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ワタシガイル


「霊妄の雲海を越える方法を、教える。」

と短剣の柄を触りながら話すカラ。



「意外とね…。簡単な理屈なんだよ。」まだ眠いのかまぶたを擦り欠伸をするムーリス。


「いいカラはヤく、方法を話セ。」


椅子にふんぞって座る、ロウガは腕を組み、足を小刻みに揺らす。


ロウガの態度に少し苛立つムーリスは、ふわっと立ち上がる。


ムーリスは、艶かしく腕を背後から、ロウガへと絡まし耳元で暖かい吐息を漏らし囁く。


「お、し、え、てあげる。あのね……コカトリスの卵が必要なのよ。」



ダークエルフの甘く危険な香りと背中に触れる柔らかく暖かいものが、ロウガを慌てさせる。


先ほどまで横柄な態度であったロウガ。


表情が強張り、間近にいる

ムーリスと視線を合わせられない。


「ムーリス!ロウガ殿をからかうな。」


カラに注意され、ふてくされるムーリス。


奥の壁にもたれ静かにたたずむメルに、

瞳を潤ませて視線を送り、何かを訴える。


眼を細めたメルは、ムーリスに手招きする。


そして幼きフエン達と同じ様に頭を優しく、撫でなだめていた。


満足そうに微笑むムーリスであった。


一連のやり取りに冷たい視線を感じたユウト。


背後には険しい表情のミレイがいる。


話しが一向に進まないので

ミレイは銀色の尾をたて鋭い爪をカチカチと鳴らしていた。


「え、え〜と……カラさん。コカトリスの卵があれば、霊妄の雲海を通れるのですか?」


話の本題へと必死に戻すユウト。


「あ、あぁ…そうだ。コカトリスの卵には死の気配が詰まっているからな。」


「それを、身体にかけて死を偽装する。」


ユウトの恐怖を直ぐ様に感じ取るカラ。


クリエラに身体を支えられながら歩いて来たアユム。


「確か…コカトリスはギブルの洞窟にいたっけかな。」


「霊妄の雲海に行く途中にあるし、ちょうど良いね。」


「知り合いのドワーフがいるから連絡しとくよ。」


全長5センチ程度の黒いミニバイクに勇ましく乗り股がるリトルゴーレム。


アユムから手渡された手紙を

抱え爆走していく。


「でも……コカトリスは危険な魔物よ。」


「コカトリスに睨まれたら、一瞬で石にされてしまうわ。」


頭を抱え「ですよね……。」と

ユウトは悩んでいた。


重い沈黙が流れてゆく。


一方その頃……。


メルから生まれた銀髪の女性を任された

クレア達。


子供達の無邪気な行動に振り回され

疲れ果てた大人が一人。


クレアは己の体力が衰えているのを痛感していた。


◆◆


「それじゃ!クレアさんその娘お願いしますね。」


それだけを伝え、そそくさと

カラ達の話しを聞きに行くユウト。


「ちょ、ま…。行っちまった。」


肩を落とすクレアの背中に甘えへばり付き

銀髪の女性が「ママ…迷惑?」と

哀しげに首を傾げる。


「しょうがねぇか…。」


今まで感じた事の無い感覚。


銀髪の女性を見る度に心がほかほかと

暖かくなるクレア。


「あたしにも、母性愛ちゅうのがあったのか……。おもしれぇな。」


そんな事を呟き、不気味な笑みを浮かべていた。


それを見ていたカフエリとフエン。


底知れぬ違和感を感じて、思わず後退りしてしまう。


「あのさ…この人の名前は、何て言うの?」


パルの何気ない一言で思わぬ

災難が訪れてしまう。


だがその事をまだ誰も知らない。


銀髪の女性に名前を聞くと「名前は無いの…。」と寂しそうに話す。


その言葉で先ほどまで、退屈そうにしていたネミルの瞳が怪しげに光る。


「ねぇねぇ、良いこと思い付いたよ。」


「この人の名前みんなで考えない?」


「それで選んで決めてもらおうよ。」


それを聞いた銀髪の女性は太陽のような目映い笑顔で「ありがとう」と喜んでいた。


「じゃあ、私たちも考えるわね。」


「後、だらだらと決めるのも良くないから、夕日が落ちるまでに決めるわよ。」


カフエリが取り仕切る様に

ルールを定めた。


各々が新たな名前を考えている。


腕を組みながら天井を眺め良い案を思案する者。


外で散歩しながら考える者


はたまた占星術を駆使して決めている者など


様々な方法で考えていたが……。


誰も良い名前が浮かばない。


すると何かきっかけが欲しいと

ネミルは耳をぴくぴくさせて

銀髪の女性に質問する。


「ねぇねぇお姉さん!」

(なに?)

