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イツワリ



深く暗い静かな時間。


ほんのり光る満月が少し紅い。


小さな寝息がメルの耳元から

聞こえる。


疲れたメルは、自分達の部屋で

少し休むつもりでいたが深く

寝てしまったらしい。


フエンとカフエリの穏やかな

寝顔に微笑むメル。


何故だろうか?


己の穢れが浄化されている

ような気かしていた。


メルは二人を起さぬ様に

ひっそりと部屋から抜け出す。


これからメルの最も忌み嫌う事を行わなければならない。


腑抜けた自分の頬を思い切り拳で殴る。


その勢いで折れた奥歯が床に転がる。


中央広場へと急ぎ向かうメル。


その後ろを二つの小さな影が

追いかけようとするが…。


「カフエリ、フエン、イくな。」


重々しい声で二つの影の動きを制止する。


ビクッと肩をすぼめる二つの小さな影。


「びっ、ぴっくりさせないでよロウガ。」


大きな瞳をぱちくりとするカフエリ。


「何故…。メルの後を行くのが駄目?」


頬につたうよだれの跡を袖口で拭うフエン。


腕を組みため息するロウガは

幼い二人に目線を合わせ話す。


「こレからメルは、悪い、嫌ナ事をすル。」


「お前達にダけハ、それヲ見られタクない筈ダ。」


禍々しく紅く光る瞳。


その奥から伝わる想いを、

嫌でも感じとってしまった

カフエリとフエン。


恐らく二人はメルが何をするのかなんとなく感づいている。


ロウガは二人の肩を掴むと

それを身体の震えから汲み取れた。


「それでも…私は。メルの所に行く。」


「メルの…邪魔はしない。」


ロウガの手を振り払い真っ直ぐに見上げ睨む二人。


根負けしたのかロウガは

「ナラ…。メルには気づかレるナよ。」


そう言うと二人の跡を付いて行くのであった。


◆◆


中央広場では、眼を塞ぎたくなるような凄惨な光景が、メルを襲う。


何処かで住人達の良心を信じていたのかもしれない。


だがそう仕向けたのはメル自身。


歯を食い縛り感情を抑える。


十字架にくくりつけられたカヨウは、右耳を削がれ。左目を潰され。中指は切り落とされていた。


更に全身に何度も、何度も

何度も殴られた跡があった。


(まだ…魂に揺らぎがある。)


頬を歪め、虫の息であるカヨウの前髪を掴み上げるメル。


「まだ生きていたか…。カヨウ。」


「…な…んのよう?」


メルに唾を吐きかけるカヨウ。


ペチャリと血が混じるものが

メルの頬に張り付く。


静かに微笑むメルはカヨウの

小指をへし折る。


悲痛な声無き叫び。


「お前と契約をしようと思ってきた。」


「このまま朽ち果て死ぬか、俺の眷属となるか選べ。」


メルの紅い瞳が妖しく光りを放つ、まるで血の様に紅いルビーように…。


「私は…。ノボル様を信じている。」


「きさまの様な化物の眷属になどならない。」


カヨウから必死に紡がれた言葉を聞き高笑いをするメル。


「…そうか。なら一つ聞こう。」


「カヨウ、何故ノボルは助けに来ない。」


「まだ、陽炎の町は結界が修復出来ていない。」


「不思議だとは思わないか、カヨウ?」


カヨウの傷ついた耳を暖かい炎で癒す悲しげなメル。


何故か頬をから何かが伝うカヨウ。


「何故?傷を癒す…。メル。」


その問いに対してカヨウの頬に伝う涙を指で拭いメルは答える。


「それは、カヨウが俺の仲間だからだ。」


その答えに思わず吹き出すカヨウ。


「私がメルを裏切ったのに?」


「仲間の命まで危険に晒しても?」


そんなカヨウの言葉にもメルは

信じられない言葉を返す。


「ノボルが…。怖かったのだろう?」


「生存本能は……。誰にでもあるからな。」


淡々と答えるメル。


急に醸し出す空気が変えた。

慈愛に満ちた声でカヨウに甘い言葉を囁いた。


「俺は、仲間を傷付けない。」


「だが……どんな理由であれ、カヨウのした事も許されない事だ。」


「一緒に、その罪を償おう、カヨウ。」


その言葉を聞いたカヨウは

「ありがとう…メル。」とだけ言い残し息を引き取る。


十字架にくくりつけた手足の紐を切り裂きゆっくりとカヨウの亡骸下ろしたメル。


カヨウの表情はとても穏やかで憑き物が取れていたかの様だった。


カヨウの口に自らの血を流し込む。


亡骸の形が変わる。


背中に黒い翼と漆黒の尖った尾。


紅い髪と瞳が満月に照らされ

妖しく妖艶に映る。


時折、口から覗かせる牙が魔物だと感じさせた。


遠くで気配を消して息を潜めるロウガ達。


「あれ…"サキュバス"じゃネェか?」


「えっ、サキュバスて『夢魔』の?」


「多分…。だと思う。」


ひそひそと樽の影から話していた。


変化が収まると、自らを強く抱き締め悶えるカヨウ。


「メル。あなたの…全てを私が食べてあげる。」


メルの首筋を指でなぞるカヨウ。


「まずは、何をすれば…。ご褒美をくれるかしら?」


カヨウの手を抑え抱き寄せるメル。


「ノボルから『支配の種』を取り除く方法を、聞き出して欲しい。」


メルの頬に悪魔との契約の様な口づけを残す。


「良いわよ…やってあげる。」


樽の影ではカフエリとフエンが苛立っている。


「渡した『ナイトメア』の力を上手く使えよ。」


メルの言葉にクスッと笑い飛び立つカヨウ。


完全にカヨウの姿が見えなくなると地面に

座り込み急にえずく。


肩を震わしメルの瞳からポロポロと涙が溢れる。


理由は何故なのかわからない。


それと同時に寝ているカラとムーリス、

そしてミレイからも涙が頬を伝う。


フエンとカフエリは、今にも

壊れそうなメルを見て胸が苦しい。


ロウガだけは、満月を見上げていた。



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