ならば激しい痛みで失神する筈のメル。


だがノボルへの激しい怒りが

その痛みと苦痛を快感へと変えた。


メルが放つ執念の一撃は

黒い太陽を打ち砕きそのまま

ノボルを一刀両断する。


ゆっくり地面に落ちる右と左へと別れたノボルの哀れな塊。


メルの上半身がほぼ炭の様に

黒くなっていた。


酷い火傷でそのまま意識を失い落下して

地面に落ちる。


だが地面にぶつかる瞬間に

ロウガが受け止めた。


メルの身体を揺さぶるロウガ。


「おイ!メル起キろ!」


指先一つ動かす事すらメルは

出来ない。


「ロウガ!むやみに動かすな!」


フエンの炎の巨鳥に乗っているクレアが遠くから叫んでいる。


メルの傍でゆっくりと降りる。


酒を飲みながらクレアはメルの診察を始めた。


「チッ、肺が完全に焼けちまってる。」


「暝砡の血で、かろうじて心臓は動いてるな。」


「おい!ユウトありったけの

回復薬、持ってこい!!」


錬金釜を背負うユウト。

「分かってます!今、最高のものを出しますから。」


ピーと蒸気が出る錬金釜から


30本程の瓶に詰まった金色

に輝く液体を取り出す。


1本を開けるとメルの口へ、

流し込むが飲み込めずにすぐに

吐き出されてしまう。


「くそ!ユウト1本、よこせ!」


クレアは、一か八かで金色の

回復薬を口に含むと魔力を込めてメルの口に注ぐ。


ほのかに不快な炭の苦い味が

クレアの口に広がる。


金色の回復薬がクレアの魔力により口の中で気体となり吸収しやすくなる。


メルの呼吸が、徐々に安定してきた。


「よし……呼吸がおちついて…。」


メル達の様に、戦闘向きではないクレアはその場で倒れてしまう。


ユウトの強力な回復薬はクレアの少ない魔力で中和するには限界があった。


「なるほどねぇ~、そんな方法があるんだ。」


ムーリスが金色の薬を口に含むと先ほどのクレアと同じ様にメルの口に注ぐ。


メルの焼けただれた皮膚の下に新たな皮膚が出来てきた。


炭化したメルの顔も徐々に

元の姿に戻って行く。


「ノボルは…どうなった?」


メルの意識が戻る。


先ほどまで、真っ青な顔で

震えていたカフエリとフエン。


メルの傍に近付くと涙が溢れる。


「メル、死んだら許さないから!」メルの胸で叫ぶカフエリ。


フエンは、ただ静かに強くメルの手を握っていた。


それを見ていたロウガ。


「よく、ナクなおまえ達は…。」と無作法に笑う。


ミレイがそんなロウガの腹を

思い切り殴り、痛みでロウガは悶える。


カラは思わず笑ってしまう。


「終わった…。」


深くため息をつくメル。


しかしまだ終わっていなかった。


黒い液体がメル達に降り注ぐ。


咄嗟にクレア達を残された魔力で吹き飛ばしたメルは黒い液体に包まれる。


「はは…油断したね、メル。」


「これで終わりだよ。」


不気味に蠢く液体からノボルの声がする。


悲痛な叫び声をあげるメル。


黒い液体はメルの体内へと入って行く。


薄れ行く意識の中でメルは伝えたい言葉を叫んだ。


「カフエリ!フエン!未来にいるメルフォードを救え。」


「俺と同じ力を持っている。」


「二人ともずっと…仲良くするん……だぞ。」


「あい…してい…。」


メルの紅く優しい瞳が暗く淀む。


「ふはは…これが暝砡の力か……。」


取り込んだメルの肉体から

無限にも近い魔力が溢れてくる。


暝砡の肉体を取り込んだノボルは最強の力を得た。


「やっと…やっとあいつに復讐できる!!」


「もう、君達には興味が無い。」


それだけいうとメルの持つ漆黒の翼を広げ飛ぼうとする。


カフエリとフエンがそれを阻み

村正とアルテミスの弓を呼び寄せた。


(久しいな、我が主君よ。)


「村正、あいつを止めて。」


(あっれ〜フエンちゃん少し変わった?)


「あいつから……メルを取り戻す。」


村正を強く握り締め地面を蹴るカフエリ。


宙に飛び『瞬閃』をノボルへと放つが指先で軽く弾かれる。


「ふっ、遅いなぁ。」


アルテミスの弓にフエンは魔力を込めて放つ一撃。


『エン』


炎の巨大な玉が幾重にも

降り注ぐがそれを笑いながら

片手で吹き飛ばす。


『フレイム』


だが、それを囮にして燃え盛る炎の魔人を抱き付かせ自爆する。


凄まじい威力の爆発にも傷をつける事が出来なかった。


「なんて弱い…弱者だよ君達は…。」


「お礼に、消してあげよう跡形もなくね…。」


「創造【黒い太陽】!」


ノボルの声が虚しく響き、何も生まれてこない。


「何故、なぜ”創造”が使えない!」


腹を抱え笑うクレアがノボルに皮肉を込めて言い放つ。


「てめえは阿保だよ、ノボル。」


「暝砡の血を、研究してんなら気づけよ。」


「封印の力を持つ、暝砡の血を取り込んだらスキルは使えねぇよ!」


「改めて言うわ……この大馬鹿野郎!」


それを聞きノボルは額に太い青筋を

幾重にも浮かばせ、クレアを睨みつける。


「そうか。」と一言呟くとクレア目掛けメルの技『死閃』を繰り出す。


ギャキーンと金属の擦れる音と共に吹き飛ぶカフエリとフエン。


ノボルは指先から流れる血を舐め、「よく防げたね。」と不敵に笑う。


その表情がメルと重なり、フエンとカフエリは怒りと悲しみが複雑に混ざる不思議な感情を覚えた。


「メルの身体で、メルの力で誰も傷付けさせない!!」


カフエリとフエンが圧倒的な

強さを誇るノボルの前に立ちはだかる。


その捨て身の威圧感に少し圧倒されるノボル。


「ふぁ~なんかやる気、失せたよ。」


そう言うとノボルは霧となり消えていく。


大切な人を失ったカフエリとフエン。


メルの羽織っていた漆黒に染まるマントの

破片を握り締めて空を睨みつけた。


陽炎の町の神殿では深い眠りについていた

フグエルレンの肉体が消えていく。


想い出だけを残して……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