「好きなものって何?」

(えっ…。)

「色は何色が好き?」

(あ…。)



銀髪の女性はネミルから

矢継ぎ早に質問攻めをされ

怖くなって逃げてしまう。


その行為が獣人族であるネミルの本能を、

より強固に目覚めさせてしまった。


「待ってよ!どこに逃げるの~。」


黄色く光るネミルの瞳が獲物を見つけた。


すると瞳孔細く長くなり、より動きが鋭くなる。


白い壁を蹴り宙を舞うネミル。


ネミルが目にも止まらぬ速さで

銀髪の女性の前へと回り込むが

さっと躱し更に逃げる。


ガシャーン!バリーン!


何か壊れる音がそこかしこから聞こえて来る。


ビリッ!!「あぁ!!!!」


フエン達の寝室がある方向からネミルの声が

聴こえてきた。


嫌な予感がするフエンは声のした寝室へと入る。


そこに青ざめたネミルが

破けた背負い袋を掴み呆然としている。


その破けた背負い袋を見たフエン。


ぶちっと音がすると眉間に

太い血管が浮かび急に天候荒れる。


フエンの大切にしていたメルが買ってくれた、花の刺繍がしてある背負い袋。


カフエリは以前のガッコウでの出来事。


マールが背負い袋に触れようとしただけであれ程の怒りを露にしたフエン。


破壊してしまった事による

最悪の事態をカフエリは想像していた。


村正を構えフエンの様子を見ていたが

思わぬ行動をとる。


破けた背負いを抱きしめ

声も出さずにでポロポロと涙を流し、

その場にへたりと座り込んでしまう。


それと呼応する様に本来、砂漠地帯では絶対にあり得ない大粒の雨が降る。


ネミルが「フエン、ごめんなさい…。」と

謝っているが激しい雨は収まらない。


すると何処からか透き通るような

歌声が聴こえてくる。


クレアが窓から声のする外を

覗くと銀髪の女性が精霊達と

心を触れ合わせ声を奮わせ奏でていた。


その歌は『鎮魂歌』聴く者の心暖かく包み、癒していく。


不思議な事に銀髪の女性を

中心に、色とりどりの草花が咲き始め、

甘く優しい香りが広がる。


徐々に心が穏やかになっていくフエン。


大粒の雨も収まって虹がうっすらと空に映る。


その歌を聴いていたマールとパルは過去の

幸せな記憶。


失った家族を思い浮かべ

涙が勝手に瞳から溢れる。


急に歌う事を止めた銀髪の女性。


「魂が…少し悲しいって、揺れてる……。」


ボソッと呟くと風の精霊に運ばれクレアの元に戻ってきた。


「こっち…こっちに来て、クレア。」


二階の寝室がある方へとクレアの手を引っ張る銀髪の女性。


ミサキの眠る部屋へとたどり着く。


ベッドで眠る様に寝ている

ミサキを指差す。


「この人の魂が「さよなら、ごめんね」て言ってる。」


真っ直ぐにクレアを、見詰め聞く銀髪の女性。


「そうか…。」と動けないミサキの髪を撫でる様にかきわけていた。


「Sie ist fort …。(ズィー・イスト・フォルト)」

『彼女はここにいない。』


ボソッと溢れるクレアの言葉。


その響きを気に入ったのか

「私、フォードが良い。」

とクレアに伝える銀髪の女性。


「…フォード?それじゃあ、男みたいだろう。」


「おれの名字やるよ。」


「フォード・クラウディアならまだましじゃねえか?」


「フォード・クラウディア……うん気に入った!」


フォードは自らの名前に喜びを感じた。


初めて、この世界で産まれたという実感。


命の芽吹きを感じていた。


あまりに壊れそうなクレアを

抱きしめフォードは伝えた。


「私がずっとクレアの傍にいる、ミサキを諦めないで。」


照れくさそうに舌を出すクレア。


「ケッ。女に言われてもなぁ…。」


そう言いながらもフォードの銀色の髪を愛おしそうに撫でていた。


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